ひたむきに、あなたへ

ロッカーを閉めて深呼吸をひとつ。

気持ちを整えて控室を出た瞬間、廊下の角で律と鉢合わせた。

「――桜坂さん」

低い声に呼び止められ、華は一歩立ち止まる。

「は、はい！」

思わず声が裏返り、慌てて視線を落とした。

律は特に気にした様子もなく、手にした資料を整えながら言った。

「次の研修は宴会場のセッティングです。準備を手伝ってください」

それだけのやり取り。

けれど華の胸は、さっきまでの嬉しさと不意の緊張でいっぱいになっていた。