コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「俺は何もしていない。みんながトラブルを乗り越えようと一丸となって頑張ってくれた。そんなみんなを……俺なりにディレクターとして明日からも支えたいと思っている」
「心強いよ。明日からまたみんなで頑張ろう。それに夜はバーベキューが待っているから、さらにモチベーションが上がるね」
「はい。私も、明日はそれを楽しみに頑張れそうです」
「それなら良かった」
「駅に着いたね。本宮君、電車にも乗るんだ」
「ああ。電車は嫌いじゃないから」
「びっくりだな。本宮君ほどのお金持ちは、お抱えの運転手がいて、リムジンか何かで送り迎えかなって勝手に思ってたから」
「執事とか、じいや……とかがいるとか?」
朋也さんは冗談っぽく返した。
「そうそう、そのイメージね。お金持ちは電車に乗らないと思ってた。まあ、本当に単なるイメージだけどね」
「確かに運転手やお手伝いさんはいる。だけど……そんなたいしたことはない。まあ、あの会社を築き上げた父さんは……本当にすごいけど。俺はまだまだ未熟だから」
「本宮君はすごいよ。今日だって、いきなりディレクターとしても手腕を発揮していたし。さすが、社長の息子さんだよ」
「褒めすぎだろ」
「本気で思ってるから。『文映堂』は最大手だから、僕の憧れだった。入社できた時は心から嬉しかったよ」
「そう言ってもらえたら、社長も喜ぶよ。社長は会社も社員もとても大事に思っている人だから」
「何から何まですごい人だね、君のお父さんは。本当に心から尊敬するよ」
「俺も……尊敬してる。だから、この会社のために自分ができることを精一杯頑張りたいと思っている。君たちにも力を貸してもらえたらとても心強い」
「もちろん僕もしっかり頑張ろうって思ってるよ。本宮くんと一緒に仕事ができて本当によかった。それに、恭香ちゃんともね」
「あっ、はい! 私もみんなと一緒にお仕事させてもらえて本当に良かったと思っています。たくさん勉強させてもらいたいです」
「あっ、じゃあ、僕は反対方向だからあっちのホームに行くね。2人は一緒なんだ」
「ああ……そうみたいだな。俺は、高階駅だから」
たまたま本当に朋也さんの家も、私と同じ側のホームだった。
高階駅は、私の駅より、さらに15分程行ったところにある。高級住宅が集まる地域だ。
一体どんな豪邸に住んでいるのだろう?
明日、朋也さんの家に行けるなんてワクワクする。
「じゃあ、また」
「じゃあね。明日、楽しみにしてるから」
「私もです。さよなら」
私達は、一弥先輩に手を振って別れた。
こちら側の電車はラッシュを超えて少し空いている。
「今日は遅くなったからスーパー閉まってますね。晩御飯どうしますか?」
「今日は……カップラーメンにしよう」
「え? カップラーメンなんて食べるんですか?」
「俺を何だと思ってるんだ? 嶋津君にしても、恭香にしても」
2人でちょっと笑った。
「毎日、お抱えシェフが作る高級料理みたいな……イメージですね」
「母さんがいなかったから、お手伝いさんがいろいろ作ってくれたけど、いたって普通の食事だ。特に俺のことを育ててくれた梅子さんの料理は、正統派の家庭料理だったから。まあ、確かにたまにはシェフを呼んだりすることもあったけどな。誕生日とかお祝いごとがあった時とか」
え、お母さんがいない?
そうだったんだ……
知らなかった。
「あの……お母さんがいないって……」
デリカシーのない質問だったかも知れない。
「子どもの頃にね、病気で」
「ご、ごめんなさい……」
「全然いいんだ。もうずいぶん昔の話だし。俺が言ってなかったから、悪かった。本当に気にすることは無い」
その時、電車が駅に到着し、私達はそのまま駅直結のコンビニに入った。
朋也さんは、カップラーメンとおにぎりを買った。
私も、カップラーメンとサラダを。
他にもいろいろ買ったのに、朋也さんが全部お金を支払ってくれた。
「早く帰ろう。お腹空いた」
「はい。本当にお腹空きましたね」
そう言って、朋也さんは、荷物とカバンを持っている反対の手で私の手を握ってくれた。
キュンと胸が鳴る。
手を繋ぎながら早足で帰る道。
何だか……嬉しい。
もちろん、恋人同士というわけではないけれど、このシチュエーションにはいやでもドキドキする。
昨日の嫌な記憶も、朋也さんがいてくれるから思い悩まずに済んでいる。本当に、今の私にとってはありがたい存在だ。
部屋に入って着替えも済ませ、今日は先に食事をした。
2人で食べるカップラーメンは妙に美味しく感じた。
それから、順番にお風呂に入って……
私が入浴している間に、朋也さんは実家に電話をしているようだった。
きっとバーベキューのことを頼んでくれているのだろう。社長が許してくれるといいんだけれど……