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窓から陽の光が差し込む。今日も君は僕の腕の中ですやすやと幸せそうに眠っている。昨日起きたことが嘘みたいだ。

君が目を覚ますまでの間と、君が夜眠りについてから朝までの間は、僕は依頼を受けた劇団の脚本を執筆する。少しでも君といる時間を大切にしたいからだ。いつからかそんな日々が日常となっていた。今日も仕事がひと段落ついたタイミングでマグカップにインスタントコーヒーを注ぎ一服していると、君は目を覚まして僕の方へと近寄ってきた。

「おはよう。」

手を目に擦りつけながら、君が口を開く。まだ眠そうだ。

「おはよう。ぐっすり眠れたかい?」

「うん。おかげさまで。昨日は本当にごめんね。」

「大丈夫。君はなにも悪くない。悪いのは全部病気のせいだよ。」

「ありがとう。本当に君は優しいね。」

「そんなことないよ。僕は君の側で寄り添ってあげることくらいしかできないんだから。」

そうやって言いながら、僕は君になにもしてあげられない非力さに憤りを感じた。

「それだけで充分だよ。本当にありがとう。」

本当に優しいのは君の方だ。今までも、そしてきっとこれからも、君は僕に文句ひとつ言わずに寄り添ってくれるんだろう。

「コーヒー、一緒に飲む?」

「うん。ありがとう。いつものやつ。わかる?」

「もちろん。砂糖とミルク多めだよね。大丈夫だよ。」

冷えきったやかんに火をかけて温めなおして、君専用のマグカップにインスタントコーヒーを注ぐ。砂糖は大さじ3杯。ミルクとコーヒーは1:1の割合で。君だけのスペシャルブレンドの完成だ。「お待たせ致しました。こちら、僕特製のスペシャルコーヒーでございます。

「お待ちしておりました。いつもありがとね。」

そう言ってマグカップに口をつける。

「甘くておいしい。やっぱり君の作るコーヒーは天才だよ。」

熱々のコーヒーが入ったマグカップを手で包み込みながら、少しずつ飲んでいる姿を見て、今日も君が生きていてくれていることを実感する。

そこから暫く会話はなかった。黙々と、時折見つめ合いながらコーヒーを飲む。テーブルの隅に飾っているマリーゴールドと並ぶ君の姿には、何度見ても見惚れてしまう。

「そういえば、今日は病院に行かないとだよね。何時ごろに行く?」

「ごめん。今日はお昼から予定があったこと忘れちゃってて…また明日でもいいかな?」

「そうだったんだ。もちろん僕は大丈夫だよ。君は明日でも大丈夫なのかい?」

「うん。私は大丈夫。ごめんね。」

君は僕とデートをする日以外、昼から夕方頃まで外に出かける。君が家にいない空白の時間が、僕の睡眠時間だ。仕事をしていないはずの君が、どこに出かけているのかはわからない。興味が無いわけではない。ただ言えることは、君を信頼している。君も同じように、僕を信頼してくれている。僕がなんの仕事をしているかなんて、君はいまだに知らないままだ。それでいいんだ。

信頼しているからなんでも話せるなんてよく言うが、僕はそうは思わない。心から信頼し合っているからこそ、何も話さなくていいのだ―――。

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