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「これ以上大きな声を出されますと、無理矢理身体に触れたということで、通報しても良いんですよ?目撃した方もたくさんいますし……」
蘭子ママさんの毅然とした態度に、チッと舌打ちをしながら蒼さんの元同級生のグループは帰って行った。
「みなさん、お騒がせしました。サービスで一杯提供させていただきますので、キャストに申しつけ下さいね?」
お店に残っている他のお客さんにそう告げる蘭子ママさん。
店内からは「やったー」「ラッキー」という声が。空気がまた変わった。
「椿さん……?大丈夫……」
大丈夫ですか?と訊ねようとしたが
「桜。ちょっとこっちに来て?」
手を引かれ、一旦お店の外に出る。
やっぱり具合が悪いんだろうか?外の空気を吸った方が良いよね。
お店に出て、店内からは見えないエレベーターの陰に連れて行かれた。
そしてーー。
「えっ……」
蒼さんに抱きしめられた。
「蒼さん、大丈夫ですか!具合悪いです?」
「ごめん。俺のせいで嫌な気持ちにさせて」
完全に蒼さんに戻っていた。
私があの人に悪口を言われたから、気にしてくれているんだろうか。
「私はあれくらい全然大丈夫ですよ。気にしないでください」
そう伝えても何も返事をしてくれない。
「私、蒼さんのこと守れましたか?」
そう聞くと
「あぁ。ありがとう」
ギュッとされる。
「蒼さん、そろそろ戻らなきゃ。みんな心配していると思います」
抱きしめられているのは嫌じゃないけど、何も言わずに出てきちゃったから探しているかもしれない。
「今日、帰ったら続きしていい?」
んっ?んんん!
続きってなんだろう。
よくわからなかったが「はい」と返事をしてしまった。
「じゃあ、戻りましょうか?」
椿さんに戻った蒼さんは、私の手を引いて店内に戻る。
「桜ちゃん、ごめんね。嫌な思いをさせて?」
蘭子ママさんに謝られる。
「いえ、私は何も」
「かっこ良かったよ。椿ちゃんを守ろうとするなんて面白い子だね」
蘭子ママさんのお客さんである坂本さんにもそう笑われた。
「ありがとうね、桜」
指名したということもあって、その後、椿さんはほとんど私の近くに居てくれた。
まだちょっと具合悪そうだけど大丈夫かな。
閉店時間が近づいた頃
「椿、桜ちゃんを送って行ってちょうだい。あんたも今日大変だったし、桜ちゃんを送ったらそのまま帰っていいわよ?」
蘭子ママさんが提案をしてくれた。
一緒に住んでいることは知っているから、そのまま帰って良いってこと?
他のスタッフさんにわからないようにそう伝えてくれたんだ。
「ありがとう。そうさせてもらうわ。帰る支度をしてくるから、桜、ここで待っててね?」
「はい」
そう言うと椿さんはカウンター裏に行ってしまった。
カウンター裏では――…。
「ちょっと、椿。あの時、本気だったでしょ?桜ちゃんのこと悪く言われた時、男になってたわよ。しかも――」
「ごめんなさい。気をつけます」
「あんた、高校生の時はどんなことされても手を出すのは我慢してたのに」
「自分が傷付くのは別に良いの。桜だったかしら?大切な子だから。本気で殴っちゃいそうだった。止めてくれてありがとうね」
ふぅと溜め息をつき
「あんたが本気出したら、たぶん私でももう止められないから。本当に気を付けてよ?」
そんな会話がなされていた。
「お待たせ。さぁ、帰りましょうか?」
「はい」
お会計は蘭子ママさんの配慮で「指名料」だけ支払わせてもらった。
お酒代などは「嫌なことに巻き込んじゃったから」と言われ、支払わせてくれなかった。蘭子ママさんも優しい。
蒼さんとタクシーで帰宅をする。
「家に帰る前に、夕ご飯を食べて行きましょう?」と蒼さん(椿さん)が提案をしてくれ、うどん屋さんでご飯を食べ帰宅をした。
電気をつけ、部屋の中に入る。
そういえば、帰ったら「さっきの続き」をするって言われたけど、なんだろう。
うーんと考えていると
「桜。お風呂先に入って来てもいい?」
蒼さんに普通に話しかけられた。
「はい。もちろん!」
蒼さんはいつもと変わらず、バスルームへ向かった。
ご飯を食べて来ちゃったし、私も着替えよう。
自分の部屋へ向かう。
着替えてリビングで蒼さんを待っていると
「ごめん。先に。仕事終わったら早く素になりたくて」
「いえ。じゃあ、私、お風呂行ってきますね」
お風呂に浸かりながら、先程の出来事を振り返る。
蒼さん、具合悪そうだったのにあんなに無理して。
私のことまで庇ってくれて疲れたよね。
あんなに怒った蒼さん見たの初めてだった。
お風呂から上がり、リビングに行くと蒼さんがソファーに座っていた。
「蒼さん、今日は早く休んだ方が……」
「桜、ちょっとこっちに来て?」
「はい」
蒼さんの隣に座る。
「桜がお店に来ると思わなかったからびっくりした。いろいろ気を遣ってくれて、ありがとう。お店で久し振りに桜に会えて嬉しかったよ」
変わらない優しい微笑み。
「蒼さんにそう言ってもらえて私も嬉しいです」
何か少しでも役に立ちたいと思った。
お店の外で言われた<帰ったら続きをしたい>という言葉に気になり、蒼さんに聞いてみる。
「あの、さっきの帰ったら続きを……ってどんなことですか?」