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ワンクッション
船の音が近付く。けたたましいエンジン音があがり、減速する様子が聞いて取れる。
「…来たわね。じゃあ二人とも立って。くれぐれも、おかしな真似しないで…」
その時、耳をつんざくような爆音が、高台の下から響き渡り、地震のような揺れが三人をおそう。
「……えっ?何?」
今度はイリーナが驚く番だった。
あわてふためくイリーナを、エーミールが見逃すはずがない。
右腕を強く振り下ろすと、袖の中から黒クロームメッキの刀身のナイフが出てきた。
刀身の真ん中の穴に指を入れると同時に、エーミールは姿勢を低くしてイリーナに向かって走った。
「! 教授?!」
イリーナがエーミールの動きに気づいた時には、エーミールの持つナイフの切っ先はイリーナの喉を深く刺し貫いた。
「射撃下手なのは、私もなんですよ」
エーミールがイリーナの喉からナイフを抜くと、イリーナの右手から拳銃を奪った。
イリーナは喉と口から血を噴き出し、ゆっくりと仰向けに地面に倒れ込む。
朱と紫のグラデーションの空を背景に、霞んでいくイリーナの視界に映ったのは、大好きだったエーミール『教授』の姿。
また逢えて
よかった
「……おやすみなさい。イリーナさん」
エーミールは拳銃の引き金を引くと、イリーナの眉間に一発、心臓に一発、銃弾を撃ち込んだ。
「イリーナ……、イリーナ……」
エーミールの背後に、幽鬼のように立ち尽くすエリの姿。
無理もない。
ずっと親友だと思っていたイリーナがR国のスパイだったこと。自分とエーミールを拉致しようとしたこと。全てを知っていたエーミールによって殺されたこと。
すべての状況が飲み込めない。
けれども目の前には、左腕を赤黒く染めたエーミールと、頭と喉と胸部から血を流し倒れているイリーナの姿。
エーミールは見開かれたイリーナの目を閉じると立ち上がり、エリの方に歩み寄る。
「恨んでくれて構いませんよ」
それだけ言うとエリから離れ、左耳の小型インカムに手をあてる。
「ペンギンです。食事終わりました」
『こちらブタさん。天狗の遠眼鏡で確認』
『こちらチワワ。ももたろさん食ったった。ブタさんと全部食った』
「お疲れ様です。片付けて戻ります」
「クジャクさん」
『あい、クジャクジャク~』
「卵の回収お願いします。ホタルの場所へ」
『あいよ~』
通信が終わると、エーミールは高台下にある駐車場へと向かい、軽バンの中から死体袋を取り出し、現場に戻ってきた。エリはまだイリーナの傍に立っていた。
「イリーナさんのご母堂と弟さんですが」
エーミールはイリーナを担ぎ上げ、誰に言うでもなく淡々と話し始めた。
「イリーナさんがここに赴任してすぐ、R国の収容所に連行されていたそうです。それからの生死は不明。ご家族のためにと彼女が送った仕送りは、誰かの懐に入っていたようですね」
服が血と泥で汚れるのも構わず、エーミールはイリーナの死体を保護袋に納め、袋ごとイリーナを抱き上げた。
淡々と、すべての決まりきった手順で、自らが作った死体の後処理をしている間、エーミールは何を考え、エリは何を思っていたか。
「私はイリーナさんと施設に戻ります。では」
イリーナの死体をお姫様のように担ぎ上げ、何事もなかったかのようにこの場を去ろうとするエーミールの背中に、エリは大きな声で叫んだ。
「私ッ!恨みませんから!所長のこと…恨んだりしません!だからッ、だから!」
エリが顔を上げると、すでにエーミールの姿は高台から消えていた。それでも構わず、エリは叫び続ける。
「イリーナのことを、イリーナのことを!忘れないでッ!!」
そこまで言うと、エリの内なる感情は爆発し、喉が張り裂けそうな声で泣き叫んだ。
【続く】
【用品解説】
◆フリップフロップネクロ・Melanistic
→『白蛇屋』謹製の美しいフォルムのナイフ。
フリップフロップネクロの黒色バージョン。
黒クロームメッキの上にフッ素系の塗装を施したモデルで、撥水性や防錆性に優れているそうです。
欲しい……(*´ω`*)
【暗号解読】
ブタさん…トントン(狙撃チーム補佐)
チワワ…コネシマ(狙撃チーム隊長)
ペンギン…エーミール(作戦総指揮)
クジャク…鬱先生(作戦監督)
フクロウ…チーノ(作戦補佐)
ももたろさん…敵の船
卵…研究員の総称
ホタル…発信器
コメント
5件
ナイフ持ちやすそうだしかっけぇ