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線上のウルフィエナ

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線上のウルフィエナ

33 - 第三十三章 魔女の里へ

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46

2024年03月23日

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「おう、いらっしゃい」


 店を訪れた客へ、強面の男がカウンター越しに声をかける。通常の接客であり、ありふれた光景だ。

 店内には色とりどりの武器が陳列されており、小物ならば包丁のような短剣から、大物となると両刃斧や真っすぐな槍が挙げられる。

 金属の匂いが立ち込めるこの店は、総合武器屋リンゼー。傭兵ならば必ず通う場所であり、今回の客もそういう意味ではその例に当てはまる。

 しかし、用件は買い物ではなかった。


「こんにちは。僕の方は落ち着きましたので、いつでも出発出来ます」


 訪問者の名前はウイル・エヴィ。身なりこそ遊び盛りな子供だが、既に一人前の傭兵だ。武器も防具も身に着けていないため、傭兵に憧れる子供がウィンドウショッピングを満喫しているようにも見えてしまうが、小柄な身長と童顔ゆえに仕方ない。

 対照的にその男は大柄なだけでなく、渋い表情とスキンヘッドということから店員というよりは傭兵の方がお似合いだ。


「そうか。実はこっちも準備万端だ。俺の方から連絡しようと思っていたが、足を運んでもらって悪かったな」

「い、いえ……」


 男の名前はゴッテム・リンゼー。エルディアの父親であり、この店を一人で切り盛りしている。

 先ず、目につく部位は頭皮だろう。毛根すらも見当たらない肌色ゆえ、ランプのように眩い。

 次いで、そのエプロン姿か。この店の正装ながらも、強面な顔立ちと黄色いエプロンがあまりにミスマッチゆえ、初対面の客は例外なく驚く。


「出発は一週間後で大丈夫か?」

「はい。もっと早くても行けますよ。それこそ、明日とかでも」


 二人は事前に話し合いを済ませており、後は最後の日程を調整するだけの段階だ。

 ましてや、ウイルは自身のスケジュールを空っぽにしたのだから、問答はトントン拍子に進む。


「ふむ、その申し出はありがたい。よし……、ちょっと行ってくる!」

「え⁉ ど、どこへですか⁉」


 引き留める時間すら与えず、エプロン姿のまま、ゴッテムが店を飛び出してしまう。

 残されたウイルは呆けるしかない。ここの家族でもなければ、店員ですらないのだから、頭の中は真っ白だ。


(行先は多分、ギルド会館……。ここの店番を傭兵組合に代行してもらうための最終手続き……ってところかな? 猪突猛進なところとか、エルさんにそっくり。あぁ、逆か、エルさんが似ちゃったのか)


 なんにせよ、待つしかない。店主の帰りを待たずにこの場を去ってしまうと、改めて足を運ぶ必要があるばかりか、店内が無人と化してしまう。


(あれ? もしかして、店番しないといけないの? そ、そんな経験ないんだけど……。見様見真似でやれるのか?)


 傭兵歴は既に四年以上。ならば、社会人経験はいくらかあるものの、日々の多くを魔物討伐だけに費やしてきた。

 総合武器屋リンゼーでしか武器を買えないことから、そこそこの頻度でここを訪れてはいたが、棚から短剣を選んで店主に商品と金を渡せば買い物は済んでしまう。それ以上のことはわからないため、ウイルとしても青ざめるしかない。


(接客対応……、な、なせばなる!)


 そう思い込み、先ほどまで大男が立っていた場所へ移動する。

 カウンターの内側から望む光景は壮観だ。広い空間ではないのだが、多数の武器が綺麗に陳列されており、ここがどこなのか、改めて認識させられる。


(エルさんもこうやって店番してたのかな? 時々、お店手伝ってたし……。う⁉ 人が前を通るだけでもドキドキしちゃう。おじさん早く~)


 客が来ないことを祈りながら。

 店主が帰ってくることを懇願しながら。

 臨時の店員が立ち尽くす。借りてきた猫のようだが、あながち間違いでもなかった。

 店先は大通り、通行人が途切れることなく横切る。

 その度に少年の心臓が跳ねるのだが、最大級の脈動は扉が開かれた瞬間だった。


(ひいぃ! お客さん来ちゃったー! って、あれ?)


 冷静に考えれば、身構える必要などない。

 ここは武器屋なのだから、客層も自然と限られる。その多くが傭兵のはずであり、ならばウイルの同業者だ。

 知人である可能性は極めて低いが、一度や二度ならギルド会館ですれ違っているはずであり、ましてや今回は幸福と呼ぶ他なかった。


「フランさん」

「あれー、何でウイル君が店番してるのさ」


 後頭部で束ねられた、草色の長髪。

 あちこちが擦れた、薄茶色のブラウスと茶色のハーフパンツ。

 普段なら短剣を携帯しているはずだが、今日は珍しく手ぶらだ。

 活発そうな顔が一瞬驚くも、あっという間に笑顔へ。武器屋を訪れたら不釣り合いな子供が店番をしており、ましてやそれが友人だったら、面白くて当然だ。


「これには事情が……」

「似合ってるよ似合ってる」

「半笑いで言われても……」


 しどろもどろな姿が決定打となり、フランは腹を抱えて笑い出す。ウイルの勇敢な姿を知っているからこそ、ギャップに耐えられなかった。


「くぅ……、お、お客様、冷やかしでしたらさっさと帰ってください」

「ごめんごめん。と言うか客じゃないんだけどね」


 その返答が少年をキョトンとさせる。ここは武器屋であり、傭兵は客のはずだが、彼女はそれを否定した。おおよそありえない状況ゆえ、その理由は本人の口から語ってもらうしかない。


「珍しく掲示板を眺めてたらさ、ここの店番を頼みたいって依頼があったからダメ元で受けてみたの。私なんかじゃ断られると思ったけど、店長さんが二つ返事でオッケーしてくれたから、今日はその挨拶とやり方を習いに……、来てみたらウイル君とご対面ってわけ。もしかしてウイル君が教えてくれるの?」

「違います。と言うか、なるほど、理解しました。あ、ゴッテムさんはちょっとだけ出かけてます。もしかしたらすれ違ってたかもしれませんね、今頃はギルド会館にいると思います」

「あー、今日は貧困街から直接こっちに来ちゃったから。ウイル君ってここの店番も出来るんだねー、エルさんの相棒だけあるぅ」

「いえ、な~んもわかんないです。本当に立ってるだけで……・」


 店員代わりですらない。物まね、もしくはマスコット人形だ。


「そうなんだ。店番って具体的には何すればいいのかな?」

「多分ですが、やること多いと思いますよ。多忙ってわけじゃなくて、多岐にわたると言いますか、細かい仕事が多い的な」

「う~、そう言われると自信ないなぁ。ここには何度も来てるけど、実は買い物したことないんだよね~。ほら、私の短剣ってウイル君から譲ってもらってるし」


 フランは貧困街に居つく浮浪者だ。帰る家もなければ、家族もいない。

 その一方で、不釣り合いな大金を所持している。そのほとんどがウイルからの寄付であり、そのお金でパンを調達、浮浪者達に配っている。


「ゴッテムさんがここ空けるのも数日くらいでしょうし、買い物客の相手だけを務めれば大丈夫な気はしますけどね。税金うんぬんはけっこう大変でしょうから、そこまで任されることもないと思います。後はまぁ……、今回のフランさんみたいに客がいちいちビックリするでしょうから、いかに無反応を貫くか、ってところでしょうか」

