「ちらぁ♪」
突然現れた少女、雪乃に、男の腕の中にいたチラーミィは嬉しそうに尻尾を振った。
現れたのは、小柄な少女。
しかし、一瞬で自分より大きな相手を捻り倒した。
油断はできない。
「ベトベター、ヘドロばくだん!」
「ラッタ!かみつく!」
男子2人が一斉にポケモンに指示を出す。
ポケモン2匹からの攻撃を、雪乃は木を蹴り華麗に避ける。
「おーい!こっちや!」
更にもう1人、顔に紙を貼り付けた人物が正面から現れる。
男たちはそちらに気を取られた。
余計なことを、と雪乃は木の上からロボロを見た。
「パモ!でんきショックや!」
ロボロは肩に乗っていたパモに指示を出す。
「パァ〜モォッ!!」
パモの技、でんきショックは2匹のポケモン、ベトベターとラッタに向かっていく。
痺れた2匹の動きが鈍る。
その隙に雪乃は男子生徒の腕の中からチラーミィを取り返した。
「あれ!?いない!」
「何やってんだ!」
腕の中にチラーミィがいないことに気付く男子。
「もう大丈夫よ」
雪乃は取り返したチラーミィにそう声をかける。チラーミィは「ちらぁ」と嬉しそうに笑った。
「いてて、くそ、たった2人になんて様だッ」
倒れていた男子生徒が、起き上がった。
再び雪乃とロボロ、そして3人組が対立する。
「天の人」
「…あ、俺のこと?」
突然声を掛けられたロボロは自分に向かって指をさす。
「教師を呼んできてください。その間にこいつら相手しとくんで」
「アホか!1人にするわけないやろ!」
そんな会話を繰り広げる中、ガサガサと音を立て走り込んでくる人物が1人。
「ーーーチミィ!!!」
そう叫びながら現れたのは、チーノだった。
「ちらぁ!」
雪乃の腕の中で、チラーミィが目を輝かせ尻尾を振りたくる。
「チミィ!」
そんな元気そうな姿のチラーミィを見るや否や、手を広げ駆け寄ってくる。
「ちらぁ!」
チラーミィも雪乃の腕の中からチーノに向かって飛びつこうとした。
しかし、2人の再会を阻むように、“ヘドロばくだん”が飛んできた。
チーノは尻餅をつき、その場に倒れる。
「待ってたぞ、チーノ」
チーノが視線を向けた先にいたのは、男子生徒3人組。
「1人で来いって言ったのに、まさかお仲間連れてくるなんてなぁ?」
ボキボキと拳を鳴らしながら、中央に立つ男が言った。
随分とご立腹の様子だ。
汚れた眼鏡を掛け直しながら、チーノが3人を睨みつける。
「お前に騙された恨み、この場で晴らしてやる」
何したんだこいつ。
そう言われヘイトを向けられるチーノに、雪乃は内心呆れていた。
まぁ日頃の行いが祟ったのだろう。
しかし、この場で成敗すべきはあの3人組。
ポケモンを手にかけようとした罪は重い。
正直グルグル眼鏡が何をしたのか知らないが、私はポケモンの味方だ。
「…待ってろって言っただろ」
雪乃はボロボロのチーノに向かってそう言う。
大人しく待っていれば、こんなに狙われることもなかっただろうに。
「ラッタ!ひっさつまえば!」
ラッタは前歯を光らせながら、チーノに向かって突っ込んでくる。
「ワンリキー!けたぐり!」
モンスターボールを投げながらロボロが叫ぶ。
ポカァンとボールから出てきたワンリキーはチーノを守るように突っ込んできたラッタを“けたぐり”で迎え撃つ。
「ベトベター!マッドショット!」
今度はベトベターの技がチーノに飛んでいく…と思いきや、雪乃目掛けて飛んできた。
避けようとするが、腕の中から抜け出そうとするチラーミィに気を取られ、避けるのが遅れた。
バシャァア!!
マッドショットは真っ直ぐ飛来し、雪乃たちに降りかかった…はずだった。
「…待っとけるわけないやろ」