「だから実は僕、Ωが苦手なんですよね」
こんにちは、と言いかけた言葉は音にならずそのまま吐息として口から零れた。
唐突なすぎる想い人からの拒絶の言葉に泣きも絶望もせず、至って冷静だった。
いや、冷静とは違う、言葉を理解出来なかったんだと思う。人はあまりにも予想外の出来事には思考を止めるんだなんて頭の隅でまるで他人事かのように思った。
おんりーはΩだった。
ただ、今の自分の得意分野で実力で、人より秀出ることが出来たと自負している。
ただ結局はΩだった。
αのおらふくんに嫌われる事は覚悟していた、はずだった。
ただ心の何処かできっとおらふくんは認めてくれると思っている自分がいた。きっと「Ωやαなんて関係ないよ」とそう笑ってくれると期待していた自分が。
それは、自分の思いすごしに過ぎなかった。
何だか喉が焼けるように熱くなって腹の底から何かが込み上げてくる気がして、逃げる様に入ったばかりの通話を切って体調不良でお休みします、と打ち込んだ。
既読が付き、労りの文字が目に入る。
ぐしゃりと顔を隠すように前髪を掴み、迷子の子犬のような呻き声を静かな部屋で小さく漏らした 。
溢れそうになる涙を必死で堪えた。
泣きたくなかった。泣いてしまうのが悔しかった。
今まで生きてきて始めて、おんりーはΩとして産まれたことを憎んだ。
恋をしていたのだ、おらふくんに
自分を憎んだ後 次は不安が押し寄せてきた。
あまりにも恐ろしいそれは恐怖に近しく、嫌われたくないとおんりーを蝕んだ。
「好き」
口から零れたそれは誰にも、誰にも届くはずがなく、それが一層おんりーを孤独にさせた。
◇◇◇◇◇
この世界では男女の他に第二の性があり、
身体能力、知的能力が平均より高く、エリート体質だと呼ばれる”α”
一般的で1番人口が多く平均的な”β”
能力が人より低く、発情期などの事から社会の下位層だと言われている”Ω”
この3種類に分かれている。
その中でもおんりーの第二の性であるΩの扱いは酷く、唯一の利点はαを産む可能性がある、と言われている程だった。
ただ、最近はその事も問題視されていて昔よりはΩにも住みやすい世の中になっている。
これまでΩである事を嫌だと思った事はなかった。それこそ始めΩだと書かれた診断書を渡された時、驚きはしたものの、特に自分がαだなんては思っておらず、βかΩだろうと思っていたからすぐ受け入れられた。
なんならおらふくんがαだと知った時、もしかしたら、本当に奇跡が起こったなら、番になれるかもしれないと喜んでいた程だ。
こんな事ならαが良かった、βでも良かった。彼の傍に居たかった。今まではこんな事思った事がなかったが、それ程までに彼が自分の中で大きくなっていたのだ。
その日、抑制剤を飲みすぎて発情期が来なくなった、少なくなったΩがいるというニュースを見た。
その日からおんりーの飲む薬の数は増えていった。
◇◇◇◇◇
『おんりーチャン、最近寝れてる?』
電話越しに尋ねてくる、同じメンバーでいて先輩であるぼんさんの声色は少し心配が混じっている。
寝れてます。と答えるとご飯は?休みは取れてる?と体調を気にする質問が多かった。一つ一つ答えるのも億劫なのでまとめて大丈夫です、と答えて手元にある空になった抑制剤を適当に弄る。
『いやいやいや、絶対体調悪いでしょ』
『俺じゃ頼りないかもだけどなんでも頼ってね。』
あ、と声が漏れた。どうしてか分からない。
あまりにも真っ直ぐなその言葉が、壊れかけの心には強すぎたのか全身の力が抜けて、気づいた頃には涙が溢れていた。
この人には話していいのだろうか、自分はΩでおらふくんに恋をしていると、話を聞いてしまって怖くて仕方がないと。助けて欲しいと
ぐずぐずと鼻を鳴らす、大丈夫?俺悪い事言った!?と焦るぼんさんにまた涙が止まらなかった。違うんです、と話そうと思っても口からは 「ぅ」や「ぁ」しか出てこなくて、話せなかった、しゃくりあげながらやっとの思いでごめんなさい、とだけいい電話を切った。
ごめんなさい。今は話せそうにない。あまりにも暖かくて、優しい人で迷惑を掛けたくなかった。Ωの俺は自分の事は自分でしなければいけない。
ひたすら泣いて、目が腫れた。
◇◇◇◇◇
「最近おんりーおかしくないですか、?」
「よく休むし、よそよそしいというか」
鬼畜な企画での撮影、時間がかなり長くなってしまったので少し休憩しようと各々好きな話をしている時、皆の声色とはかなり違う声色のおらふくんがおもむろに口を開いた。
「たしかに」
「体調悪いのかな」
予想が飛び交う中、ぼんさんが「あ」と思いついたように声を漏らし、言葉を並べる。
「おらふくんさ、近く来るって言ってたでしょ?ほら、そのとき寄ってあげなよ」
「え」
弱ってるって言いたくないかもじゃん?、と付け足された言葉に断るにも断れず、
_____いや元々断るつもりはなかったが、
3日後、おんりーの家に行くことになった。
コメント
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やっぱ神や!!! すごすぎる(☉。☉)! 続きまってる~