「アハハ、確かに~」


 常連ほど、驚くだろう。

 むさ苦しい店主がいない代わりに、肉づきは良くないものの凛とした少女がカウンターに立っているのだから、棚の武器よりも彼女が気になるはずだ。


「依頼の期間は何日なんですか?」

「一週間だってさ。朝と終わりだけ傭兵組合の職員さんに立ち会ってもらって、日中はずっと一人。あ、報酬けっこうすごいんだよ。一日当たり、なんと二万イール」

「おぉ、けっこう高給……」


 一週間で十四万イールゆえ、短期の仕事ではあるものの、恵まれた金額だ。

 フランが草原ウサギ狩りで稼ぐ場合、日給は千イール前後。そういう意味でも破格と言えよう。


(ゴッテムさん、そんなにエルさんと奥さんに会いたかったのか。当然か……)


 ウイルとゴッテムは準備が出来次第、王国を旅立つ。

 目的地は魔女の隠れ里だ。エルディアとその母親を筆頭に、多くの魔女がその地でひっそりと暮らしており、その存在は完全に秘匿されている。

 しかし、今のウイルなら問題ない。この少年だけの天技、ジョーカー・アンド・ウォーカーがエルディアの現在地を感じ取ってくれるのだから、彼女がどこにいようと追跡可能だ。

 もっとも、既に下見は済ませている。

 そこはレベレーシ高原の北にそびえたつ、荒々しい山脈の奥地。通常ならば誰も寄り付かない場所なのだが、だからこそ彼女らは王国軍の探索に引っかからない。


「私ってこのまま待ってればいいのかな? 出直した方がいいのなら、あ、探すついでにギルド会館行けばいいのかな?」


 フランの疑問は当然だ。

 依頼を受注した結果、ここに呼ばれた。

 しかし、依頼人がいない。代わりに友人と出会えたが、店番の作法を習うことは叶わず、つまりは八方塞がりな状況だ。


「すぐ戻ると思いますよ。すっごい勢いでダッシュしてましたし……。あ、暇つぶしついでに雑談ということで、あれ以降、ウサギ狩りは順調ですか?」


 店長はいないが、ここにはウイルとフランがいる。両者とも見知った間柄ゆえ、会話には困らない。

 棚の上の短剣を撫でていた彼女だが、少年の提案を受けて嬉しそうに口を開く。


「うん! すっごいんだよー、前は四、五体しか狩れなかったけど、今は十以上余裕でいけるもん」

「おぉ、本当にすごい。狩場を独占出来れば、けっこう稼げそうですね」


 草原ウサギは危険度の低い魔物だ。人間を積極的には襲わない上、鈍足ということから追われたとしても逃げ切れる可能性がある。

 容姿は動物のウサギに似通っているものの、鼻が大きく、体もいくらか大きい。

 この世界における最弱の魔物と言われており、だからこそ、傭兵試験のお題目が草原ウサギの討伐に定められている。

 傭兵ではない普通の民であろうと、武装していれば数人がかりで倒せる相手だ。それほど俊敏ではないため、その動きを目で追うことは十分可能だろう。

 とは言え、刃物を突き刺せるか否かは別問題だ。

 草原ウサギも生きている以上、当然ながら死にたくなどない。自身に脅威が迫れば、全力で回避するに決まっている。

 その上でピョンと飛び跳ね、飛び蹴りの要領で人間を蹴とばすのだが、その威力は当たり所が悪ければ命に関わってしまう。

 腕で防いだとしても、骨が砕かれる。

 胴体に受ければ、悶絶の後に追撃で殺されるだろう。

 可愛らしい見た目に反して、魔物であることを忘れてはならない。商人や旅行者が年間を通して何人も惨殺されており、彼らが銃を携帯していれば、もしくは傭兵を用心棒として雇っていれば、未然に防げたはずだ。

 そういった背景から、草原ウサギは危険な存在ではあるものの、一方でイダンリネア王国にとっては重要な食糧源でもある。

 その肉は焼くだけでもご馳走な上、栄養価は動物の肉とは比較にならないほど高い。

 さらには、狩場が王国の目の前に広がっており、供給も安定している。

 唯一の欠点は、可食部が少ないことか。

 それゆえに一体当たりの取引額はたったの二百イールに抑えられており、これだけで食い繋ぐことはおおよそ非現実的と言えよう。

 そうであろうと、一部の傭兵は草原ウサギだけを狩り続ける。彼らにはそれにしか勝てないという事情があり、報酬が安かろうと他の生き方を知らないことから今日もどこかでウサギを追いかけている。

 その一人がフランだ。傭兵として芽が出なかった彼女だが、先日の乱獲でついに花開く。

 ジレット大森林にてウイル協力の元、手あたり次第にジレットタイガーを殺し続けた結果、身体能力が大きく向上した。

 その成果の一つがスタミナだ。徒歩ならば十日以上はかかる道のりを、彼女は一日もかからずに走破した。

 魔物を倒せば強くなれる。この世界の理であり、ウイルの手助けがあったからこそだが、今では草原ウサギに苦戦することもなく、狩猟に励めている。


「おかげさまでねー、ほんと感謝! 前は複数でうろつかれてたら他を狙うしかなかったけど、今なら二体だって相手に出来るもん。同業者さえいなければ、二十だって届いちゃうかもね」

「ウサギ狩りとかトラ狩りは必ずライバルいますから、数こなせるようになっても思うように伸びないんですよね。ウサギはその上、元から数が少ないという……」


 マリアーヌ段丘は広大な草原地帯だ。そこに住まう魔物は草原ウサギに限られており、その個体数は決して多くない。

 人間にとっては楽園のような土地と言えよう。この魔物は弱いだけでなく、狩れば食材に早変わりする。

 だからこそ、ここが王国の建国場所に選ばれた。北側は荒々しい山脈に守られ、東は大海原に面している。防衛に適した立地だ。


「焦らないでがんばるよ、十分過ぎるくらい収入上がったしね。ところでさ、強くなれた今だからわかるんだけど、ウイル君ってめちゃくちゃすごくない? 明らかに普通じゃない強さだと思うよ?」

「え、そうですか?」

「うん、黒トラに頭噛まれた時も、平然としてたじゃん。私だったら絶対死んじゃう……」


 黒トラことジレットタイガー。黒毛で覆われた巨躯には、見た目以上の怪力が宿っている。前足の爪は人間をの肉を深々と切り裂き、咬合力は頭蓋骨をトマトのように噛み潰せるほどだ。

 そのはずだが、じゃれる子猫と遊ぶように、ウイルは黒トラをあしらった。

 腕に噛みつかれようと、頭をかじられようと、痛がる素振りすら見せない。むしろ、あえて自身を差し出しているのだから、その状況は目論見通りだ。

 フランと共に黒トラを乱獲する際の注意事項。それは彼女の身の安全に他ならない。

 ジレットタイガーは人間よりも遥かに俊足だ。四本足は樹木という障害物を平然と避けながら、獲物との距離を詰める。獲物とはつまり人間達であり、腕に覚えのある傭兵であろうと、ジレット大森林では気を抜いてはならない。

