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表現方法天才だ。 アニメか映画、小説見てる感じ
表現神すぎる!、、 なんかこっちも心あったかくなったわ、、 アニメ化か、小説化する事を夢に見ています。
えとさんの魔法のような記憶を胸にしまいながら歩いていると、前方に大きな建物が現れた。
広い屋根。高い壁。
扉の向こうからかすかに響いてくる、静かな残響。
「……ステージ会場?」
じゃぱぱが一歩近づくと、
重たい扉がひとりでに“きぃ……”と開いた。
中は暗い。
でも、その暗闇の奥で――
ひとつだけスポットライトが灯っていた。
まるで“ここへおいで”と呼んでいるみたいに。
じゃぱぱが歩みを進め、ステージに足を踏み入れた瞬間、
ライトの中で影が揺れた。
「……あ。」
座っていたのは、
静かに鍵盤へ指を置いた うりさん だった。
背中はまっすぐで、姿勢は美しくて、
でもどこか懐かしい空気をまとっている。
「よく来たね、じゃぱぱさん。」
穏やかで優しい声。
その声だけで胸がふっと軽くなる。
「うり……ここ、うりの記憶?」
「うん。たぶん、“音が残っていた場所”だね。」
うりさんが指を軽く動かすと、
ピアノからほそい光のような音がひとつ響いた。
ただの音じゃない。
まるで心の奥の扉を叩くような、透明な響き。
じゃぱぱの胸がきゅっ、と熱くなる。
「ねぇじゃぱぱくん。覚えてるかな。
僕たち、よくここで――」
うりさんの指が鍵盤の上で踊る。
――ぽん。
ぽろん。
ぽろろろろ……
優しい音が、ステージの空気を満たしていく。
その旋律を聞いた瞬間。
じゃぱぱの脳裏に光が走った。
――本番前の静かなステージ。
――緊張して座り込む自分の隣で、うりさんがぽつりと弾いた音。
――「大丈夫。音は逃げないよ」って微笑んでくれた声。
――その音に合わせて、一緒にアイデアを口ずさんだ時間。
じゃぱぱは思わず息をのむ。
「……全部、うりとの時間だ。」
「うん。」
うりさんはやわらかく笑う。
「じゃぱぱさんはね、人の気持ちを“音”として記憶してるんだよ。」
「音……?」
「そう。
誰かと笑ったときの音。
誰かががんばってたときの音。
誰かが泣きそうなのをこらえたときの音。
全部、君の中の記憶になって残ってる。」
ピアノが少しだけ低い音を響かせる。
「でも、その音が混ざりすぎて……
君の中で、整理できなくなったんだ。」
胸が痛くなる。
「俺……そんなことで……?」
「ううん。
“優しいから”だよ。」
うりさんの声は、静かなのにまっすぐで、温かかった。
「じゃぱさんは、自分の音よりも、誰かの音を優先してしまう。
だから、自分の記憶が後ろに押し出されちゃったんだ。」
うりさんの両手が鍵盤にそっと置かれた。
「でもね――これはまだ、君の中に残ってた“最後の音”。」
次の瞬間。
美しく、透明で、ただ優しい旋律がステージいっぱいに広がった。
音の粒が光に変わり、舞台の上に漂う。
その光の中で、じゃぱぱはすべてを思い出した。
うりさんと一緒に作ったメロディ。
笑いながらハモったこと。
アイデアが出なくて沈んでいたとき、
そっと響かせてくれた即興の音。
「……俺、やっぱり……うりとの音、好きだったんだ。」
「俺もだよ。」
うりさんは微笑む。
「じゃぱぱさんが隣で笑うと、いつも音が明るくなった。」
最後の音がすうっと消える。
「じゃぱぱさん。」
うりさんはゆっくり立ち上がる。
「記憶の旅は、ここからが本番だよ。
でも――じゃぱぱさんならきっと、大丈夫。」
光がゆっくりと彼の姿を包む。
「じゃぱぱさんの音は、じゃぱぱさんにしか出せないんだから。」
うりさんの姿が完全に消える。
ステージに残ったのは、
ほんのり温かい残響と、胸の奥の確かな光だけだった。
「……ありがとう、うり。」
じゃぱぱはステージを後にし、
次の記憶へと歩き出した。