コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【iw】
絶対に手が届かないと思っていた俺の神様が、恋人になった。
みっともない姿を散々晒して、消えちゃいたいとまで思っていた俺を全部掬い上げてくれた。
繰り返し告げられた“好き”と“ありがとう”は今も俺の耳の奥でふわふわと鳴り続けている。
昨日の夜は2人して大泣きして、泣き疲れてぐずぐずのまま同じ布団に入った。
さすがに一緒に寝るのは…ってソファで寝ようとした俺に、朝起きて隣にいなかったらやだ!と可愛いわがままを言ってくれた佐久間。
お互いにひどい顔をしているのに、このまま溶けてしまいそうなほど幸せで、目を閉じる前に3回目のキスをした。
空が明るくなってきた頃、アラームより先に目が覚める。
都合のいい夢を見てたんじゃないか、佐久間がいなくなってるんじゃないかと慌てて隣を見る。
まだ信じられないけど、隣で眠っている佐久間は多分本物。
少し不安になって頬に触れてみる。
しっとりとした肌はあったかくて、夢じゃないよって俺に自信をくれた。
“朝起きて隣にいなかったらやだ!”
…だったのはどうやら俺の方で、眠っているだけなのに不安をかき消してくれる佐久間は本当に本物の神様なんじゃないかって思ってしまう。
夢のような、夢じゃない人をじっと見つめる。
1人で泣いてんじゃねえよ、と電話を切られた時は全てが終わったと思った。
諦めた振りをして、その実未練がましい俺に愛想が尽きたんだと目の前が真っ暗になった。
明日からのことを考えなきゃいけないのに、体も頭も動かなくて、いきなり佐久間が訪ねて来た時は本当の終わりを告げられる予感に心臓が壊れそうだった。
せめて冷静に受け入れようと心に決めたのに、いざ向かい合うと溢れてくるのは縋りつくような言葉ばかり。
俺の重すぎる未練が、佐久間を身勝手に縛り付けてしまうんじゃないかと怖くなった。
それなのに、好き、と俺に負けないぐらいわんわん泣きながら何度も言ってくれた。
ずっと触れたかった佐久間の温もり。
苦しかった、と初めて声に出した時、一気に肩の荷がおりた気がして、今まで自分が抱えていたものの重さを改めて知った。
同時に、佐久間ならきっとこの重さも全て受け止めてくれるって、根拠のない安心感が今までの俺を全部掬い上げてくれたような気がした。
昨日の温もりを思い出してまた愛しさが溢れだす。
たくさん泣いて腫れた瞼。
痛々しいその姿さえ愛しい。
赤みの残る瞼にキスをして、起こさないようにそっとベッドから離れた。
キッチンに向かい、アイシングバッグに氷と水を入れていると、入れかけのコーヒーが目に入る。
忘れ去られていたカップと冷えたポット。
これからは佐久間のためだけにカフェオレを作ることも許されるんだと思うと、頬が緩む。
今度康二に美味しい淹れ方を教えてもらおう。
やりたいことが次々に出てきて、昨日までとは全然違う世界が眩しくてまた涙が出てくる。
袖で涙を拭っていると、静かにリビングの扉が開いた。
「また泣いてる」
また見られてしまった。
「なぁんでいっつも1人で泣くの、ばかぁ…」
まだ寝ぼけた喋り方で俺の隣まで来て、肩に頭をぐりぐりと擦り付けてくる。
いや、可愛すぎない?
「ごめん、嬉しくて…」
「またごめんて言う」
「あ、ごめ…」
言い終わる前に襟元をぐいっと引っ張られて、4回目のキス。
「ごめんて言う度に口塞ぐから」
にやりと不適に笑う佐久間はすごく扇情的で、吸い込まれるようにもう一度顔を近付ける。
「…ごめんね?」
5回目のキス。
「これじゃ意味ないじゃん」
「ご褒美を設定しちゃった佐久間が悪い」
2人で顔を見合わせて笑う。
こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。
「こんな早く起きて何してたの?」
俺の肩越しにキッチンを覗き込む。
幸せな時間を噛みしめすぎて目的を忘れるところだった。
思い出したようにカウンターに置いた氷嚢を手に取る。
「これ、目腫れてるから冷やして」
「わ、ありがと」
氷嚢を受け取って目に当てると、きもちー、たぱたぱーなんて言ってふにゃふにゃ笑っている。
昨日のかっこよかった佐久間は今は影を潜めていて、ただただ可愛い俺の恋人を微笑みながら見つめる。
俺が何も言わずにいると、氷嚢の端からちらっとこちらを覗かれた。
ん?と首をかしげると、んはっと笑って俺の顔に氷嚢を当ててきた。
「照も顔ひどいよ、交代しよ?」
「俺は保冷剤使うからいいよ、それは佐久間使って」
そう伝えると、佐久間は氷嚢の底をたぷたぷしながらうーんと唸った。
ちょっと冷凍庫開けるよ、と中から保冷剤を取り出して、俺の手を引いてソファに向かう。
佐久間だけソファの端の方に座り、ぽんぽんと自分の膝を叩いて、どうぞ、と俺を呼ぶ。
「膝枕?」
「そ、おいで」
言われるがまま佐久間の膝に頭を預けると、たぷん、と目の上に冷たい物を乗せられた。
「たぷたぷしてきもちいよね」
「…うん」
柔らかく瞼を包む冷たさも、優しく頭を撫でる佐久間の手も気持ちいい。
「照はさ、もっと自分に優しくなりなよ」
こんなに幸せで、これ以上なんてないのに?
そんな考えもお見通しみたいにふふっと笑う声がする。
氷嚢を少しずらして佐久間を見上げると、片方の目に保冷剤を直接当てて、もう片方の目で愛しそうに俺を見ていた。
「ねえ、目傷付いちゃう…せめてタオル…」
起き上がろうとすると優しく胸を押さえて制止される。
「俺は今はこれがいいの」
溶かしてふにゃふにゃにするのが楽しいんだ、と子供みたいに無邪気に笑う。
「照のこともたくさん甘やかしてふにゃふにゃにしてあげるからね」
なにそれ…と強がることしかできなかった。
もう今この瞬間ふにゃふにゃになっちゃってる。
ふにゃふにゃになっちゃった俺は、たぷたぷの優しい愛に甘えてそっと目を閉じる。
「幸せ…」
目の上で水のかたまりが揺れる度に、俺の心が満たされていく。
「これからもずっとこの幸せが続くんだよ」
そっか、続くんだ。
続けばいいなじゃなくて、続くんだね。
うん、って一言言いたかっただけなのに声は出なくて、代わりに鼻をすする音が静かな部屋に響いた。
「もー、泣き虫」
そう言いながらも、愛しそうに笑う佐久間に安心して身を預ける。
昨日の夜に佐久間が言っていた、愛に溺れるってこんな感じなのかな。
これは…抜け出せないな。
「安心して溺れてね♡」
頭上でふふふ、と笑う声。
心を読まれちゃってることさえ嬉しく思う。
でも佐久間、俺の愛もものすごく深いこと忘れないでね?
一緒に溺れて、一緒に生きていく覚悟ができた俺の愛は自分でも未知数だから。
だから佐久間も覚悟して、俺の全部に溺れてね。