 魔物の姿は多種多様ながら、その多くが昆虫や動物に似通っている。

 しかし、似ているだけで明らかに別種だ。

 体の大きさ。

 筋力。

 そして、殺意の高さ。

 そのどれもが野生動物の比ではない。

 ジレットタイガーの走力もそういった意味では超常だ。ジレット大森林の横幅はおおよそ百キロメートル程度だが、この魔物が全力で走れば一時間足らずで横断出来てしまう。

 目にも留まらぬ速度だ。追われたら最後、逃げ切れるはずもない。

 だったら、迎え撃つまでだ。そもそもの前提として、傭兵がその地域を訪れる理由はその多くが黒トラであり、彼らは勇んで森に入り込んだ瞬間から、目を光らせて魔物を探している。

 ウイルもその一人だった。

 しかし、前回は単身ではなく、フランというお荷物を同行させていた。

 つまりは、彼女を守りながら黒トラを狩らなければならない。

 その上、鍛錬のために最後のダメ押しを譲る必要があるのだから、少年にかかる負荷は普段以上だった。

 ジレットタイガーに致命傷を与え、動けなくなったところでフランにトドメを刺させる。実は、このステップが危険だ。魔物と言えども生物であり、死にかけていようと最後の悪あがきがあるかもしれない。

 その場合、狙われるのは彼女だ。最も近い人間であり、今まさに刃を突き入れようとしているのだから、道ずれに切り裂きたくなるのも無理はない。

 だからこそ、ウイルは最大限の集中力でその工程を見守る。

 もしも魔物が動こうとしたなら、その爪が彼女に食い込むよりも先に取り押さえなければならない。

 そういった事情から、他のジレットタイガーに襲われようと無視する。新たな個体がフランを狙おうものなら庇う必要があるが、自身が噛みつかれる分には好きにさせれば良い。


「僕も今ではエルさん並に頑丈なので。巨人族にぶん殴られても耐えられる自信ありますよ。まぁ、あいつらの実力ってピンキリなので、油断してると死にますけどね」

「特異個体ってやつ?」

「いえ、個人差と言うか、個体差……? あまり知られていませんが、西にいる巨人族ほどやばいです。スウェイン森林の砦だったら僕でも楽勝なんですけど。親分みたいな奴は想像以上にでかかったので、その姿だけ拝んでトンズラしちゃいましたけどね」


 スウェイン森林はジレット大森林の西に位置し、巨人族の最前線基地が存在する。今は亡き四人の傭兵によって壊滅したのだが、ウイルの貢献も実は大きかった。

 フランは傭兵ではあるものの、巨人族とは出会ったことがない。彼女の活動範囲がマリアーヌ段丘までなのだから、当然と言えば当然だ。


「冒険してるんだねー。私も自力で遠出してみたいな」

「次のステップは南のルルーブ森林でしょうか。あそこのキノコが丁度良いと思いますけど、一人では行かないでください。あいつらのタックルで僕も死にかけましたから……。と言うか、エルさんがいなかったら絶対死んでました」

「おぉ、こわ……」


 他愛無い会話ながらも、盛り上がる二人。傭兵ならば、否が応でも日常が刺激的になってしまう。生きるか死ぬかの瀬戸際は、それだけでも魅力的な経験だ。

 そんな中、一瞬の静寂と共にウイルは気づかされる。

 自身の身の振りについて相談しなければならない。

 その期間は決して短くはないため、事前に伝える必要があった。


「話は変わるのですが、一年ほど、出ずっぱりになりそうなんです、僕……」


 来年の光流武道会で優勝したい。

 そのためには、今以上に強くならなければならないのだが、現状で思いつく手段は一つだけ。それを実行に移したところで可能性は低そうだが、少年は静かに覚悟を決めている。


「そっかー。けっこう長めなんだねー。気を付けてね」

「その……、貧困街は大丈夫そうですか? えっと、その間は支援が出来そうにないんですが……」

「大丈夫だと思うよ。だってウイル君がいっぱい寄付してくれたし。私の稼ぎも少しは足しになるしねー。んで、何しに出かけるの?」


 フランの言う通り、配給用の資金は潤っている。

 ウイルがネイグリングの傭兵から回収した遺品の売却金。

 ジレットタイガーの乱獲で得られた大金。

 これらを合わせれば、貧困街の食事事情は安泰のはずだ。

 それに加えてフランが草原ウサギを毎日狩っているのだから、徐々に減ってはしまうだろうが年単位で持つという算段は的外れでもない。

 懸念事項が払拭されたのだから、ウイルの気持ちも必然的に晴れ渡る。


「今よりも、もっともっと強くならないといけない理由が出来たので……。それ自体は前からわかってはいたのですが、予定が前倒しになったので、この一年間、みっちり鍛えてこようと思っています。だから、あ……」


 決意表明の途中ながら、少年は石像のように固まる。武器屋の出入口からスキンヘッドの男が覗き込んでいるのだから、恐怖以外の何者でもなかった。

 店内の二人に見つめられながら、その男がナメクジのように入店を果たす。


「一年修行? 俺との約束は?」


 ゴッテム・リンゼー、五十歳。エプロン姿そのままに、大粒の涙を流す。


「誤解です。ちゃんと連れてってあげますから。修行はその後から取り掛かるつもりです。だから泣き止んでくださいお願いします。すっごくやりづらいです。むさ苦しいです」

「おぉ、それは良かった! よし! 明日出発だ!」

(くぅ、破天荒っぷりはほんとエルさんそっくり……。さすが親子と言うべきか)


