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「……先生に恋をしてないから、落ちないんです…」
ワインを一口飲んで告げる。
「恋…?」
口にする彼に、首を縦に頷く。
「いくら身体を合わせたって、思いがなければ、心からは交わらないですから……」
残っていたワインをごくっと飲み干して、グラスを置く。
「知ったようなことを言うんですね、あなたは。……私の方が経験も豊富で、精神科医としても人の心を知ることには長けていると言うのに……」
空いた私のグラスにワインが注がれて、
「……恋愛は、経験や知識だけが全てではないですから」
と、彼にもワインを注ぎ返した。
「興味深いですね、あなたの言い分は……。体の関係から、始まる恋もあるというのに……」
ワインで唇を潤した彼が、
「恋に、明確な定義などないでしょう? 2人の内どちらか一方でも、それを恋だと思っていれば、恋愛は成立するのですから……」
畳みかけるようにも話す。
「……どちらかが、ただ一方的に思っていても?」
私の問いかけに、「ええ」と、彼が頷きを返す。
「一方的であれ、それを恋だと当人が信じているのなら、それは、紛れもなく恋のはずです」
「……先生の話は、精神論です。……現実の恋は、そんなに甘いものでは……」
納得が行かずに反論を試みると、
「そうでしょうね…」
彼が、ため息混じりに口にして、
「だから、あなたも落とせないのです」
いつもの強気な責めぶりを見せることもなく、まるで自らの負けを認めるかのような一言を吐き出した──。