「理沙お嬢様、今宵は夜会が催されると、子爵さまからご招待を受けております。早めのお支度をお願いします」
黒の三つ揃えを着込んだ私付きの執事の三日月が、そう静かな声音で言って、恭しく頭を垂れた。
「わかってるから!」
と、ちょっとイラ立ちながら言い返す。
背が高く、やや長く伸ばした黒髪を後ろで束ね、掛けている縁のないメガネに少し鋭くも見える眼差しがよく似合うこの男は、今まで一度も隙を見せたことがなく、厳しすぎる嫌いもあった。
「理沙様、今日の夜会では、パートナーをお連れになるよう言われていますが、どなたかにお声かけはされていますか?」
三日月に聞かれ、「忘れてた……」と、思った。
(そう言えば……今夜は確か仮面舞踏会とかで、異性のパートナーを連れていくことが参加条件だった……)
招待状に書かれていたことを改めて思い出しはしたが、今さらパートナーに予約を入れることなど無理だと感じた。
夜会は、あと数時間後に迫っていた。
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