テラーノベル
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教室の扉を抜けた瞬間、ほこりの匂いがさらに濃くなった。俺が知っている“からぴち学園”の匂いじゃない。もっと、湿ったような、時間が腐っていくみたいな匂い。
廊下は薄暗くて、夕方なのか夜なのかもわかんない。
電灯がチカチカ光るたび、俺の影がぐにゃっと伸びたり縮んだりして、不安を煽ってくる。
「……ここ、ほんとに俺の通ってた学園なのか?」
口にしただけで胸の奥がざわつく。
何年も通った場所なのに、まるで初めて来たみたいな違和感。いや、初めて来たほうがまだマシかもしれない。
ゆっくり歩いて、階段へ続く角を曲がる。
——そして、固まった。
階段は、無かった。
正確に言えば……あったはずの場所に、ぐにゃりと曲がって壁に吸いこまれた“何か”があった。
「うそ……だろ……?」
手すりの一部が床に落ちていた。
触ってみたら、砂みたいに崩れた。
俺は慌てて手を引っ込めた。
もう理解したくないけど、わかってしまった。
——学校が、生き物みたいに変形してる。
背中に汗がつうっと流れた。
「……とにかく、どっか別の出口探さないと。」
そう思って歩き出した瞬間、どこからか声がした。
*——ゆあん……。*
「……えっ?」
空気の奥から滲むみたいにして聞こえた声。
耳元じゃないのに、耳の中に直接流れ込んでくる感覚。
男か女かもわからない。
優しい……ようでいて、なんか冷たい。
「誰……?」
振り返っても、廊下には誰もいない。
影だけが揺れている。
そう思ったとき、また声が響いた。
*——待っているよ。ずっと、ずっと……。*
心臓がキュッとなった。
その言い方が、俺の知っている誰かのようで……でも、はっきり思い出せない。
「……やめろよ。どこにいるんだよ。」
声を上げた瞬間、壁がぐにゃりと波打った。
まるで水面に触れたみたいに、壁全体がプルッと揺れ、その奥から黒い影みたいな手が伸びて——
「うわっ!」
咄嗟に飛び退いた。
影の手は俺の腕を掴みかけて、空を切り、煙みたいに消えた。
息が荒くなる。
心臓が今にも飛び出しそうだ。
このままここにいたら、絶対に飲みこまれる。
そんな確信があった。
「出口……出口どこだよ……!」
パニック寸前の俺の目に、廊下の奥のドアが見えた。
職員室の扉。
そこだけ灯りが漏れている。学園全体が歪んでいる中で、その部屋だけが“ちゃんとしてる”ように見えた。
……いや、それって逆に怖いんだけどさ。
誘われてる気もする。
でも他に行ける場所がない。
俺は唾を飲みこんで、震える足を前に踏み出した。
職員室の前に立つと、扉の向こうがひどく静かだ。
人がいない“静けさ”じゃない。
何かが、息をひそめて俺を待っているような静けさ。
「……行くしか、ないか。」
俺は、そっと扉を押した。
ギィィ……と古い蝶番の音が響き、
光の漏れる職員室の中が、ゆっくりと俺の視界へ開いていった——。
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!新作嬉しいです!!今回はゆあんくんが主人公なんですね!!謎の声…続き気になります!!続き楽しみにしてます!!