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「はぁ……私、もう一生恋愛なんて無理かも……」


翌日の放課後、優茉とカフェにやって来た咲結はミルクティーを飲んで一息吐くや否やポツリと呟いた。


「何よ、いきなり。昨日の出来事、まだ引きずってるの?」


そんな咲結を不思議そうに見つめながら優茉が問い掛けた。


「だって、ナンパしてくるのは変な人ばっかりだし、良いなと思ってた人は性格最悪だし、ナンパからも昨日も助けてくれたヒーローみたいな人はデリカシーない最低男だし……何か全然良い人に出会えないんだもん」

「いやいや、確かに今はちょっと続いてるけど、うちらまだ高校生じゃん? そこまで悲観的になる事はないでしょ?」

「いいよね、優茉は彼氏いるからさ」

「彼氏って言っても幼なじみだし、そんな新鮮な感じでもないけどね」

「いいじゃん幼なじみ。私だって幼なじみでもいいから彼氏欲しいよ。いないけどさ、幼なじみなんて」


優茉と言い合い、頬を膨らませた咲結は再びミルクティーを一口飲んだ。


「ってかさ、咲結はちょっと理想高すぎるのが駄目なのよ」

「えー? そうかな? 別に普通だよ」

「そう? だってイケメンで男らしくて、ちょっとクールで時々優しくしてくれて、女の子の気持ちが分かってさりげない気遣いしてくれて、記念日とかはサプライズしてくれる男が理想でしょ?」

「うん」

「……この際はっきり言うけど、そんな完璧な男、いないと思うよ」

「そりゃ、全て当てはまる人はいないかもしれないけど、それに近い人はいるでしょ?」

「どうかな? まぁ、イケメンで男らしいってのはいると思うけど……そもそもクールで時々優しいってのは何? 人前ではつんけんしてて自分の前でだけ優しくしてくれる的な?」

「うーん、まぁ、そんな感じ? 優しすぎちゃ駄目なの。ちょっと冷たいくらいが格好良いの!」

「ごめん、よく分からないわ。とにかく、出逢い云々よりもまずは理想と違うとすぐ冷めちゃうところをどうにかしなきゃ。時には妥協も必要だと思うよ?」

「妥協ね……分かってはいるけど、冷めちゃうのはどうにもならないよ……」


咲結自身も自分の面倒臭い性格は理解しているのだけど、直そうと思って直るものではないのでどうにも出来ないと嘆いて肩を落とす。


「ね、ねぇ咲結、あの人、咲結の知り合い?」

「え?」


そこへ、急に優茉が店の外を小さく指差しながら咲結に問いかける。


声を掛けられた咲結が優茉の指差す方へ視線を向けるとそこには、


「海堂……さん」


朔太郎が立っていて、咲結が気付くと笑顔を向けて店の中へ入って来た。


「咲結」


周りの視線を全く気にしない朔太郎は店に入るとそのまま咲結と優茉が座る席までやって来た。


「な、何ですか?」


いきなりの事に驚き、たじろぐ咲結が警戒心剥き出しで問い掛けると、


「昨日は悪かった!」


そう一言口にしながら勢いよく頭を下げた朔太郎に咲結は勿論周りも呆気に取られていた。


「ちょ、ちょっと、何なんですか……」

「昨日はお前の気持ちも考えないで酷い事言っちまった! ごめんな、配慮が足りなかった!」


優茉や周りの人たちは何の事だか分からず、ただ二人のやり取りに視線を向け続ける中、注目を浴びている事に耐えられない咲結は、


「も、もういいです! 怒ってないから謝らないで! 頭を上げて下さい!」


周りの視線から逃れたい一心で朔太郎に頭を上げるようお願いすると、


「本当か? 許してくれるんだな? 良かった」


顔を上げた朔太郎は許して貰えたのが嬉しいのか、満面の笑みで咲結を見た。


そんな無邪鬼な表情を浮かべた朔太郎を前にした咲結の鼓動はトクンと跳ねる。


(な、何? この胸の高鳴りは……)


思いがけない胸の高鳴りに戸惑う咲結をよそに朔太郎は、


「それじゃ、これからは気をつけろよな。咲結」


ポンと手を頭に乗せて一言言うと、相変わらず周りを気にする様子もなく意気揚々と店を出て行った。


「咲結、もしかして彼が例のナンパから助けてくれたっていう? ……って、咲結、アンタ顔赤いわよ?」

「……優茉、私、変かも」

「え?」

「胸の奥がもの凄く、キュンってなった……」

「それって……」

「いやいや、でも有り得ないよ、そりゃ助けてくれたし良い人だけど、昨日の発言はムカついた……今は謝ってくれたけど……。それに、なんて言うか……私のタイプとは違うもん……」


優茉の言いたい事が分かった咲結は勢いよく否定するも、頭の片隅では感じていた。


自分が理想とはちょっと違う朔太郎に惹かれている事に。

近付きたいよ、もっと、、、。

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