テラーノベル
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「おい、正気か!? こんな異変の真っ只中で、門番にエサをやるつもりかよ!」 魔理沙が驚いて箒から身を乗り出すが、俺はもう止まらない。 「肺が腐る前に、俺の料理でこの場を収めるんだよ! 霊夢、魔理沙、ちょっとそこ持ってて!」
俺は手早くカセットコンロを広げ、リュックから小さな鍋と、里で買っておいた「冷や飯」、そして例の『究極の白だし』を取り出した。
「ふん……。料理などで私の拳が鈍るとお思いですか。私は不眠不休で門を守る、誇り高き……」 美鈴は凛とした表情で拳を固めていた。だが、俺が瓶の蓋を開けた瞬間、その場の空気が変わった。
ふわぁっ……。
カツオの力強い香りと、昆布の深い旨味を凝縮した香りが、重たい赤い霧を物理的に押し返すように広がったのだ。
「……っ!?」 美鈴の鼻がピクリと動く。構えていた腰が、わずかに浮いた。
俺は鍋に白だしを注ぎ、水で割り、冷や飯を投入する。さらに仕上げに、砂浜で作った鰹節の残りをパサッと振りかけた。
「じゅわぁぁ……」
熱い出汁が飯に染み込む音が響く。 美鈴の目は、もはや霊夢や魔理沙ではなく、俺の手元の鍋に釘付けになっていた。
「(……なんという香り。紅魔館の豪華なフレンチとは違う、心の隙間に直接入り込んでくるような、懐かしくて優しい匂い……)」
美鈴の固く握られていた拳が、指先からゆっくりと解けていく。 「い、いえ、私は……騙されませんよ。これはきっと、精神に作用する特殊な術式か何かで……」 そう言いながらも、彼女の体はフラフラと吸い寄せられるように一歩、また一歩と鍋に近づいてくる。
「はい、できた! 『究極の白だし・即席だし茶漬け』だ! 熱いうちに食え!」
俺が差し出した茶碗から立ち上る湯気に、美鈴はもう耐えられなかった。 完全に構えを解き、あろうことかその場に膝をついて、俺から茶碗をひったくるように受け取った。
「…………いただきます!」
「あーあ、あいつ完全に落ちたわね」 霊夢が呆れたように御札を懐にしまった。
美鈴が一口、出汁の染みた飯を口に運んだ瞬間。 彼女の背後に、赤い霧とは違う、黄金色のオーラが噴き上がったのを俺は見逃さなかった。
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