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帰路に着いた知里は、母に挨拶すると自室で制服を脱ぎ、部屋着に着替えると仏間に入る。四畳の和室で、襖を開けて右奥に仏壇があり、そこには彼女に似た幼い少女の遺影が飾られていた。
「千鶴、今日は雨だよ。うん、千鶴がいなくなった日も雨だったよね……猫が、車に轢かれそうになって……優しい千鶴は猫を庇ってそれで」
そこで言葉を切り、首を振り仏壇に向けてお参りをするとリビングへと戻る。
「お母さん、雨酷くなるらしいから戸締りしておくね」
「あ……ありがとう、知里」
そうキッチンで微笑む母親に口元を緩ませるも家族の間には僅かに哀愁の香が漂う。庭に出れば外は暗く雨は下校時よりも酷くなっており、風も大きく斜めへ吹き抜けていく。ふと、庭の外の暗闇を蠢く影がモゾりモゾりとこちらへ近づいてくるのを視界に捉える。柵越しから見ればそれは黒猫だった。
しかも、学校で見た黒猫である。それも尾は昼間の学校で見た時と同じ鍵しっぽの
「おーい、黒猫ちゃんこの雨の中は危ないよーこっちにおいで」
にゃーと鳴く黒猫はやはり警戒心なく近づいてくる。
野良なら保護して、里親かうちで飼おうかな
その時、黒猫がこちらに渡ろうとしてくる最中、横からライトを照らした自動車が迫ってきていた。運転手は黒猫の姿に気づかずにおりスピードを緩めずにいた。
「危ない!」
柵を飛び越え、猫を抱きしめそのまま黒猫が来た方向へと体を転がす。クラクッションの音と、車のスキール音がけたたましく鳴った。
知里は転がった勢いのまま、体を家の塀に叩きつけて止まる。痛みで呻きながらも、腕に抱えた黒猫に怪我がないか見ようと腕の中を見つめると黒猫がこちらをじっと見ていた。その瞬間昼間と同じ感覚が襲い、さらには鈴の音が耳に響く。車の運転手がこちらに駆け寄ってくるのが見える。
しかし、そんなことを構っていられずこの謎の感覚がだんだん気持ち悪さへと変わっていく知里は黒猫を離すと距離を取ろうと後ろに下がる。その時だった。
ガクッと後ろに着いた手が下がっていき、そのまま体が落ちていく感覚を感じる。いや、落ちていくようなではなく、『落ちる』
「あ…………」
知里はそのまま落ちていく自身の体を感じながら意識を手放していく。