コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あの時は『面倒な事になったら嫌だから、助けたって認識されなくてもいいや』って思ってましたけど、今なら謹んでお礼されてもいいですよ?」
「んー? 何が目当てだ?」
彼はクスクス笑って私の顔を覗き込む。
「京都旅行」
「ん?」
物かと思ったら旅行と言われ、尊さんは軽く瞠目する。
「母の旧姓が|隠岐《おき》と言って、実家が京都にあるんです。祖父母に会ってもらいたいな、って。あと単純に観光したいです」
「それはぜひ。……てか、すぐに桜の時期だな。今からホテルとるのは厳しいか……」
尊さんは難しい顔をして、何やら考え込む。
「すぐじゃなくていいんです。そのうち……で。結婚するのは来年の下半期ですし、それまでに会えたらOK」
「分かった。じゃあちゃんと予定を立てて行こう。どうせなら俺もいい時期に行きたいし」
「はい」
話をしながら、私たちはゆっくり霊園内を進んでいく。
と、尊さんが遠慮がちに聞いてきた。
「……父方は?」
「ん、あー……。……うん。……こないだワインを買いに走ってもらったけど、山梨の甲府。父方の親戚は、父の兄弟があんまり集まるタイプじゃなくて、それほど交流してないんです」
「不仲?」
「ううん、会ったら普通に話すけど、連絡無精なだけ」
「そっか、なら良かった」
尊さんはホッとしたように微笑む。
父方の祖父母について話そうと思ったけれど、なんだか頭の中がモヤモヤと白濁して、うまく思い出せない。
気持ちも変に焦ってしまって、尊さんに心配をかけたらいけないので、話題を変える事にした。
「桜が咲いたらお花見しましょうね」
「ん。花見しながら露天風呂もいいよな……」
尊さんは呟くように言い、私をチラッと見る。
露天風呂と聞いて定山渓での濃厚な夜を思いだした私は、ボボッと赤面して彼の腕を軽く叩く。
「えっちっち!」
「えっちだよ」
照れたのに尊さんは堂々としているので、なんだか悔しい。このオープンスケベめ。
「ふぅん……」
私はチラチラと尊さんを見て、自分的萌えポイントを確認する。
「確かに尊さんってえっちなお兄さんですよね。なんか存在そのものがやらしいもん。目つきとか色っぽいし」
普通に会話をしている時も、『な?』とこちらを見る表情が堪らなくて、キャーキャー悶えたくなるけど、不審者になるので毎度我慢している。
その分、盛大にニヤつきたくなる表情筋との熾烈な戦いになり、最終的に尊さんには『なにニヤついてるんだよ』と笑われてしまうけれど。
そんな事を考えていると、尊さんに頭をチョンとチョップされた。
「朱里だってエッチなお姉さんだろうが。一緒に歩いてる時、その辺の男が意味ありげな目で見てるの、俺は見逃してないからな」
「ええ……?」
それは初耳で、私は目を丸くする。
尊さんは溜め息をつき、私の手を握ってくる。
「二十代、三十代の社会人からおじさん世代、はたまた十代の少年まで、お前とすれ違うと『色っぽい女』『綺麗なお姉さん』って目で見てくるんだよ。……朱里を連れて歩いていて、ある意味気持ちよくはあるけど、ある意味ムカつくな」
「むふふーん、嫉妬? 嫉妬ですか?」
ツンツンと彼の腕をつつくと、尊さんは舌打ちする。
「喜ぶな」
「でもイケメン尊さんがドヤ顔して『俺の女に手を出すな!』ってオーラを出してくれるんでしょう?」
「誰がドヤ顔だ。俺だって先日のバーでの見事なドヤ顔、忘れてないからな」
立ち止まった尊さんは、私のほっぺをムニュムニュと弄る。
「うう……」
先日というのは、涼さんと話した時の事だ。
スッキリしていざダーリンを迎えに……と思ったら、尊さんはカウンターで女性に挟まれていた。
オセロならひっくり返っていたところだ。いや、ミト子になっても困る。
せっかくいい気分になって尊さんへの愛を再確認したいのに! となった私は、ツカツカとカウンターに近寄り、『お待たせ~』と彼をバックハグしたのだ。
両側にいた女性が『なにこの女』という顔をしたのは言わずもがなだけれど、私は負けずにニッコリ笑って言い放った。