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「太宰、 デート」
「─荷物持ち?」
「今日は違うよ。キミがよく仕事終わりにご友人と飲んでるバー辺りの、レトロ感満載な純喫茶」
「知ってるけど、それが?」
「そこのパフェ、結構美味しいってこの間キミに引っ掛かって一人寂しく泣いてた女の子─サキちゃんだっけ─から聞いてね。是非とも食べに行きたいんだけど、サキちゃんによると中々量が多いらしいから、誰か連れて行った方がいいって」
「なんで君がサキちゃんと仲良くなっているのか聞きたいところではあるんだけど。まぁいいよ、行こうか」
「よろしい。それじゃあ僕は準備してくるから、キミは新しい自殺方法でも考えておきな」
「言われなくとも」
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「キミって本当、顔だけはいいよね」
彼女はまじまじと私の顔を眺めながら言った。つい先程まで、美味しい美味しいと繰り返すように言いながら、期間限定と銘打たれた抹茶パフェを食べていたというのに。いきなりどうしたのだろうか。ミルクと砂糖を入れた珈琲を喉に流して、私は彼女を見つめる。しげしげと、その鈍く赤い瞳の中を見つめた。
「顔だけって、それはまた随分なことを言ってくれるじゃないか。君だって似たようなものだろうに」
彼女は一瞬ムッとした顔をする。それが可笑しくてつい笑ってしまいそうになるけれど、しかし後々面倒になることは明白なのでここは黙る。私がそんな気を回しているうちに彼女はいつの間にかニヤニヤと笑っていて、パフェスプーンを指揮棒かのように空中で踊らせながら、上機嫌に言った。
「キミと同類にされるのは中々屈辱的だけど、似たようなものって、それじゃあ僕の顔も整っていて綺麗だよねって言ってくれてるってことかい?へぇ、僕が美人だって褒めてくれてたんだぁ」
そんなわけないだろう、と言いかけて飲み込む。迂闊に否定するとここぞと言わんばかりに
「否定するだなんて、さては私のことを遠回しにブスだって言いたいんだね、キミは私がさめざめと泣いてしまってもいいと言うのかい、きっと言うんだろうね君なんかは!死んでしまえよ!」
とヒステリックな演技をされる可能性が十二分にあった。どうせ演技なのだから否定してやってもいいのだけれど、それはそれで彼女に負けたような気がして屈辱的なので、絶対にしない。それに事実彼女の顔は、一般論的には整った方ではある。全くもって私の好みじゃないが。話が逸れた。ともあれその逆として肯定すればいいのかというと全くそういうわけではなく、逆に揶揄われるという極めて不愉快なパターンがありうる、というか彼女のことだから、そうするつもりだろう。今もしめた様な顔をしながら満足気にアイスを口に運んでいるくらいなのだから。君は顔に出やすいから気をつけろ、とこの前注意したはずなのだけれど、依然変わっていない。ため息を珈琲で流し込んで、カップをソーサーに置く。
とにかく。
こんな子供に揶揄われるほど、私は小人物じゃない。
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私は結局返答をしないという選択を取って、軽く頬杖をついて彼女を見た。今度はその鳶色の瞳ではなく、全体を見るように目を滑らせる。どうやら私が返事をしないことについては突っ込まないつもりらしい。そういうところを爪が甘いと言うんだが。
彼女はいつもの真面目腐ったような白シャツに黒ベストという服装ではなく、意外にもオフショルコーデだった。この時期に着るものか、とは思うが、しかし時にお洒落は我慢だというし、喫茶店内は丁度良い室温に設定されていたから、やっぱり私は黙ったままだった。こういった身嗜み関連では下手に口を出すとろくな事にならない。地雷原を歩くのは危険だと、もう知っている。
肩がちらりと見えるワインレッドのオフショルニットに、膝上丈の黒のプリーツスカート。髪はエクステで伸ばしたらしく、緩く巻かれていた。髪が長いというだけで、意外にも印象が結構違う。そのくせ無駄に似合っているのが腹の立つところだ。それにしても、真面目そうな顔してるくせに私服はそこそこに大胆で、まぁまぁ面白い、なんて思っていると、彼女は少し気恥ずかしそうな顔をしてチラりと私を見た。もぐもぐと口を動かしながら、手を口元にそっと当てて。上品な仕草だった。
「ちょっとキミ、黙ってジロジロ見ないでよ」
よく見れば彼女はほんのりと顔を赤らめていた。恥ずかしげに細められた鳶色の瞳が可愛いらしく揺れている。思わずゲラゲラと笑ってしまいそうになるのを何とか堪えようと、顔をふいと背けて窓の外を見た。けれど肩くらいは震えていたかもしれない、窓に映り込んだ彼女の顔は若干不貞腐れたような顔をしていたから。それすらも面白くって、ついくつくつと喉を鳴らしてしまう。思い切り笑ってしまいそうになるのを抑えながら、私は口を開いた。
「いやね、君が私の為に一生懸命お洒落をしてきたのだと思ったら、少し可愛く見えたものだから」
彼女は驚いたように目を丸くして、すぐさま眉を顰めた。先程から彼女はパフェを口に運ぶ手を止めている。珈琲は変わらず湯気だけを昇らせて、先程から一口だって減ってはいなかった。
「キミの為なんかじゃないってば─大体、キミと僕ってそういうのじゃないでしょ」
「─そうだと思ってるって言ったら?」
彼女は一瞬不意を突かれたような顔を浮かべる。そういう顔をするから、揶揄いたくなるのだとつい言ってやりたくなる顔をしていた。勿論、言うわけないけれど。彼女はふと頬を緩めて笑う。
「キミの言葉が冗談だと分かる関係で助かったよ」
彼女はぱくりとアイスを口に入れた。