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雨はしとしとと、とめどなく降り注ぎ窓に粒をつける。それを見つめる少女、知里は小さく息をこぼし、ぼーっと雨に濡れていく地面や木々をその瞳に写すのみだ。
「あ……猫……」
呟いた声と同時にその目線は、雨の中歩き屋根付きの駐輪場に1匹の黒猫の姿を捉える。雨宿りする場所を見つけた黒猫は自転車に飛び乗るといそいそと自身の毛を舐めて、毛並みを整えていた。
あの子毛並みツヤツヤ、綺麗……鍵しっぽだ、可愛い
じーっと猫の毛づくろいを見ていれば、授業を終えるチャイムが学校に鳴り響く。もうこの後は下校時間となるため直ぐに鞄に筆記用具やノートしまう。
「ねぇねぇ知里、今日辻村先生の新作小説出たんだよ!帰り、本屋寄らない?」
「んー……今日はパスするね、雨も酷くなるだろうから早めに帰りたくて」
そっかーと残念そうにする友人と共に教室を出て、昇降口に向かう。
あ、さっきの猫
昇降口近くには先程授業中に見た猫がおり、欠伸をして体を伸ばしていた。警戒心が無さそうな素振りに、ふふとつい笑いを零すと黒猫の黄色い瞳が知里を捉えた。黒猫と目が合った瞬間、知里の胸の中を不思議な感覚が沸き起こる。それに戸惑い、そっと手を胸に当てる。
なんだろう……なんだか懐かしくて、悲しくなるこの感覚。
「知里ー!何見てるの?ん?猫?」
「あ、ごめん。早く、帰ろ予報だと酷くなるらしいから」
「え!マジで!?なら辻村先生の新作は明日かな〜早く帰ろ!行こ行こ!」
友人に手を引かれながら傘をさして校門に向かう。ふと、足を止め振り返るとそこにはもう黒猫の姿はなかった。