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✧≡≡ FILE_046: 影 ≡≡✧
キリスの胸が、ひくりと震えた。
制御盤の画面が警告音を発したのだ。
──BEEP…BEEP…BEEP…!
数字が赤く点滅する。
> 28.8℃
もう臨界は超えている。
あの日と同じ光が、今にも解き放たれようとしていた。
「……もう、戻れない」
囁きにも似たその声は、諦めか絶望か判別できない。
「早く逃げろ、爆発するぞ」
ローライトは静かに言う。
「私は逃げません。まだ、止める方法はあります。そのために私はここにいるんです」
キリスの視線が、ゆっくりと少年へ向く。
「……どうして……そんな目をしていられる……?」
「だって、私には──」
少年はほんの少しだけ微笑み、涙一滴もこぼさず言った。
「これしかできないから──」
少年はそう言って、両手を広げた。
まだ幼く、寒さで震えるほど小さな身体で──それでも、世界全体を包み込むように、大きく。
その姿に見覚えがあった。
あの日、臨海実験の事故、爆光から妊婦を庇い、命を落とした研究員──ドヌーヴ。
誰に称賛されることもなく、名も残さず、ただ“影”として死した父親。その意志が、いま、この子供の姿に宿っていた。
教会ひとつを包み込むには、あまりにも小さい。
そんな体でこの世界の影になるなど不可能──
それでも、ローライトは一歩も引かずに立っていた。
──その姿に、キリスは心を撃ち抜かれる。
(なぜ……今にも起爆する爆弾の前であんな目をして立っていられる……?死ぬのが、怖くないのか?──どこまでの正義を彼は背負ったんだ──私は……こんなの教えてない)
キリスの視界が揺れた。
それが感情によるものか、熱によるものか、もはや分からなかった。
> 28.9℃
数字が赤く瞬き、警告音が室内に響く。
「──そこまでだ!!」
背後から、怒声が飛ぶ。
金属の重い音とともに、ワイミーが片手でウィンチェスターライフルを構えて現れた。
コートの裾を揺らし、眉間に深い皺を刻んだ顔。
その目には、かつての“光”を見失った発明家の決意が宿っていた。
「キリス・フラッシュハート──動くな。その場で手を上げろ」
床に落ちた影が三つに増える。
その瞬間、室内の温度がわずかに下がったように感じた。
緊張と熱と光がせめぎ合う空間に、赤い警告灯が回転し、影が揺れる。
冷気と熱気がせめぎ合い、空間は張り裂けそうだった。