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翌日。
シャンフレックは快適な心地で目を覚ました。
呼び鈴を鳴らすと、寝室に侍女のサリナが入ってくる。
桃色の髪を肩の辺りで切りそろえた少女だ。
「おはようございます、お嬢様!」
「おはよう。いい朝ね」
夜会帰りの泥酔したユリスが、朝方にいきなり訪ねてくるなんてこともあった。
そんな日々はもうこない。
おかげで安心して眠ることができた。
鏡台の前に座ると、サリナがシャンフレックの髪に櫛をとかす。
ミルクチョコレート色の髪をさらさらと流して、慣れた手つきで整えるサリナ。
「今日はいかがなさいますか?」
「そうね……新しい洋服のデザインでもしようかしら。一月前にデザインしたドレス、意外と中流の間で流行っているみたい。このまま庶民に浸透させる経路も用意しないとね」
「ああ、あの赤色のドレスですね! とても情熱的でステキだと思います」
その前に、とりあえず仕事だ。
父が出張中、代理としてシャンフレックが仕事をしている。
ちなみに兄も王都に遠出中だ。
家来に領地の管理を任せる貴族も多いなか、フェアシュヴィンデ公爵領はまじめに当主が管理している。
「これから執務室に行って、昼まで籠る。昼食を食べたら好きなことをするわ」
「承知しました」
***
「うーん……」
シャンフレックは執務室に籠り、ひたすら書類を処理していた。
作物の管理、領民の嘆願書の整理、運営方針書の作成など。
普段は父や兄に任せている仕事だが、なにぶん彼女は有能である。
幼いころから王族の婚約者として、とてつもない勉強をさせられた。
そのおかげか事務仕事は余裕でこなせている。
ユリス王子の補佐と称して、彼の仕事もほとんど請け負っていた。
シャンフレックに代わって仕事ができるほどの人材が、ユリスの周りにいるだろうか。
「疲れた」
彼女は筆を置く。
執務を始めて約二時間。
さすがに飽きてきた。
ほとんどの仕事は処理し終えたので、あとは気が向いたらやろう。
そう思い彼女は立ち上がった。
昼食まで少しの時間があるので、次は庭の手入れを行う。
基本は庭師に任せているが、新種の作物を育てているので毎日記録を取っている。寒冷地にも強い作物を育て、新たな輸出品にする目論見があったのだ。
執務室を出ると、執事のアガンが廊下の床を磨いていた。
「これはお嬢様。お出かけですか?」
「ガーデンに。昼までには戻るわ」
「承知しました。しかし、お嬢様。次の婚約者に関して、色々と相談したいことがありまして……」
はぁ、とシャンフレックはため息をついた。
サリナは理解があるが、アガンは保守的な人物。
公爵家のことを心配するあまり、どうしてもシャンフレックの婚約者をすぐに見つけたいのだろう。
「婚約者云々の話は、お父様が帰ってきてから相談するわ。あの馬鹿王子から解放されて、今の私は気分がいいの。あまり面倒な話をしないでくれる?」
「そうですな……わかりました。しかし、本当に王子には残念です。平民上がりの男爵令嬢と恋に落ちるとは……この国はどうなることやら」
アマリスに関する噂をほとんど聞かないと思ったら、彼女は平民上がりだった。シャンフレックは初めてその事実を知ったが、別にどうでもいい。
またもや愚痴をこぼすアガンを置き去りにして、彼女は庭へ向かった。