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はふぅ……。生きててよかったです。こんなに心に染みる味、生まれて初めて食べました……」
茶碗の底まで綺麗に舐めとらんばかりの勢いで完食した美鈴は、すっかり毒気が抜けた顔で、門の鍵をカチャリと開けた。
「いいですよ、通ってください。お腹がいっぱいだと、なんだか戦うのが馬鹿らしくなっちゃいました。……でも気をつけてくださいね。中には私よりずっと厳しい、銀髪のメイド長がいますから」
「話がわかるじゃない。ありがと、美鈴」 霊夢は当然のように言い、俺の首根っこを掴んで門の奥へと引きずり込んだ。
「おい、待てって! 肺が腐るかもしれないんだから、そんなに急ぐな!」 「静かにしなさい! ここからは不意打ちが基本よ」
俺たちは巨大な紅い絨毯が敷かれたロビーに足を踏み入れた。 外の赤い霧よりもさらに濃密で、ひんやりとした空気が肌を刺す。館の中は不気味なほど静まり返っており、俺たちの足音だけが「そおっ……そおっ……」と情けなく響いた。
「(なあ霊夢、ここ、めちゃくちゃ高級そうな匂いがするぞ。白だしとは違う、香水とか、紅茶とかの匂いだ……)」 「(当たり前でしょ、吸血鬼の館なんだから。……しっ、魔理沙、上よ!)」
霊夢が声を潜めた瞬間、高い天井のシャンデリアがわずかに揺れた。 俺は息を止めて、背負ったリュックを強く抱きしめる。
「(……もし見つかったら、また料理で切り抜けられるかな……?)」 「(甘いぜ、中のメイド長は美鈴みたいに単純じゃない。ナイフが飛んでくるのが先か、鍋を出すのが先かってレベルだぜ)」
魔理沙の脅しに、俺の歯がガチガチと鳴り始める。 ふと見ると、廊下の向こうからカツ……カツ……と、規則正しい靴音が近づいてくるのが聞こえた。
「――おや。門番が居眠りでもしたのでしょうか。珍しいお客様ですね」
冷徹で、凛とした声。 霧を切り裂くように現れたのは、無数の銀色のナイフを指の間に挟んだ、完璧な身なりのメイド長――十六夜咲夜だった。
俺はとっさに、まだ温かい「白だし」の瓶を、まるで手榴弾のように構えた。