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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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豪華客船のメインホールは、金箔とクリスタルのシャンデリアが放つ眩い光に満たされていた。
今夜は、世界中の裏社会の頂点に立つ者たちが集う、年に一度の仮面舞踏会(マスカレード)。
贅を尽くした絢爛なドレスやタキシード、そして顔の半分を覆う精巧な仮面。
誰 もが素顔を隠し、偽りの名と微笑みを纏って、敵と味方が笑顔でグラスを交わし合う、極上の欺瞞の舞台だった。
マフィオソもまた、漆黒のタキシードに身を包み、銀色の冷徹な仮面でその美しい容貌を隠していた。
常に周囲を警戒し、冷徹に獲物を品定めするその佇まいは、仮面越しであっても圧倒的な存在感を放っている。
だが、背後から近づく一つの影に、彼の鋭い直感が警鐘を鳴らすより早く、その手首が強引に掴まれた。
「……っ!?」
拒絶の声をもらす隙さえ与えられず、男の大きな掌がマフィオソの口を塞ぐ。
そのまま淀みのない足取りで、華やかな喧騒から引き剥がされるように、客船の奥深くへと連れ去られた。
幾つもの扉を通り抜け、辿り着いたのは、一般客の立ち入りが禁じられた、静まり返った配電室だった。
ガチャン、と重い鉄の扉が閉まり、鍵がかけられる。
室内は、精密機械の微かな駆動音と、いくつかの計器が放つ鈍い緑色の光があるだけの、暗闇に包まれていた。
「……何の真似だ、無礼者。自分が誰に手を上げているか分かっているのか」
口を塞いでいた手が離れた瞬間、マフィオソは低く冷酷な声を響かせた。
暗闇の中で、彼の銀色の仮面が怪しく光る。手首を掴む男の力は、驚くほど強固で、微動だにしない。
男は、顔の上半分を漆黒の、野獣を模した狐の仮面で覆っていた。
隙のない仕立てのタキシード。
サングラスはなくとも、その口元に浮かぶ不敵な笑みだけで、マフィオソは男の正体を完全に察した。
「分かってないね、お互いに」
男——チャンスは、わざと声を低く変え、芝居がかった調子で囁いた。
「ここは仮面舞踏会。誰もが素顔を捨てた場所だ。あんたがどこの偉いボスだろうが、俺がどこの馬の骨だろうが、この仮面がある限り、俺たちはただの『名前のない男と男』だよ」
「詭弁を……。そんな偽装が、私に通用すると思うか」
「通用させるんだよ、今夜はさ」
チャンスはマフィオソの身体を、冷たい配電盤の壁へと強引に押し付けた。背中に伝わる鉄の冷たさと、目の前にあるチャンスの圧倒的な体温の対比に、マフィオソの息が微かに乱れる。
「……チャンス」
「おっと、名前を呼んだら興ざめだ。俺はただの、あんたの肉体に飢えた暴漢。あんたは、そんな暴漢に捕まった、無力な迷子。……それでいいだろう?」
言い終えるより早く、チャンスの唇がマフィオソの唇を塞いだ。
「ん……、ふ……っ!」
仮面同士が硬い音を立ててぶつかり合う。
だが、露出した唇と唇は、驚くほど生々しく、熱く絡み合った。
チャンスの熱情が容赦なく口内へと侵入し、マフィオソの理性を強引にかき回す。
いつもなら、すぐに懐の銃を引き抜いてこの不遜な輩の頭を撃ち抜いているはずだった。
だが、チャンスの言う「偽装」という言葉が、マフィオソの心の奥底にある、普段は決して許されない歪んだ欲求を呼び覚ましていく。
(誰も見ていない……。仮面を外さなければ、これは『私』の失態ではない……)
そんな甘美な免罪符が、マフィオソの強固な理性を、内側からじわじわと融解させていく。
「は、ぁ……、ん……」
接吻が解かれた時、マフィオソの呼吸は完全に乱れていた。仮面の奥の瞳が、暗闇の中で妖しく潤んでいる。
チャンスの手が、マフィオソのタキシードのフロントを乱暴に開き、上質なシャツのボタンを次々と弾き飛ばした。
冷たい配電室の空気に晒された肌に、チャンスの熱い手のひらが容赦なく滑り込む。
「あっ……、ん、う……っ」
「いい声。いつもみたいに張り詰めた命令の言葉じゃなくて、そういう可愛い声、もっと聞かせてよ」
チャンスはマフィオソの身体をさらに深く組み伏せ、逃げ場をなくすように距離を詰めた。
互いの衣服が激しく擦れ合い、露わになった熱い衝動が、マフィオソの全身へと強烈な快感となって突き刺さる。
「ひ……あ、あ、っ……!?」
衝撃に、マフィオソの身体が大きくのけ反る。銀色の仮面が、驚きと快楽の狭間で激しく揺れた。
一切の容赦のない激しい愛撫に、マフィオソの脳内は一瞬で真っ白に染まる。
「あ、っ、は……、ま、待て……、狂う……っ」
「狂えばいいよ。あんたはそんなに弱くない。……ほら、こんなに俺を求めて熱くなってる」
「つ、まらないことを……、言うな……っ!」
強がりを言う口元とは裏腹に、マフィオソの身体は完全にチャンスの強引な快楽に屈していた。
壁に押し付けられたまま、二人の距離が交わるたび、衣擦れの音と重い吐息が配電室に響き渡る。
暗闇の中、計器の緑色の光が、マフィオソの汗ばんだ鎖骨や、快楽に震える指先を妖しく浮かび上がらせていた 。
その大人の色気、普段の冷徹さが完全に崩壊していく様を見て、チャンスの情欲は限界突破していく。
激しい衝動が繰り返される中、マフィオソはある欲求に駆られた。
目の前で自分を貪り、狂わせている男の、本当の顔が見たい。この偽装の夜の中で、自分だけがその素顔を独占したいという、猛烈な独占欲。
マフィオソは震える手を伸ばし、チャンスの顔を覆う、漆黒の狐の仮面に指をかけた。
「……ボス?」
チャンスが動きを微かに止める。
マフィオソは自ら、チャンスの仮面をゆっくりと剥ぎ取った。カチャリ、と仮面が床に落ちる音が響く。
現れたチャンスの素顔。
その瞳は、いつもの軽薄さなど微塵もなく、執着と独占欲でドロドロに濁っていた。
その剥き出しの獰猛な視線に見つめられ、マフィオソの胸の奥が、恐怖にも似た最高の快感で跳ね上がる。
「……外したな」
チャンスが低く、獰猛に笑った。
「もう言い訳はできないぞ。俺が誰だか、分かったんだろう?」
「……黙れ、チャンス。……私を、もっと狂わせてみせろ」
マフィオソは自らチャンスの首に腕を絡め、その唇を求めた。ボスのその最高に挑発的で、情熱的な降伏宣言に、チャンスの理性が完全に弾け飛ぶ。
「あ、あ、ぁぁッ……! ん、 ふ、ぅ…っ!」
仮面をつけたままの男と、素顔を晒した男。
配電室の暗闇の中で、二人はどちらが支配者なのか分からなくなるほどに、激しく、深く、互いの存在を求め合っていった。
外の華やかなワルツの旋律など、もう二人の耳には一切届かなかった。
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