文化祭編
日本が転入してきて,早一ヶ月が過ぎようとしていた。
「アメリカ~…おはよう…」
「おう…ロシア,おはよう」
久し振りに顔を見せたロシアは,一ヶ月という長期間を経て,ベラルーシから解放されたらしい。
「ロシアさん,久し振りです…」
隣からひょこ,と日本が身を乗り出した。
「日本…」
ロシアは疲れきった顔で日本に抱き付いた。そして,日本は,その頭を静かに撫でる。
(…なに見せられてんだ?)
「はいはい,離れた離れた!」
「うわあああ~…アメリカのケチ~…」
「何がケチだよ…」
全く,こっちは日本と一緒に楽しく登校してたとこだってのに。
「てか,何で日本が居んの?アメリカが呼んだのか?」
「えっと,最近は毎日一緒に登下校してて…」
「はぁー!?ふざけんな!羨ましい!いつの間にそんな仲良くなってんだよー」
「うるさいロシア」
久し振りにロシアを見れて嬉しい…と思わなかった訳じゃないが,今はうるさいと言う感情が勝った。
「まぁまぁ…ほら,ロシアさんも一緒に行きましょう!」
「あたりめーだ!」
「いや一人で行け」
「いーやーだ!」
ずるずると着いてくるロシアを引きずって歩けば,いつの間にか学校に着いていた。
キーンコーンカーンコーン…
「起立,礼ー」
一時限目は,学活。基本的に何もしなくて良いし,楽な教科だ。
「今日は,文化祭の手伝いの係を決めていきますからねー」
前言撤回。めんどい。
「それじゃあドイツさん,お願い」
「分かりました」
げ,進行は裏ボスかよ…
「去年もやったから分かると思いますけど,今年もやることは去年と同じです。」
「それじゃあ今から黒板に係を書いていくので,どの係がいいか考えておいて下さい」
もう文化祭の季節か…。
(今年は何の係に入ろっかな…)
ぼんやりと黒板を見つめていると,ふと服の裾を引っ張られる感覚に,俺は横を向いた。
「日本,どうした?」
気まずそうに日本は言った。
「…あの,文化祭って,何するんですか…」
…そういえば,日本は文化祭のこと,何も知らないのか。
「日本が通ってた学校には無かったのか?」
「…ありましたけど,中等部には関係ありませんでした」
確かに,普通文化祭は中学生が参加するもんじゃない。
「えっと,この学校が小等部,中等部,高等部って分かれてるのは知ってるよな?」
「はい」
「基本的に文化祭は高等部がメインだけど,その手伝いを中等部がするんだよ」
「そうなんですか…」
「手伝いって言っても,ただの雑用だけどな…。各係に分かれて,先輩にこき使わ
れるだけだよ」
話している間に,黒板にはどんどん係が書かれていく。
記録係,清掃係,作業係,サポート係。去年と変わらない。
「どれを選べば良いんでしょうか…」
「そうだなー…」
正直,どれを選ぶに関係無く仕事は押し付けられるから,考えてもあんまり意味は無い。…でも,できるなら日本と同じ係になれるよう,誘導してやろう。
「まず,サポート係は論外。サポートってだけあって,何でも手伝わされるから。」
「次に作業係。大体資材の買い出しとか,組み立ての手伝いとかの重労働だから。去年これだったけど,まじできつかった…」
「で,清掃係はその名の通り清掃。大体ゴミ拾いとかだな。」
「つまり,一番楽なのは記録!進捗状況とか,周りの人の体調の記録をしとくだけでいいからすっげー楽!…らしい」
一通り説明し終わると,日本は余計悩んでいた。…あれ。じゃあ記録係,ってなると思ったんだけど。
「だったら,清掃係にしようかな…」
…完全に予想の斜め下の答え。
「きつくないか?」
「うーん…散らかってると嫌だし,清掃係が一番迷惑掛けないで済むと思うんです…」
「迷惑ぐらいどんどん掛けろよ」
「…ありがとうございます」
どうやら清掃係から変えるつもりは無いらしい。…だったら。
「だったら,俺も清掃係する」
日本は驚いたような顔をした。
「あの,僕なんかに合わせなくても…」
「友達が一人も居ないと暇だろ?」
まるでそういうことじゃ無い,とでも言うような顔をした日本がこちらを見つめて来る。残念だけど,こちらも変える気は無い。
結局俺達は清掃係で決定し,今日は早速先輩達の手伝いに行く事になった。
「あの,先輩方は怖くないですか…」
「ビビりすぎだって,日本ー」
高等部の校舎は,この学園の中で一番大きい。渡り廊下で繋がっていて,普通中等部はお世話になることは無い場所だ。
「着いたぜ」
高等部一年の教室。躊躇うこと無く,扉を開く。
「おじゃましまーす」
「アメリカさん…!」
教室中が一気に沈黙する。
「あ,あああ…ごめんなさい…」
日本はひたすら動揺している。
「落ち着けって…」
焦る事は無い。何故なら,この教室には,俺の…いや,俺の家族の。
「知り合いが居るから」
バッシャーン!
突然,顔面に正体不明のドロリとした液体がヒット。…何だ,お前ら顔面ヒット大好きなのか?
「…アメリカ…」
「先輩の教室に入るときはノックぐらいしろ!!」
叫び声の主は…フランス(さん)。
「さーせんさーせん!てか,そんぐらいで怒んなよ~」
「黙れ,喋んなアメカス!お前もあの変態毒舌馬鹿舌紳士(笑)と同類だ!」
「はあ!?あいつと一緒にすんなって!」
フランスは,この通り,イギリスと知り合いだ。…多分,腐れ縁ってやつ。
「俺達,手伝いに来たんです!清掃係で!」
「あー,帰って良いよ!清掃ぐらい自分達で出来るから!」
まずい,相当怒らせた。いや,沸点が低すぎる。とにかく,このままじゃまともに手伝わせて貰えない。
「あの,すいません…!」
その時,日本が後ろから顔を出した。
「突然入ってしまってすみませんでした…何でも良いです,手伝わせて下さい…!」
またまた教室中が沈黙。
「可愛い!何,この子!」
…フランス。えらい変わりようだ。
「いいよいいよ,それぐらい!ほら,そんなとこに突っ立ってないで,入っておいで!」
日本が教室に入る。その瞬間,目の前で扉が閉まる。
「アメカスは,入ってこなくていいから」
…前途多難だ。






