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「パートナーのこと忘れてたから、今夜は行かないことにする」
思わず面倒になり、そう口に出すと、
「いけません、お嬢様」
三日月から即座にいさめられた。
「今宵の催しは、子爵さまからの大事なご招待です。直前の欠席などは失礼にあたります」
「わかってるけど……でも……」
と、口をとがらせる。
「でも、パートナーがいないんじゃ、しょうがないじゃない……」
ぶつぶつと言う私に、
「どなたか今からでも大丈夫な方もいらっしゃるかもしれませんし、よろしければ私がご連絡をしてみましょうか?」
そう矢継ぎ早に問いかけられて、
「いい……」
隙のない三日月にやや気疲れをして、私は力なく首を横に振った。
「子爵さまに悪いですから……」
三日月が言いながら、連絡を取り付けようとして電話に手をかける。
「いいから……」
受話器を取る手を制して、はたと思いついたことがあった。
どうせなら、この男をパートナーにしてみるのはどうだろうかと──。
「…ねぇ、三日月? パートナーにはあなたがなってくれない?」
我ながら面白い思いつきに感じるも、
「私が…ですか?」
当の三日月は怪訝そうに眉を寄せ、すぐには乗ってくれる気配もなかった
「そう。だってあなたが、今夜の私のパートナーになってくれれば、なんの問題もないでしょ?」
そう言いつのって、にっこりと有無を言わさぬ笑顔を浮かべて見せる。
「いけません。私は、あなたの執事にすぎないのですから。パートナーになど、なれるわけがありません」
三日月は頭から否定をしてくるが、そんなことくらいは、とっくに想定をしていたことだった。
「でも、当日に会のご招待をお断りすることが失礼なように、当日のそれもギリギリな時間にどなたかをお誘いをするのも、失礼なことになはらない?」
もっともらしく訊ねる私に、
「それは……」
と、三日月が口を閉ざして押し黙る。
礼儀を重んじる彼が、常識を振りかざせば困惑するだろうことはわかっていた。
完璧なこの執事を、少しでも困らせたくて、なんとかやり込めたくて、私は、
「ねぇ、だからいいでしょ?」
と、さらに詰め寄った。
「大丈夫よ、今日は正体を隠して参加する仮面舞踏会なんだから。あなたが誰かなんて、きっとわからないもの」
ここぞとばかりに言う私に、
「わかりました……」
ようやく観念した様子で、三日月が答ええた。
(やった……!)と、心の中で叫ぶ。彼に初めて勝ったような気がして、うれしかった。
「では、私も用意をさせていただきますので、お嬢様もお時間に遅れないよう、ご準備をお願いします」
「うん! じゃあ、あとで玄関前で待ち合わせね?」
「はい、理沙様」
三日月が軽く会釈をして、着替えるために自室へと戻っていくのを見送り、部屋で舞踏会の支度を始めた私は、とても上機嫌だった。
あの三日月をパートナーに連れていくなんて、楽しみでしょうがなかった。
隙を見せない彼が、舞踏会でどんな姿を見せてくれるのかと思うと、今から胸がドキドキと湧き立ってくるようだった──。