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「お、おはよぉ~!なつくん!」教室に入るなり、こさめが満面の笑みで駆け寄ってきた。小柄な身体をぴょんぴょんさせて、まるで子犬みたいに嬉しそうにしている。長い髪がさらさらと揺れて、朝日を浴びてキラキラしている。
「……朝っぱらからうるせぇ」
暇72こと俺は、わざと眉間にシワを寄せ、冷たく言い放った。
「え〜?だってなつくんに早く会いたかったんだもん!」
こさめは一瞬シュンとした表情を見せるも、すぐにまたニコニコと笑顔に戻る。この切り替えの早さ、流石だ。
「おいおい、なつって相変わらず雨乃には厳しいなぁ」
隣の席の男子、いるまが茶化すように言う。
「うっせ。単なるクラスメイトだろ」
「えへへ、クラスメイトで親友だよね?ね?」
こさめが俺の腕に軽く手を添えてくる。俺はそれを「うざい」とばかりに振り払う。
「ほらほら、距離感大事。それくらいにしとけって」
LANがクスクス笑いながら注意してくる。
「ちぇ〜。でも大丈夫だよ、こさとなつくん、ほんとは超仲良しなんだからぁ!」
こさめがウインクした途端、教室内にどっと笑いが起こる。「マジかよー!」なんて囃し立てる声も聞こえる。こいつ、天然なのか計算なのか……いや、多分天然だろうな。でも今はその勘違いを助長してもらう方が都合が良い。本当の関係を知られたら困るのは確かだ。
***
放課後。誰もいない屋上。
授業が終わるとすぐさま俺はこさめの袖を引っ張ってここに連れてきた。鍵がかかっていたはずなのに、なぜか今日は開いている。都合がいい。
ドアを閉めて、ようやく一息。こさめは壁にもたれかかって、ニヤリと笑っている。
「はぁ〜、やっと二人きりになれたねぇ。クラスのみんなの前じゃ、イチャつけなくて寂しかったよぉ」
その口調は甘えるようなトーンに変わっている。
「お前が余計なこと言うからだろ」
俺はそっぽを向くが、頬が熱くなるのがわかる。
「だって、本当のことじゃない?なつくん、こさのこと大好きじゃん?」
こさめは悪戯っぽく俺の耳元で囁く。
「……うるさい」
否定しないのが精一杯だった。実際、その通りだから。
「ねぇ、今日も一緒に帰ろうよ。んで、帰り道コンビニ寄ってアイス食べたいなぁ」
「仕方ねぇな」
「やったー!なつくん大好きぃ!」
こさめが飛びつき、俺の首に腕を回してきた。柔らかい髪の毛が頬をくすぐる。
「ちょ、ここで抱きつくな!誰か来るかも知れないだろ」
口ではそう言いつつも、背中に回した自分の腕がこさめをしっかりと抱き締めていることに気づく。頭が真っ白になるほど幸せな感触。もう離れられない。
「ほらほら、早く行こうよ!なつくん!」
こさめが顔を上げると、夕日に照らされて輝く瞳があった。吸い込まれそうなほど綺麗な瞳。俺は思わず顎を持ち上げ……
唇が触れる直前、遠くで下校を促すチャイムが鳴った。
「……続きは夜まで待て」
俺が不満げに言うと、こさめはくすくす笑いながら、小指を立てて差し出してきた。
「約束ね!ゆびきりげんまん!」
俺はその小さな小指に自分の指を絡ませた。
「ばーか」
でもその声は、自分でも驚くほど優しかった。
***
「今日の数学の問題、解けた?」
帰り道、公園のベンチに座ってアイスを舐めながら尋ねると、こさめはポケットから小さなノートを取り出した。
「実はね……ここちょっと間違えちゃって……」
ページを広げる仕草が可愛くて、俺は隣に座って体を寄せる。
「貸してみ」
俺がノートを受け取ると、こさめはアイスを一口差し出した。
「ほら、食べてみて。美味しいよ?なつくんの好きな味選んだんだ」
「……ありがとな」
素直に受け取って口に入れると、本当に好みの味だった。こういうさりげない気遣いができるところ、好きだ。
「なつくんのノート見せて?こさの解答チェックして欲しい」
俺の肩にもたれかかるようにして覗き込んでくる。近すぎる距離にドキッとするけど、嬉しい気持ちの方が大きい。
「……これ、ここの公式が違う。こうやって置き換えて」
説明しながら、無意識のうちにこさめの頭を撫でていた。
「ふにゃ……暇なつ先生の教え方わかりやすい……」
半分眠たそうな顔で呟くこさめを見て、胸がキュッと締め付けられる。
(可愛いすぎんだろ……)
「暗くなってきたから、そろそろ帰るぞ」
立ち上がろうとすると、こさめが俺の服の裾を掴んだ。
「……もう少し……ここで居たいなぁ……」
月明かりに照らされた横顔が儚くて、守ってあげたい衝動に駆られた。
「家まで送る。それでいいだろ?」
そう言って手を差し出すと、こさめは嬉しそうに手を繋いできた。
「うん!なつくんと一緒ならどこでもいいよ!」
繋いだ手から伝わる温もりが心地良い。友達の前では絶対見せないこの甘い時間が、俺たちにとって一番大切なものなんだ。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝もっと近くに