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とりあえず桔梗さんがテーブルについて会話をしている。
「椿、あのテーブル、あなた指名なのよ。行ける?無理だったらなんとか理由つけて断るから……」
蘭子ママさんが椿さんに相談をする。絶対止めた方がいい。
「いいわ。行く。もう逃げたくないから。桜に情けないところ、見せられないし……」
チラッと私を見る椿さん。
「わかった。あの女の子たちお転婆そうだし、ボディタッチしてきそうだから、桔梗はそのままテーブルに居てもらうわ。二人で接客してちょうだい。桜ちゃん、ごめんね。せっかく先に指名してくれたのに」
蘭子ママさんが謝ってくれた。
「私は大丈夫です」
椿さんが心配だけど……。
椿さんを見つめていたら
「そんな目で見ないの。何かあったら桜が守ってくれるんでしょ?だから安心よ」
いつものように綺麗な微笑みを私に見せ、指名されたテーブルへ向かった。
「先日はありがとうございました。椿です。ご指名、ありがとうございます」
「わぁ!やっぱり綺麗!男の人ですよね?見えないー」
「どうやってお化粧しているんですか?」
テーブルについて早々、質問攻めに遭っている。
「へぇー。よく見ると顔は女だけど、身体はやっぱり男だよね。なんか骨格しっかりしてるし」
そう言ったのは、蒼さんの同級生だ。
チヤホヤされている椿さんが面白くないみたい。
顔色は悪いながらも、笑顔で接客を続ける椿さん。
そのテーブルのお客さんはお酒もすすんでいった。
「椿さんって恋愛対象はやっぱり男の人なんですかぁ?」
女のお客さんが質問をする。
「んー。そうね。秘密です!」
接客態度も悪くない、具合悪いはずなのに。
この間、お家であんなに具合悪そうにしてたのに。
過去の酷いトラウマなんて、そんなにすぐ克服できるわけない。
「椿に声かけてきて?もう下がっていいわ。桜ちゃんだって指名してくれてるし。あのテーブルにはもう十分接客はしてもらったから」
蘭子ママさんが他のスタッフさんに伝えた時だった。
「整形はしているんですか?身体は男なんでしょ?あっちの方はもうないの?」
「いやだー。何聞いてんの!」
女性が笑っている。
あっちって下半身のこと?
同級生だった男が椿さんに質問をした。
「整形はしていないです。あとのご質問は想像にお任せしますね」
それでもまだ椿さんは平静を装っている。
スタッフさんが「椿さん、そろそろ……」と声をかけた。
「えー。もう行っちゃうの?」
女性が嘆いている。
「申し訳ございません。他のお客様もいらっしゃるので。ゆっくりしていってくださいね」
椿さんが席を立ち、こちらに向かって来る時だった。
同級生の男が椿さんの腕を引っ張った。
何するの!?思わず、私も席を立ってしまった。
「いいじゃん。男同士なんだし、ちょっと確かめさせてよ?」
「申し訳ございません。そういったことはお断りしていますので」
大人の対応でやり過ごそうとしている椿さん。
「こっちは指名料、払ってんだよ!」
酔っている男は、椿さんを後ろから羽交い絞めにした。
「あはははは」
テーブルの女の人達は笑っているけれど……。
酔っているからって、ダメだ。
テーブルにいた桔梗さんも止めようとしているけど、全く聞く耳を持たない。
蒼さん(椿さん)は、私が守るって約束した!
身体が勝手に椿さんのところへ走り出していた。
「桜ちゃん!?」
蘭子ママさんの声が聞こえる。
私は男の人の手を強引に離し、椿さんを引っ張る。
「桜!?」
「なんだよ、この女!」
私の行動に驚いた男は、容易に椿さんを離した。
私は呆然としている椿さんの前に立ち
「嫌がっているじゃないですか!止めてください!」
声を出した。
「何この子?ちょっとした遊びでしょ?気持ち悪いー」
「そんなに必至になって。バカじゃん」
テーブルの女の人たちから怪訝な顔をされた。
別にバカにされたっていい。嫌なことはしちゃいけないんだ。
「なんだこの女。こいつ《椿》の客か?」
男はそう言ったあとアハハハと急に笑い出した。
「可哀想だよなぁ。男《椿》よりブスって。少しは椿さんを見習った方が良いんじゃねーの?」
アハハハハと笑い続けている。なんて失礼な人。
でも、そんな言葉じゃ負けない。なんとも思わない。
振り返って「椿さん、大丈夫ですか?」と訊ねようとした。
しかし――。
椿さんは私の前に立ち
「おい。お前、今何て言った?」
ええええええ――!!
近くに居る私くらいにしか聞こえないような声だけど、蒼さんの声になってる。
しかもすごく怒ってる!
「あぁ?なんだって?」
同級生の男は聞き返している。
これじゃあ、さらにヤバい。
「椿さん!」
私が止めようとしたら
「やめなさい。椿!」
蘭子ママさんが止めに入ってくれた。
そして
「お客様、申し訳ありませんが、うちの大切なキャストに強引に触れたこと、他のお客様のご迷惑となる行為が見られたため、退店をお願いします。そして二度とうちの店に来ないでください」
蘭子ママさんはそう冷たく言い放った。
「はぁ!?」
「ええ!?」
テーブルからは納得できないと言った声が上がる。
「ふざけんなよ!」
同級生も怒鳴っている。