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終業時間を回って、今日は朋也さんと一緒に帰る。
一弥先輩はまだ仕事中みたいだ。
菜々子先輩は、先に帰ってしまったけれど、一緒に帰らないのだろうか?
確かに、今日はあまり2人で話していなかったような気がする。
まさかケンカしたの?
一弥先輩は優しいから、怒ったりしないと思うんだけど……
「恭香ちゃん、まだ仕事?」
その声に振り向いたら、一弥先輩がいた。
ちょうど先輩のことを考えていたタイミングの声掛けに、ドキッとした。
「あ、はい、まだ少し残ってて。もう少し頑張ります」
「そっか、石川さんがいなくなっていろいろ雰囲気も変わったからね。今日は大変だったよね、大丈夫?」
優しい話し方。
このさり気ない励ましに私はいつも癒されてきた。
「はい……全然大丈夫です。みんなとの打ち合わせも充実して、早くCMの撮影やりたいねって話してました。完成したCMを見るのが今からすごく楽しみです」
「そっか、なら良かった。何だか恭香ちゃん、ちょっと元気ないなって思ってたから。何か心配事があるなら、いつでも相談してね」
「あっ、ありがとうございます。でもほんとに大丈夫です」
一弥先輩に、石川さんのことは話せない。
「……うん。そうだ、明日みんなでご飯に行かないかな? 本宮君の歓迎会まだだったし、アートディレクター就任のお祝いも兼ねて。どうかな?」
「そう言えば……確かに歓迎会してなかったですよね。ぜひ、やりたいです」
あまりにいろいろあり過ぎて、そこまで気が回らなかった。一弥先輩の気遣いには頭が下がる。
「だったら決まり。本宮君に聞いてみるね」
「あ……はい。お願いします」
一弥先輩は、向こうで作業していた朋也さんのところに行って話してくれ、そして、また戻ってきた。
「本宮君OKだって。あとは……女の子達には恭香ちゃんから声かけてくれる? お願いしてもいいかな?」
「はい、もちろんです。夏希と梨花ちゃんに声かけておきますね」
「悪いけど、菜々子にもお願いしていいかな?」
一弥先輩から声をかけないのだろうか?
わざと……なのかな?
付き合っていることがバレないように?
「わ、わかりました。メールしておきます。どこにしますか、お店」
気づいたら、私と一弥先輩が幹事みたいになっている。2人でネットを見ながら、いろいろお店を探した。
朋也さん、私を待っているよね……
どうしよう、帰れないな……
「どうした? 明日の店?」
朋也さんが、私たちのところまで来て言った。
すぐ近くにイケメン2人が並ぶとかなりの迫力がある。
「何か食べたい物ある? 本宮君、何が好きなの?」
「そうだな、バーベキューとか?」
意外な答えだと思った。
「バーベキュー? 夜にバーベキューができるお店なんてあるかな?」
「良かったら、明日、みんなでうちに来ればいい。うちでなら夜にでもバーベキューができるから」
えー!!
朋也さんのお家に?
本気なの?
「本宮君のうちってことは、社長の家に行くってことだよね?」
「ああ。父さん……あ、社長に言っておく。屋上でバーベキューするからって」
「え、でも、そんなのいいんですか? 社長に叱られませんか? 突然みんなでお邪魔して……」
勝手に決めて家を飛び出しているのに、さらに迷惑をかけるのではないかと、ちょっと心配になった。
「問題ない。みんなが来てくれたら社長も喜ぶよ。あの人は意外と賑やかなことが好きなんだ」
「何だか悪いね。でも、みんなで夜にバーベキューなんて、楽しいかもしれないね。きっと他のみんなも喜ぶよ。そうだ、食材とか……どうしようか? 買いに行く時間がないかもしれないなぁ」
「いい、それくらいはこっちで用意するから。いろいろ材料を揃えておくから、みんなで好きなものを焼けばいい。大体の人数を教えてもらえれば伝えておく」
「さすがだね。すごくありがたいよ。なんだか明日が楽しみになってきた」
「本当にありがとうございます」
「俺のためにわざわざ歓迎会を考えてくれて……こちらこそありがとう。チームのみんなともいろいろ話したいし、良い機会になった」
朋也さんの歓迎会なのに、すべて用意してもらうのは申し訳ないけれど、バーベキューなんて久しぶりで、私までワクワクしてきた。
それに、何よりも、朋也さんが育った場所を見てみたい……との願望もあった。
私達は、少しだけ明日の打ち合わせをしてからフロアを出た。
今日は3人で会社から駅まで歩いた。
私を真ん中にして、両脇に超イケメンがいるこの状況……
言葉にするのが難しいくらい、緊張して、心臓がバクバクして、不思議な感じがする。
いつだって夢を見ているみたいだ。
「本宮君、今日は本当に疲れただろう?」
「いや、大丈夫だ。それより2人とも、環境が変わって不安定な状況の中でよく頑張ってくれた。感謝してる」
「正直、久しぶりにとてもモチベーションが上がって楽しく仕事に打ち込めたよ。それも全部本宮君のおかげだね。さすがだよ」