 涙は一瞬で止まり、頭部を輝かせながら満面の笑顔。黄色いエプロンには武器屋のトレンドマークがプリントされており、ゴッテムと連動して踊っている。

 その光景はフランを黙らせるには十分だった。大口を開きながら、店長の奇行を見守ることしか出来ない。

 そんな中、ウイルは説明を求め、事務的に問いかける。


「明日の朝、ここを発つってことで傭兵組合とは話がついたんですね」

「おう。早速準備しないとな。着替えと……、後は何を持っていけばいい?」


 この応対が状況を一歩進めるも、軌道修正が必要だ。


「その前に……、こちらのフランさんに店番のやり方を引き継いでください」

「お、おはようございます。フランです……」

「あぁ、すまんすまん。すっかり忘れていたよ。私から呼んでおいて悪かった。お詫びにこのエプロンを着せてや……」

「ちゃんとサイズの合ったものを支給してください。もしくはエルさんのでも構いません」


 ゴッテムの冗談なのか本気なのかわからない提案に対し、ウイルは間髪入れずに突っ込む。

 この男は娘同様に長身だ。

 一方、フランはウイルよりはわずかに背が高いものの、小柄な方に分類される。

 傭兵ではないにも関わらず、店長の体格はガッチリと分厚い。そのせいか、黄色いエプロンは張り付いてしまっている。

 言い方を変えるなら伸びてしまっており、手渡したとしても彼女を困らせるだけだ。


「そうか。娘のを持ってこよう」

「最初からそうしてください。フランさんもエルさんのでいいですよね?」

「私は何でも構わないけど……」


 店長が店の奥へ消えていく一方、残された二人は困り顔だ。

 その後、ウイルに見守られながら、フランは店番のノウハウを教わり、時間が淡々と過ぎ去っていく。

 研修も兼ねて彼女だけがカウンターに立つ間は、明日以降の作戦会議だ。ウイルとゴッテムが店の奥に引っ込み、お茶を飲みながら旅のスケジュールを組み立てる。

 慌ただしくも平和な一日。

 背中を押され、覚悟を決めた一日。

 今日という時間が終わりを迎えれば、翌日は当然ながら明日だ。

 出発する。

 スタート地点はイダンリネア王国。

 目的地は、遥か彼方の山岳地帯。



 ◆



 その地には名前すら与えられてはいない。

 何人たりとも訪れたことのない場所なのだから、暫定的に山脈と呼ぶしかなかった。

 山と言うよりは崖に近く、そこを越えることはおおよそ不可能だ。

 だからこそ、彼女らはその地に足を踏み入れ、王国を真似るように山を切り開いた。


「今日中にレベレーシ高原までは行けると思います。そこからが、これまた大変なんですけど……、夜までには着ける……かなぁ」


 イダンリネア王国を出発して、既に一時間。ウイルは草原地帯を抜け、ついに森の中へ立ち入る。

 その走力は突風そのものだ。目を開けているとあっという間に乾いてしまうも、少年の瞳は前だけを見つめている。

 見通しの悪さも関係ない。動体視力と反射神経が、迫り来る木々を回避してくれるのだからここでも真っすぐ前進だ。、


「そうか、ありがたい。娘にもおぶさったことはないのだが、傭兵というものはすごいものだな」


 背中の男もまた、急激な風景の移ろいを眺めている。

 ゴッテム・リンゼー。エルディアの父親であり、小さな背中に担がれている理由はこの旅における荷物そのものだからだ。

 今日はエプロンを身に着けてはいない。店番はフランに託しており、だからこそ何の憂いもなく、娘に会いに行ける。


「エルさんから聞いてますよ。ゴッテムさんもなかなかの力持ちだって」

「お義父さんと呼んでくれて構わん」

「僕よりも遥かに傭兵っぽい風貌してますし、武器屋を切り盛りするとなると多少の腕力も必要なんでしょうね」

「お義父さんと呼んでくれて構……」

「アダラマ森林もこのまま突っ走りますよー」


 王国を飛び出せば、眼前にはマリアーヌ段丘が広がる。どこまでも続く緑色の絨毯はそれだけで美しく、生息する魔物も草原ウサギしかいないことから、注意は必要ながらもピクニックさえ可能だ。

 その北西には鬱蒼な森林が存在しており、二人は現在そこを駆け抜けている。

 草の匂いがむせるほどに濃くなるも、その理由は樹木の多さに起因しており、それは同時に視界の悪さにも直結するほどだ。


「ウイル君やエルディアは、普段からこんな速さで走っているのか……」

「そうですね」

「さすがに怖いな。ぶつかったりしないのか?」


 男がそう思うのも無理はない。

 一秒間にいくつもの木々を避けながら走っているのだから、その速度で走れることも異常ではあるものの、反射神経についても驚きだ。


「よそ見しなければ大丈夫です。仮にぶつかったとしても、へし折れるのは木の方ですし」

「そうなのか……。お義父さんとしても驚きだ」

(ついに自分でお義父さんとか言い出したな。無視するけど……)


 この男はウイルを高く評価している。そればかりか、脳内では娘と結ばれて欲しいとさえ考えている。

 エルディアは自慢の娘ではあるのだが、色恋沙汰のなさに父親としては心配せざるを得なかった。余計なお世話だとは重々承知していながらも、傭兵稼業にだけ没頭するその姿は不安をあおった。

 そこへ、一人の少年が現れる。

 ウイル・エヴィ。当時はウイル・ヴィエンと名乗ってはいたが、十二歳のその傭兵は年齢以上に幼いながらも、娘が唯一連れてきた異性だった。

 それ以前に武器屋の店主としてウイルとの面識はあったものの、一人娘が相棒としてこの少年を連れてきた以上、その日からは特別な存在だ。

 この好機を逃したら、エルディアは一生独身かもしれない。

 そう思い込んでしまったら最後、ゴッテムの暴走が始まる。


「父親の私から見ても、娘の乳は大きいぞ」

「そ、そうですね……。僕も同じ感想です」

「触ってみたいとは思わないか?」

「加速するのでおしゃべりはまた後で。舌噛まないよう、気を付けてくださいね」

「う、うむ……」


 くだらない問答は打ち切りだ。面倒くさいと思ってしまっただけとも言えるが、森の中だろうとお構いなしに速度を高める。

 その結果、一時間足らずでこの森を抜けてしまう。

 次いで現れた、青空と対を成すような平原。どこまでも続く緑色の大地は、この世界がいかに広いかを有言に物語ってくれた。


「ちょっとだけ休憩にしましょう。この辺りには魔物も出ませんし」

「わかった。ふぅ、ここまでおぶってもらっただけなのに、なぜか疲れてしまったな」


 ウイルの提案を受け、ゴッテムは久方ぶりに地面を踏みしめるも、その感触はどこか心地よく、吸い込まれるように座り込んでしまう。


(お昼はどこで食べようかな。もう少し進んで湖で食べてもいいし、少し早いけどここでも……)


 時刻は午前の十一時と十二時の間辺りだ。雲一つ見当たらない空には眩しすぎる光源が煌々と輝いており、草木と二人はそれを受けて英気を養う。


「ゴッテムさん、お腹空いてませんか?」

「ん、そう言われるとそうだな」


 その返答を受け、ウイルはゴッテムから背負い鞄を受け取り、今朝購入したサンドイッチや干し肉を取り出す。

 少し早いが昼食だ。

 まるで遠足のような光景だが、事実それに近いものがある。

 エルディアの相棒として、ウイルは彼女とその母親の居場所を特定することに成功した。

 ならば、次の段階としてゴッテムを二人に合わせたいと思っても不思議ではない。

 父と母と娘が再開を果たす。おおよそ二十年振りの奇跡だ。

 ゴッテムの表情は普段通りに不愛想だが、内心ではソワソワしっぱなしであり、食事もあっという間に平らげてしまう。

 一方、ウイルは少々疲れ気味だ。背中の荷物が重いこともあるが、目的地が遠いにも関わらず急がねばならないため、体力を使い切るつもりで走り続けている。


「ふう、食べたらすぐに出発しますね」

「ああ、俺はいつでも構わん。ところで、道中ほとんど魔物を見なかったが、そういうものなのか?」


 男の疑問はもっともだ。

 王国の外は魔物で溢れている。この知識は王国民の常識でもあり、ゴッテムとしても娘の話を常々聞いていたのだから、事実なのだろうと信じて疑わなかった。

 しかし、ウイルの背中から眺めるこの世界は平和そのものだ。

 マリアーヌ段丘でこそ、数体の草原ウサギを目撃出来たが、次のアダラマ森林では鬱陶しいほどの樹木しか目の当たりにしなかった。


「めちゃくちゃいましたよ。ゴブリンの矢もいっぱい飛んできてましたし」

「なんと……。俺が気づかなかっただけなのか?」

「そうだと思います。数にすると、多分、百は軽く超えてるはずです。あ、見てみたい魔物とかいました?」

「あ、いや、そういうわけではないのだが……」


 つまりはそういうことだ。

 ウイルの足が速すぎたため、木々に紛れていた魔物を視認出来なかった。飛んでくる矢さえも置き去りにするのだから、凡人の動体視力では知覚出来るはずもない。

 平和なようで、そうではない。この傭兵がいなければ、武器屋の店主がここを訪れることなど不可能だ。


(さすがはエルディアが惚れた男ということか)


