コメント
1件
しゅきしゅき2人ワールドトーク( *≖͈́ㅂ≖͈̀ )
『放置プレイが終わったので、迎えに来たんです。お相手どうも。彼、こう見えて孤独を愛するタイプですから、お姉さん達がいなくてもお酒を楽しめますよ』
私はそう言ったあと、物凄く何か言いたそうな尊さんと腕を組んで、涼さんがいる席まで戻ったのだ。
涼さんは放置プレイにツボったらしく、噎せるまで笑っていた。
「……あの女性たちに未練があるわけじゃないけど、凄い誤解を与えたように思えるんだけど」
「ざっくりと『この人は私の男だからね!』って伝わったんだから、よしとしましょうよ」
「……しかしな……。放置プレイ……」
再び歩き出した尊さんはブツブツ言い、不服そうだ。
「それとも『あーらごめんなさい! ここ座りたかったの!』って、お尻をぶつけて隣の席を強奪すれば良かったですか?」
そう言うと、尊さんはプハッと噴き出して空を仰いで笑う。
「不思議とその光景がイメージできる。ホント、朱里は面白くて可愛い女だよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「極上またたび、やろうか?」
「洗濯してない尊さんのTシャツを嗅いで、ガンギマリしたいです」
「ええ……」
本音でぶっちゃけると、尊さんはドン引きした顔をする。
「だって尊さん、いい匂いするんだもん」
「じゃあ俺にも朱里の匂いがついた何かをくれよ」
「変態」
「変態返ししただけだよ。変態を見ている時、変態もまた自分を見ているもんなんだ」
「ミコチェ!」
私たちは軽口を叩いて笑い、荷物を持っていない手を繋いで霊園内を進む。
やがて私たちは、速水家の名前が刻まれたお墓の前で立ち止まる。
「先に誰か来てたんだな。綺麗に掃除されてある」
尊さんが言う通り、お墓には雑草一本生えず、新しいお花が供えられていた。
「……百合、母さんの好きな花なんだよ」
彼は哀愁の籠もった笑みを浮かべ、「さて」と言ってバケツに汲んだ水を柄杓ですくい、そっと石碑に掛けていく。
私はペコリと頭を下げて中に入り、雑巾でお墓を拭き始めた。
尊さんも反対側や墓誌、灯籠や花立、水鉢、小さなお地蔵さまを拭き、最後にお花をちょっと無理矢理入れて線香を用意する。
尊さんは溜め息をついたあと、墓誌に刻まれているさゆりさんとあかりちゃんの名前を見て、しゃがんで手を合わせる。
私は彼が母と妹の死を悼む姿を、後ろからそっと見守っていた。
やがて尊さんが立ち上がったあと、私はお墓の前でしゃがんで手を合わせる。
私は少しの間石碑を見つめたあと、目を閉じて心の中でさゆりさんとあかりちゃんに語りかけた。
(はじめまして、上村朱里と申します。尊さんと結婚させていただきたいと思っております。彼とは十二年前にご縁があって再会しましたが、あかりさんの事も含めて運命を感じています。でもそれだけじゃありません。傷付いた彼を癒して幸せにしたいと思いますし、私自身、尊さんに強く惹かれて一緒にいたいと思っています。私たちには運命的な関係にあると思いますが、それ以上に彼を一人の男性として尊敬し、愛しています。私、尊さんと一緒にいると、とても自然体になれるんです。こんな人はもう現れないと思います。だから、絶対に彼を幸せにします。だからどうか私たちの結婚をお許しください。見守っていてください)
終わったあと、私は顔を上げて微笑む。
そのとき風が吹いて、ザァッと周囲の木々を揺らした。
一際強い風はただの春一番かもしれないけれど、私には二人が応えてくれたように感じられた。
立ちあがって振り向くと、尊さんは時間を確かめていた。
「時間、大丈夫ですか?」
小牧さんと弥生さんとは、東京ミッドタウンのレストランで待ち合わせし、一緒にランチをする予定だ。
十二時半の予約なので、まだ間に合うと思うけど……。
「ん、大丈夫。ゆっくり歩いていけるぐらい余裕がある」
応えたあと、尊さんは微笑んで掃除道具を片づけ始めた。
「そろそろ行くか」
「……はい」
私たちは最後にもう一度お墓に手を合わせ、ゆっくり歩き始める。
「……尊さん、なんてお参りしたんですか?」
訪ねると、彼はいたずらっぽく笑う。
「『食いしん坊と結婚するから、充分食わせていけるよう見守ってください』って」
「なにそれー! ブーブーですよ、ブーブー」
親指を下に向けて不満を訴えると、尊さんはケラケラ笑う。
それから私の手を握ってグッと引き寄せ、耳元で囁いた。