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出水目線文化祭が終わって数日。
あんなに賑やかだった校舎も、またいつもの静けさを取り戻し、季節は少しずつ秋の気配を帯びはじめていた。
「……おーい、ナマエー。寝てんの?」
『んぇ〜……寝てないよぉ。ちゃんと生きてる〜』
休み時間、廊下側の席で頬杖をつきながら答えるナマエ。
その声は軽やかだったけれど、どこか上の空だった。
ボーダーの訓練室。
「ナマエ、今日動き鈍くない?」
『そーお? ふふ、最近ちょっと寝不足で〜。文化祭ロスってやつかなー』
「……」
(いや、違う。こんなもんじゃなかったよな、あいつ)
出水はモニター越しに見るナマエの動きに、はっきりとした違和感を覚えていた。
リアクションの遅れ。無理やり張り付けたみたいな笑顔。
そして、視線がよく宙を泳いでいる。
「ナマエ。ちょっといい?」
休憩中、彼はナマエを廊下に呼び出した。
『なに〜? また惚れ直したとか言うつもり? それとも可愛いメイド服が忘れられない〜?』
「お前さ……最近、調子悪くない?」
『……え?』
一瞬、ナマエの目から表情がすっと消えた。
けれど、それもすぐに「へらっ」とした笑みに変わる。
『もーやだなー、そんなに心配してくれるんですかぁ?これだから女子にモテモテなやつは〜』
「……」
出水は返す言葉を失った。
(また、はぐらかされた)
本当は聞きたいことが山ほどある。
でも、どこまで踏み込んでいいのかわからない。
『じゃ、戻ろっかー。もうすぐ時間だし!』
そう言って、ナマエは先にスタスタと歩いていく。
その背中が、なんだかいつもよりも細く見えて──
胸の奥がざわついた。