 完全な誤解だが、頭の中を覗き込めるはずもなく、ウイルに否定の機会は与えられない。


「バース平原もいっきに進んじゃいましょう。ここは相当に広いので、二時間くらいはかかっちゃうかもです」

「あい、わかった。もうすぐ半分といったところか」

「そうですね」


 馬よりも速く走っているからこそ、既にここまで進めている。

 もしも旅人らしく徒歩で移動していたら、現在地までは一週間近くはかかる計算だ。

 その距離をいっきに走り抜けたのだから、傭兵という人種は規格外と言う他ない。


「この先の魔物は手ごわいのか?」

「はい。あ、でも、自慢じゃないですが僕と一緒なら大丈夫です。こうして防具も譲ってもらえましたし。武器屋さんから防具をもらえるとは夢にも思ってませんでしたけど」


 ウイルの言う通り、昨日までと違って今日は革製の軽鎧をまとっている。

 魔物の皮を重ね合わせ、それらをハーネスで繋ぎ合わせた簡易的な防具。急所を守ることに特化しており、軽量さも相まって重宝される一品だ。


「バースレザーアーマー。ウイル君のお気に入りだと、以前娘から聞かされていてな。用意しておいて良かった」

「ありがとうございます。金欠気味で防具までは手が回らなくて……」


 そういう意味では傭兵失格だ。金がないなら稼ぐべきであり、それを怠ってしまうところがこの少年の欠点に他ならない。


「武器も防具も高価だから仕方ない。ハーネス鎧は動きやすさを損なわないから、ウイル君のような小回りを生かしたい傭兵にはうってつけだな。まぁ、これもエルディアの受け売りだがな」

「これって確か、十五万イールくらいしませんでした?」


 ウイルの予想は正しい。

 バースレザーアーマーはその名の通り、バース平原の魔物を素材とする頑丈な革鎧だ。人気の防具ではあるものの、それ相応に高くつく。


「こうして運んでもらうんだ。気にしないでくれ。店番のあの子にもその分報酬を払うしな」

「あぁ、十四万イール……。っと、そろそろ出発しましょうか」


 豪華過ぎる対価だ。それでもありがたく受け取り、身を守るために身に着ける。

 傭兵らしい風貌を取り戻したのだから、昼食後も寡黙に疾走する。

 理屈は不明ながら、イダンリネア王国から離れれば離れるほど、魔物の脅威は高まってしまう。

 その法則は西へ向かうほど顕著であり、バース平原の住人達は草原ウサギとは比較にならないほどに手ごわい。

 そうであろうと、問題ない。

 ウイルはそれ以上の実力者ゆえ、気にせず直進が可能だ。

 次の地域、つまりはジレット大森林まではおおよそ二時間程度を見込んでおり、ひとまずは平原の中心に存在する湖を目指す。

 食後の肩慣らしとしては申し分ない運動だ。

 気を張る必要もなければ、速度すらもコンディションを加味して自由に調整すれば良い。

 今回の依頼は、五十歳の男を目的地に届けるだけだ。道中は魔物で溢れているが、少なくともこの辺りまでなら散歩気分で構わない。

 ゆえに、前だけを向いて走る。

 次の休憩地点を湖と定めたのだから、そこまでは進むことだけに専念したい。

 冷えた湖面に顔を沈めれば、最高に心地良いだろう。それをわかっているからこそ、額に汗が浮かぶ程度の負荷で、草原を駆け抜ける。


「見えてきました。少し休みましょう」


 緑色だけの野原に現れた、異物のような廃墟。かつての軍事基地であり、巨人族によって完膚なきまでに破壊されてしまった。以降はそのままの状態で放置されており、今では人間も魔物も寄り付かない。

 それを横目に素通りすれば、湖は目の前だ。

 砂浜に囲まれた、巨大な水たまり。人間だけでなく魔物にとっても貴重な水源であり、バースクラブと呼ばれるカニの魔物が多数生息している。

 しかし、問題ない。それらは草原ウサギ同様に温和な性格で知られており、ちょっかいを出さなければ共存さえも可能だろう。

 ゆえに、傭兵にとっては憩いの場だ。

 魔物に襲われる心配がない。

 飲み水を補給出来る上、顔さえも洗えてしまう。

 黒トラ狩りのためにジレット大森林を目指す場合、この湖はとにかくありがたい。

 ウイルは脱力するように減速すると、湖と青色のカニ達、そして先客を視野に入れながらつぶやく。


「あれ? なんか様子が……」


 空気がひりついており、ゴッテムを地面に降ろすと立ち止まることから始める。

 前方には、こちらに背を向けながら湖を眺める三人の傭兵。彼女らが緊張感を生み出しており、その内の一人は短剣を右手に握って臨戦態勢だ。


(バースクラブでも乱獲しようとしてる?)


 ウイルはそう予想するも、残念ながら外れだ。当たらずとも遠からずではあるのだが、正解ではない。


「あの三人なら知っているぞ」

「僕もです。あ、名前とかは知りませんけど……」


 ゴッテムは武器屋を経営しており、客層も限られるため、訪問客の顔は覚えてしまう。

 後ろ姿ながらも、特定に必要な情報は十分だ。

 三人組。

 それぞれの髪型や装備。

 その上、三人が共に女性なのだから、ウイルの脳裏にも彼女らの顔が思い浮かぶ。

 知り合いではない。

 ギルド会館で見かけた、もしくはすれ違った程度の間柄だ。

 それでもここに集ったのだから、依頼人をその場に降ろしてゆっくりと一歩を踏み出す。


「あのう……」


 気弱そうな呼びかけだったが、一人を振り向かせるには十分だった。

 山吹色の髪を揺らしながら、右端の女が反応する。


「誰か近づいてると思ったら同業者ね。危ないから下がってて。私達も撤収するかどうか相談中だったの」


 一見すると優しそうな顔立ちだが、力強い目力は傭兵のそれだ。言葉だけでなく眼力でも少年の前進を静止させる。

 灰色の金属板で構成された軽鎧をまとっており、一方で足回りは黒一色の膝丈スカートだけ。背中には片手剣を担いでいるものの、鞘に収まったままだ。

 返答は得られたが、状況説明としては不十分過ぎる。ウイルは追加の質問を投げかけずにはいられなかった。


「危ない? バースクラブしか見当たりませんが……」


 それらのシルエットはカニと言うよりもヤドカリに近い。甲殻は球体のように丸く、どの個体も湖同様に青色だ。バースクラブは前後への移動が可能なため、ウイルが眺めるその多くがカサカサと前進している。

