サンフィアとの誓約の結びの話は、今はどうこう言わないことにした。それはともかくとして、回復したルティたちを伴ってかつての中心部に足を踏み入れる。
森林ゲートを先に進むと、そこには驚く光景が待っていた。おれたちは予想しつつも、廃墟と化した建物の姿に思わず息を呑む。
「ウニャ……」
「うぅ……これは何とも言えませんです」
「こ、これが、イスティさまの……」
滅亡公国ということ自体は、彼女たちには事前に知らせていた。だが苔だらけの建物に加え、無惨に破壊された家々の姿を目の当たりにすると、彼女たちは途端に何も言えなくなった。
とはいえ、すでに人間が住んでいた面影は既に無く、魔物の庭と化している廃墟ばかり。そこに目が行くが、現時点で魔導兵の姿は見られない。
「アックさま、どう動かれます?」
「そうだな……ここのモンスターは強さのレベルが違うようだから、基本的にまとまって動く」
「ところで、戦力になるといってもあの者を戦いに参加させるつもりは無いのでしょう?」
「サンフィアのことか」
森林ゲートにいた獣人たちを含め、サンフィアと数人のエルフもおれたちに付いて来た。しかし、サンフィア以外のエルフに戦えそうな者がいなかった。
そうなると守りながら進むことになることが予想されるので、他の者は説得によりゲートの所で留まってもらうしかなかった。もちろんミルシェの防御魔法を付与してあり、力が強くなくてもある程度は凌げる。
サンフィアと一緒にいた獣人たちは守備力が高いことから、こっちが手を貸さなくても防ぐだけなら問題は無いと判断した。そのことを確認した時もサンフィアは強気だった。
◇◇
「幻影魔法は我だけのモノではない!」
「獣人の子たちが使えるというのか?」
「フフ、外の人間よりも優秀だ。男のエルフよりもずっとな」
「それなら説得を頼む」
「いいだろう。だか我はキサマに付いていくからな?」
「……分かった」
外の人間、つまり白狼騎士団のことだ。サンフィアは彼らを知っていてなお、彼らよりも獣人の子たちの方が使えるということのようだった。
◇◇
「アック、アック! エルフは何でついて来ているのだ?」
「本当ですよ~! 戦いで勝ったのは分かりますけど、お役に立てるんですか~?」
「いや、前線で戦えるのはシーニャとルティだけだな」
「ウニャ? じゃあ何が出来るのだ? シーニャ、アックの足手まといは要らないと思うのだ」
シーニャの言うことはもっともなことだ。特に途中で加わる者に対してはシーニャは誰よりも厳しい。
「強いて言えば、時を稼げる戦い方が可能だ」
「時を何なのだ? ウニャニャ?」
「そのうち分かる。それより、廃墟は目に焼き付ける必要は無いぞ。魔物を一掃して国づくりをするんだからな! そしたらここに住めるし、シーニャやルティの部屋も好きなだけ作れる」
「そ、それって、わたし専用のお部屋ですかっ!?」
「もちろんだ。倉庫の時と違って、ここがおれたちの国となる。だから今は、サンフィアのことを気にしないことだ」
そうは言いつつも、ただならぬ気配を出しているサンフィアを気にするなという方が難しそうだ。ルティの赤毛も目立っているが、サンフィアが身を包んでいる真紅のローブが圧倒的すぎる。
「我《わ》が夫イスティ! どこまで歩き進むつもりだ?」
おれたちの会話は聞こえていなかったようだが、後ろのサンフィアが声を張り上げている。それもとんでもない発言を含めて。
「――ウニャッ!?」
「お、夫!? え、えええ? ア、アック様……まさかそんな――そんなぁぁぁぁぁ!!」
「待て、落ち着けルティ! シーニャも!!」
やはりこういう反応になるか。
「……ふぅ。小娘たちに隠し通せると思ったのが間違いですわ」
「そう言われてもな。ミルシェ、何とかならないか?」
「それはアックさま次第。でも誤解でも無いわけなのですから、全てが片付く前に説明をすべきではないかしら?」
「そ、そうだよな」
一緒について来ている時点で、自然と口にすることくらい想定すべきだった。サンフィアとは確かに誓約という名の口づけをされてしまったが、それだけでそんなことになるとは思っていない。
しかしサンフィアと接しつつ、ルティやシーニャにも上手く説明するしか無さそうだ。
「フィ、フィア! おれの所に来てくれないか?」
「いいだろう! それも妻たる我のつとめというもの」
強い味方を得たと思ったが、実は新たな問題を抱えてしまったのだろうか?
まずは魔物と魔導兵の一掃が重要だと思うが、そうもいかないようだな。