テラーノベル
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アカネは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
「……ここ、もう一度来ることになるなんて。」
彼女の目の前には、ゆっくりと広がる新たなレイヤーが広がっていた。すべてが白く、輝いている。無機質な空間に浮かぶ、無数の鏡のような壁。その壁に触れた瞬間、反射する自分の姿が、まるで無限に続いているかのように映し出される。
「ここ、すごく……不安になる。」
アカリが少しだけ肩をすくめて、言った。
「うん。まるで自分を見失いそうになるみたい。」
ノエルも無言で頷く。このレイヤーは、ただ美しいだけではない。心の奥に潜んでいる“不安”や“恐れ”が、まるでこの空間に取り込まれているかのように、どこか重苦しいものを感じさせる。
「ここが、レイヤー:トゥエルブ……?」アカネはつぶやいた。
「うん。君たちの“受け入れていない感情”が試される場所だよ。」ノエルの言葉に、アカネはぎゅっと手を握りしめた。
「怖い。でも、きっと乗り越えなきゃいけない。」
その時、空間の中で、かすかな音が響いた。
――ピリリリリ。
アカネのスマホが、再び震える。画面を確認すると、またしてもユウトからのメッセージが届いていた。
【アカネ、気をつけて。現実でも、レイヤーでも、君たちの心がリンクし始めている。もしも感情に囚われすぎたら、現実を見失うかもしれないよ。】
「ユウト……」
アカネの胸がざわつく。レイヤーでの出来事が、現実世界にも影響を与え始めているという警告だった。
「でも、今は私たちの番だよね。」アカリが静かに言った。「今の自分を、ちゃんと受け入れる。それが一番大切だと思う。」
アカネは少し迷った後、深呼吸をして歩き出した。
「私、前に進まなきゃ。現実でも、レイヤーでも。」
その言葉を口にした瞬間、鏡のような壁がゆっくりと動き、三人の前に現れたのは――
彼女たちの「過去」だった。
最初に現れたのは、アカネの最も深く隠していた恐れだった。
「アカネ、私だよ。」
目の前に現れたのは、アカネの母親だった。だが、彼女の顔はどこか薄暗く、遠くに感じられる。アカネの胸の奥に、何か痛みが走った。
「お母さん……?」
「そうよ、アカネ。あなた、まだ私を許していないのね?」
その言葉がアカネの心に突き刺さった。アカネは、母親との関係がうまくいかなくて、自分が本当に愛されていたのか、ずっと悩んでいた。
「私は……許していないわけじゃない。でも、あなたがいなくなったとき、どうしてもその理由が分からなくて……」
アカネの目から自然と涙がこぼれる。涙は止まらないが、それでも心の中で何かが解けるような、温かい感覚が広がっていった。
「お母さん、ありがとう。あなたがいなくても、私はちゃんと生きていけた。だから、今は……もう泣かない。」
その言葉が、レイヤー内の空間を少しだけ明るくした。
次に、アカリとノエルもそれぞれ自分の過去と向き合わせられた。アカリはずっと心に閉じ込めていた「孤独」の感情と、ノエルは彼女が背負っていた「責任」について対峙することとなった。
だが、それぞれの心の中で、少しずつ「受け入れ」が進んでいく。過去の自分を許し、今の自分を受け入れたその瞬間、レイヤー内の空間に変化が訪れる。
その時、アカネのスマホが再び震えた。
【アカネ、あなたは今、何を感じている?】
――ユウトのメッセージだった。
「今、私は……自分を受け入れることができた。現実でも、レイヤーでも。」
その瞬間、アカネの目の前に現れた鏡の壁が一瞬、光を放ちながら割れた。光の中に浮かび上がったのは、母親の微笑む顔、そして、アカリとノエルが支えてくれる姿だった。
「これが、私の答え。」
アカネはその光景を見つめながら、静かに呟いた。
コメント
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スマホなったとき「はっ‽」ってなった