 ここでは見慣れた光景だ。危険でもなければ、不思議でもない。

 そのはずだが、眼前の女性らは緊張感と共に警戒心を強めている。


「その声、聞いたことがある。あぁ、子供っぽいのに大人びた、ちょっとだけ有名人。ほっとけない美少年」


 次いで、左端の傭兵が無表情のまま盗み見るように振り向く。

 青黒いロングワンピースを着ており、長い黒髪も相まって重苦しい印象だ。左手には長杖を握るも、その下部分は地面と接触している。


「美少年だぁ? あぁ、こいつか。名前は知らんけど」


 最後は真ん中だ。面倒そうに振り返るも、顔をしかめながら正面を向き直す。

 胸元が露出する革鎧と右手の短剣からわかるように、彼女の戦闘スタイルは接近戦主体だ。太ももがむき出しのホットパンツを愛用しており、本人にその気はないのだが、細くない脚からは色気が漂っている。

 一方で黄色いショートヘアーと気の強そうな顔立ちが男を寄せ付けず、左頬の古傷もそういった印象を助長させてしまう。

 自己紹介は未完了ながらも、一先ずの挨拶は済まされた。

 ゆえにここからは名前を名乗りたいところだが、状況がそれを許さない。


「美少年って単語に……」

「反応したし、反芻もした」


 左右の女達が驚きながらも口元を緩める。失言を聞き逃さなかったばかりか、おちょくれる材料を手に入れたのだから、早速使わざるをえなかった。

 その結果、中央の男勝りな傭兵が顔を赤らめながら反論を開始する。


「お、おい! そこはどうでもいいだろ!」


 緊張感が霧散した瞬間だ。

 三人はここが戦場であることを忘れ、姦しく騒ぎ出す。


「チコって年下好きだったんだ~。長年一緒にいるのに気づけなかったな」

「ち、ちげぇって!」

「ぼくもビックリ。だけど弱み握れてウッキウキ」

「ちょっ⁉ ヨグルンまで! く、くそぅ……」


 左右からの攻撃に晒され、黄色髪の女が縮こまる。劣勢を覆す元気がないのか、こうなってしまっては黙るしかないと理解しているのか、どちらにせよ、勝負ありだ。

 その光景を不思議そうに見守っていたウイルだが、視界に違和感が映り込んだことで口を開く。


「あ、色の違うカニがいますね。もしかして……」


 この地域に生息するバースクラブは青色のはずだ。

 しかし、一体だけ、仲間はずれが闊歩している。

 オレンジ色のそれは他のカニ同様にただ歩いているだけながらも、人目を引いてしまう。

 この発言に、右端の傭兵が情報を付け加える。


「そう、特異個体。私達はアレを討伐しに来たんだけど……」


 彼女の名前はプリム。三人組のリーダーだ。責任感が強く、仲間を危険に晒したくないという考えの持ち主ながらも、それゆえに今回は一歩を踏み出せない。

 今回の獲物の大きさはせいぜいが股下付近か。海などに生息する、魔物ではないカニと比べれば巨大と言わざるをえないが、バースクラブという意味では平均的なサイズだ。

 遠方から眺めた限りでは、色違いという感想しか抱けない。ウイルもそう思ってしまうも、傭兵組合が特異個体と指定した以上、懸賞金がかけられる程度には危険な存在なのだろう。

 それゆえにさらなる情報を求めたいところだが、ローブ姿の女が話を脇道に逸らしてしまう。


「さっきから気になってた。なんで武器屋の親父がそこにいるの? エプロン着てなくても一目でわかる。ツルツル頭が光ってる」


 当然の疑問だろう。

 ゴッテムは武器屋の経営者であり、バース平原にいるはずのない男だ。その風貌は荒くれ者と見劣りしないが、だからと言って魔物に立ち向かえるわけでもなく、それをわかっているからこそ、事情を知らぬ者からすれば意味不明と言う他ない。


「あー、その、ジレット大森林までちょっと素材を集めに……。僕はその護衛です」


 ウイルは当然のように嘘をつく。娘のエルディアが魔女になったから会いに行く、などと伝えられるはずもなかった。

 彼女らに真偽などわかるはずもなく、それらしい理由を真に受けた以上、本題の再開だ。


「今は武器屋のハゲ親父よりもあのカニだよ。リーダー、さっさと決めちゃって」


 短剣を遊ぶように持ち替えながら、中央の傭兵が姿勢を崩す。

 先ほどそう呼ばれたように、彼女の名前はチコ。血の気の多さとは裏腹に、力量差を見誤るほど愚かではない。


「こんな時だけリーダー扱いするんだから……。だけど、うん、やっぱり撤退以外はありえないかな。あれはこの前の巨人よりもっとヤバい……と思う」


 右端のプリムはリーダーであり、同時にユニティの長だ。

 フレンズ。彼女らは子供の頃からの友人であり、誰が言いだしたかは当人達も覚えていないが、危険を承知で傭兵という世界に飛び込んだ。

 ユニティの結成にはそれ相応の費用がかかるのだが、利点も多いことから迷わずフレンズという名前で傭兵組合に申請した。

 見返りの一つがユニティピアスだ。高性能な魔道具であり、見た目こそは米粒のように小さなピアスながらも、どちらかの耳に張り付けるだけで仲間内で通話が可能となる。あまり離れてしまうと動作しなくなるのだが、町中程度の距離ならテレパシーのように意思疎通が可能だ。

 三人の左耳には橙色のピアスが輝いている。純粋な宝石よりも美しく見える理由は、それが仲間の証だからだろうか。


「お金は欲しいけど今回はトンズラ。命の方が大事ずら」


 韻を踏む彼女の名前はヨグルン。三人の中で最も背が低いため幼く見えるが、実は最年長だ。他二人が二十一歳に対して、ヨグルンだけが一年長く生きている。


「ずらって何だよ……。まぁ、でも、あんな目はもうゴメンだし、今回は手を引こうぜ。危険を冒すには安すぎらぁ。だって八万イールだぜ?」


 チコも同意見だ。

 特異個体に認定された魔物は手ごわい。だからこその特異個体でもあるのだが、金より命が大事だと重々承知している以上、危険な背伸びは避けるべきだ。

 こうして、三人の意見はまとまった。

 バース平原まで遠征したものの、そして、獲物をその目で確認しながらも帰国することを選ぶ。尻尾を巻いて逃げるということだが、勝てない相手に挑む方が愚かだと今までの経験から学んでおり、討伐報酬の八万イールをあっさりと手放す。

