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翌朝、リディアが食堂へ行くと何時もながらディオンは既に出掛けた後だった。


「……」


一人のんびりと朝食を摂る。ディオンは今日から仕事だが、リディアは今日まで休みだ。ディオンも、もう少し休めばいいのに……と思うが、普段忙しい兄が既に半月も休んだのだ。寧ろ今日から何時も以上に忙しくなるのは想像に容易い。


「……」

「リディア様、お口に合いませんでしたか」


何時もなら、嬉々として口いっぱいに頬張り食べるリディアが、手を止め食が進んでいない事にシモンは心配そうな顔をする。


「ううん、そんな事ないわ……美味しい……」


何故か美味しい筈なのに、味気なく感じた。無意識に隣の席に視線を遣る。

ディオンがいない。それだけで、寂しく感じた。以前までならそんな風に思う事はなかった。兄がいないのが当たり前で、食事を摂るのもいつも一人だった。その事を別段気にした事はない。確かに母が亡くなった直後は寂しく感じていたが、直ぐに慣れてしまった……いや、多分諦めたと言う方が正しいかも知れない。


(なのに今更どうして……)


この半月余り、ずっと一緒だったからだろうか。たった半月なのに、昔の兄と過ごした時間を思い出してしまい、それをまた失うのが怖くなってしまったのか……だが、それだけではない気もする。上手く言えないが、何かが違う。


(まだ怒ってるわよね……)


また以前みたいに逆戻りして、兄とは殆ど顔を合わす事も、話す事もなくなるのだろうか……。


(また、元に戻るだけ……ただ、それだけよ……)


諦めるのは慣れてる……だから、寂しくなんて無い。





「リディア様、本が逆さまです……」


自室に戻り読書を始めたのは良いがまるで頭に入らないと思っていたら、ハンナから指摘された。


「え、あはは……」


頭に入る以前に、これでは読めない。自分でも驚く。リディアはワザとらしく笑いながら本を正しく戻す。


「あの、リディア様」

「な、何?」

「……」


今度は何を指摘されるのかと焦るが、ハンナは黙り込んでしまった。少し様子がおかしい。


「ハンナ、どうかしたの」


心配になり視線を向けると、言い淀んでいた。


「ハンナ?」

「……言うべきか悩んでいたのですが……実は」


リディアはハンナの言葉に、呆れ顔になった。


(あり得ない……)


別れた、いや捨てた女に何の用があると言うのか。

ハンナが言うには、リディアとディオンが屋敷を空けていた間、リディアの元婚約者であるラザールがグリエット家の屋敷を訪ねてきたそうだ。


「リディア様は不在だとお伝えすると、戻り次第連絡をする様にと、仰って帰られました……」


傲慢な態度でそう言い放ったであろう元婚約者を容易に想像が出来、ため息が出る。


「そう……。でも、連絡なんてする必要はないわ。私と彼はもう関係ない赤の他人なんだから」


自分で出て行けと言った癖に、わざわざ訪ねて来て連絡しろとは一体どう言う了見か。


「あの、丁度その時シモンも屋敷を空けておりまして、私が対応したのでどうしたら良いか分からず……ディオン様にはまだ報告してないのですが」


ハンナの言葉にリディアは、首を横に振った。


「ハンナ、ディオンには……お兄様には言わないで。余計な心配は掛けたくないの」

「ですが」

「いいの。はい、この話はお終い。ねぇそれよりハンナ、お茶のお代わりお願い」


こんな下らない事で、忙しい兄の手を煩わせたくない。それにこれくらい自分でなんとか出来ないと……。


ーー重荷には、なりたくない。


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