 その判断力は傭兵に欠かせない能力であり、持ち合わせていない者から死んでいく。

 話がまとまったことから、三人はオレンジ色のカニを眺めながらも肩の力を抜く。進むべき方向は前方ではなく後方であり、チコも諦めるように短剣を鞘に納める。

 そんな中、思考の方向性が異なる人間が一人。疲労感を吹き飛ばすため、湖の水で顔を洗いたいと考えており、そのためには障害を取り除くしかなかい。


「あのカニって、他と違って襲ってくるんですか?」


 四人の中で、ウイルだけが特異個体についての情報を持ち合わせてはいない。ならば、知ってる人間から教われば済む話だ。

 真ん中の傭兵が短剣をしまった勢いで振り向く。


「超凶暴だってさ。私らが近づかない理由もそういうこと。なんでも、スプラッシュを使ってきやがるらしい」

「水の……。カニらしいと言えばそれまでですが、厄介ですね」


 スプラッシュ。魔攻系が習得する攻撃魔法の一種であり、水の塊を作り出し、それを打ち出すことで対象を破壊する。


「うん。既に三人の傭兵が殺されてるの。ただ、その人達は全員サシで挑んだみたいだから、三人がかりなら私達でもいけるかなと思ったんだけど……。実物を前にしたらご覧のあり様。ちっちゃい魔物だけど、見ただけでヤバイって気づかされちゃった。そんじゃそこらの魔物より、かなり危険な相手だよ」


 リーダーに相応しい助言だ。プリムも、そして他の二人も、実力差を肌で感じ取って判断を下した。

 青色に混じる、ただ一体の橙色。その大きさは草原ウサギと同等程度ながらも、醸された凄味は桁違いだ。ヤドカリのようなフォルムは一見すると可愛らしいが、この個体に関してはそのような感想を抱けない。


「だから僕達も棄権。無報酬は残念だけど、そこは観念」


 フレンズの三人は満場一致で依頼を諦める。

 それは同時にウイルへのアドバイスであり、受け止め方は当人次第だ。

 もちろん、耳を傾けない理由などない。少年は振り返ると、来た道を戻るように歩き出す。

 その先にいるのは武器屋の店長。つまりは合流であり、水浴びを諦めて西を目指すつもりだ。

 そう判断し、プリム達も帰り支度に取り掛かるも、思い違いは次の瞬間に訂正される。


「ゴッテムさん、ちょっと鞄いいですか?」

「構わなんが、出発するんじゃないのか?」


 ウイルはこの男をおんぶする必要があるため、愛用のマジックバッグはゴッテムに背負ってもらっている。

 色褪せた鞄を受け取るや否や、少年の右腕がその口にずっぽりと埋まる。

 長さ的に収まるはずのない片手剣が引っこ抜かれたことで、彼女らは驚きを隠せない。

 手品のような芸当も去ることながら、その行為が何を意味するのか、即座に見抜けてしまった。プリムは慌てながら呼び止める。


「ちょ、ちょっとちょっと! だからダメだって! 君、殺されちゃうよ⁉」


 この子供は単身で挑むつもりだ。そうであると察した以上、年長者として阻止せざるをえない。

 リーダーに続き、隣のチコも呆れ顔でぼやく。


「大人の言うことは聞いとくもんだ。ほれ、武器屋の親父を連れて用事とやらを……」


 言葉が途切れてしまった理由は、ウイルが所持する武器のせいだ。

 銀色の鞘。

 艶やかな黒に染まった柄。

 見るからに高級品だ。

 そして、彼女らはそれが何なのか、知っている。


「ミスリル……」

「ソードだと……」


 プリムとチコを驚かせるには十分な一品だ。ミスリル製のこれは傭兵なら誰もが憧れる一品であり、その金額は六百万イールに達する。

 フレンズの三人が一年を通して稼ぎ続けたとしても、届くかどうかは定かではない。

 この刃ならどんな魔物も切り裂けるだろう。それこそ、鉄のインゴットですら豆腐のように切り分けられる。


「念のため、皆さんは下がっててください」


 自分一人で戦うという決意表明であり、ウイルは右手で柄を握りながら両手を開くように動作させ、その片手剣を鞘から引っこ抜く。

 そして歩き出すのだが、披露された銀色の刃は半分に折れており、その痛ましい姿にチコは笑いをこらえることが出来なかった。


「ぶふっ! なんだよそれ、ぶっ壊れてるじゃん。そりゃまぁ、残った刃でも戦えるだろうけどさ。ん? 二人共、どうしたん?」


 黄色髪の傭兵だけが騒ぐ一方、残りの二人は硬直して動けない。

 ミスリルソードは確かに半分の長さで折られてしまっており、みすぼらしい姿なのかもしれない。

 しかし、問題はそこではなく、プリムは黒いスカートで手汗を吹きながら、本質を言い当てる。


「この子のミスリルソードはまだそんなに使い込まれてない。だけど、折れちゃってる……」

「そう言われると、けっこうピカピカだな」

「うん。刃こぼれすらない。だけど、折れてる。ううん、折られた……」


 リーダーの説明を受け、彼女もついに理解する。

 三人が見つめるその背中は子供のように小さいが、迷いのない前進ゆえか、不気味なほどに大きく映る。

 右手には、砕かれた片手剣。

 左手にはその鞘。

 どちらも銀色に輝いており、少年の頭髪も太陽の光を受けてやはり銀色だ。

 ウイルとカニの集団との距離が縮まる中、黒髪を傾けながらヨグルンが補足を付け加える。


「ミスリルをへし折る化け物と戦って、勝ったかどうかはわからないけど、生き延びた。小さな体に大きなパワー、ただの美少年じゃないんだわ」


 単なる推測ながらも、物証がそうであると証明してしまっている。

 ましてやその実力は今から披露されるのだから、観客らしく見守っていればよい。

 ウイルは歩く。

 戦うために、突き進む。


(あれの名前を聞きそびれたけど、まぁいいか。さて、ここからは相手の間合い……。気を引き締めていこう)


 青色のカニと違い、今回の対戦相手は攻撃魔法を使う。

 その距離は弓矢ほど長くはないのだが、少なくとも先制攻撃の機会は魔物に奪われてしまう。

 触覚のような二つの目は人間達を観察し続けていた。向こうから近づいて来たのだから、魔法の発射をためらう理由などない。


「来るぞ!」


 女の声が響くと同時だった。

 橙色の甲殻が、濁るように輝く。

 魔法の詠唱を開始した合図ゆえ、ウイルとしても警戒心を高めずにはいられない。


(ん? 見落とした?)


 それでもなお、驚かされてしまう。

 詠唱と同時に出現した、水の球体。使われる魔法がスプラッシュだと事前に知らされてはいたものの、この状況は傭兵のリズムを狂わすには十分だ。

 魔法には三段階の工数が存在する。

 詠唱。

 発動。

 そして、再詠唱までのクールダウン。

 今回の場合、特異個体はスプラッシュを唱えたのだから、先ずは一秒間の準備期間が発生する。

 そのはずだったが、なぜかそのための時間は省略され、既に水製の大砲玉は完成済みだ。

 だからこそ、ありえない。ウイルも自身の目を疑ってしまう。

 そういった人間達の機微などお構いなしに、攻撃魔法は発射される。

 その直径はバースクラブよりも一回り大きいことから、重量は十キログラム以上か。

 水でありながら、凶器になりえるその重さ。そんなものが弾丸のように発射されたのだから、いかに傭兵であろうと被弾すればひとたまりもない。

 ましてや無詠唱という芸当が、虚をつくことに成功する。

 防御も回避も不可能だ。

 三人の死者がそれを裏付けており、ウイルも四人目としてカウントされる。

 誰もがそう思った。

 しかし、弾着の直前に水がその形を保てず飛び散ったことで、その予想は否定する。

 何が起きた?

 何をした?

 ゴッテムだけがわからない。

 フレンズの三人も即座には理解出来なかったが、ウイルがなおも歩みを進めたことで生唾を飲み込む。


「あいつ、斬ったのか?」


 チコの男勝りな顔がわずかに歪む。


「そう……みたい」


 リーダーのプリムも目を見開かずにはいられない。


「このまま奮闘? もしくは逃走?」


 杖で地面をコツンと叩きながら、ヨグルンも無表情のまま見守り続ける。

 攻撃魔法の進行速度は、傭兵の全力疾走以上だ。

 今回のスプラッシュにおいては弾丸ほどではないものの、視認出来たとしても体の動作が間に合うはずもない。

 それゆえに、過去の挑戦者達は敗れた。

 水の塊を撃ち込まれて、絶命した。

 だとしても、この少年には関係ない。反応出来てしまうのだから、ミスリルの片手剣で切り払えば済む話だ。


「わかってたけど、斬ってもビショビショになっちゃうな……」


 そう愚痴りながら、そして水浸しになりながら、ウイルは怯むことなく距離を詰める。

 魔法や戦技には、再使用までに待ち時間が発生する。攻撃魔法も例外ではなく、次弾が装填されるまでにもっと前へ進むつもりだ。

 走れば一瞬のはずだが、そうはしない。魔法以外の攻撃手段を警戒するためであり、様子見を兼ねて慎重に歩いている。

 人間を殺せなかった以上、魔物は当然のように二発目を繰り出す。

 いくらか距離を詰められてしまったが、このカニにとっても悪いことばかりではない。

 獲物が近づいたのだから命中精度が高まるばかりか、魔法への対処もより困難のはずだ。

 それをわかっているからこそ、特異個体は自身が固定砲台となり、再度、水の砲弾を射出する。

 直線的な弾道は瞬く間に人間との距離を詰め終えるも、今回の迎撃はそれ以上だった。

 その刹那、十字を切るように斬撃が走る。これ以上濡れたくないという思惑から、ウイルは右腕を音よりも速くは滑らせ、透明な大砲玉を四等分に切り分けた。

 それでも水の破片があちこちを濡らすも、先ほどよりは上出来だ。少年の足は満足げに前へ進む。

 その結果、オレンジ色に塗られたこのカニが、ただの特異個体ではないと全員が思い知る。

 間髪入れずの三発目。本来ならばありえないこの状況に、ウイルも含め傭兵全員が言葉を失う。

 なぜなら、再詠唱時間を無視した芸当だからだ。

 スプラッシュの場合、再詠唱までに四秒待たなければならない。他の魔法を覚えていれば、そちらを使えば済む話だが、この魔物はスプラッシュだけにこだわるのか、はたまたそれしか使えないのか、どちらにせよ、この世界のルールを無視した芸当を実演してみせた。


(スプラッシュの連続詠唱……。まぁ、魔物らしいと言えばそれまでか)


 驚きはしたが、それまでだ。。

 魔物が自分達とは異なる法則に乗っ取っていようと、不思議ではない。

 魔物は異世界からの襲撃者。王国お抱えの研究者達はそう結論付けており、だからこそ、一部を除いて食事も生殖活動も必要としない。

 摩訶不思議な生物だ。生物ですらないのかもしれないが、その肉は美味な上、栄養豊富。脅威ではあるものの、欠かせない隣人として王国民はその存在を受け入れている。

 肉親や友人が殺されることもあるだろう。

 それでも、魔物にはいてもらわなければ困る。

 歪な関係ではあるものの、人間と魔物はそういう間柄だ。

 ウイルは歩く。

 実は避けることも可能なのだが、あえて魔法を切り払いながら、最短ルートを進む。

 油断でもなければ、慢心でもない。

 この程度の相手に、小細工など必要ないからだ。


「これで……」


 終わりだ。

 途切れることなく魔法を詠唱し続けるそれを見下ろしながら、白金の片手剣を振り下ろす。刃が折られていようと、残った部分があらゆる敵を切り裂いてくれる。それがオレンジ色の甲殻であろうと、例外なく両断出来てしまう。

 あっさりと、そして問答無用で左右に勝ち割られたカニの魔物。鋏や足がわずかに動いているが、その動きも徐々に終わろうとしている。

 露出した中身を覗きながら、勝者はいつもの感想を抱かずにはいられない。


(何度見ても、カニの中身ってグロいな……。さて、これで心置きなく顔洗える)


 湖での小休憩にはこの魔物が邪魔だった。

 ならば、排除するまでだ。

 三人の傭兵は恐れおののいていたが、ウイルにとっては有象無象の雑魚でしかない。

 この戦いはそれ以上でもなければそれ以下でもない。

 ゆえに、この結果は必然だった。


(そんなビショビショなら、顔洗う必要なくなーい?)


 頭の中に直接語りかけてくる、鈴を転がしたような声。

 その指摘は的を射ており、ウイルとしても足を止めずにはいられなかった。


(た、確かに……)

(かっこつけてあんな戦い方しちゃうから。いっそ、全部受け止めた方が強者感出てて良かったと思うけどね)

(い、いやいや、さすがにあの魔法は相当痛いと思うけど……)

(あんなちっぽけな魔法、そよ風みたいなもんじゃん)

(で、でた……。白紙大典はす~ぐそうやって僕や僕の対戦相手を雑魚扱いする。今回のはそんなに強くなかったけど、危険な相手ではあったと思うけど……)

(ぷぷぷ、魔法の連続詠唱にビビってたもんね)

(い、いやいや、一瞬だけギョッとしたけど、それだけですー)

(この世界には、あれ以上の芸当をやってのける奴がわんさかいるんだから、こんなことで驚いてたらダメだよー)

(肝に銘じます……)


 説教なのか助言なのか、それすらもわからない。

 どちらにせよ、ウイルは再度湖を目指す。顔を洗う必要はなくなったが、ならば、汚れたミスリルソードを洗いながら疲労の溜まった足を冷ましたい。

 動かなくなった死体と、歩き出した少年。それらを交互に眺めながら、女達は茫然と語りだす。


「あの子、何者?」

「これって私らの討伐扱いになんの?」

「ただの美少年じゃなかった。ビショビショな美少年だった」


 三者三様な言葉が走るも、露出した太ももをポリポリとかきながら、チコが一旦締めくくる。


「今日のヨグルン、ギャグが冴えてるじゃん」

「それほどでもない」


 一方、安全地帯から眺めていたゴッテムだが、戦いが終わった以上、ウイルに合流するため歩き出す。


(良い土産話が一つ増えた。エルディア、ハバネ、今行くぞ)


 旅は未だ道半ば。

 されど、残すところも、もう半分。

 ならば、あっという間だ。

 案内人はウイルであり、その脚力と実力は一級品。この進捗なら、夜までには着けるだろう。

 だからこそ、焦る必要はない。

 休める時に休み、進む時は集中して進む。

 傭兵のペースで。

 ウイルのペースで。

 依頼人を送り届けるため、午後もひたむきに走り続ける。

線上のウルフィエナ

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