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玄武。北。仙煙草。……これらは全部、あの鳳来堂と繋がっているのだろうか。
頭の中では不穏な言葉がいくつも引っかかっているのに、目の前では神様どもが好き勝手に騒いでいる。もう何から突っ込めばいいのか、煌には分からなかった。
「あーもう! 面倒くせぇ。頭使いすぎて腹減ったし、しゃあねぇ、何か作るか。燕花、台所借りるぞ」
「はい。必要なものがあれば、すぐご用意いたします。台所はこちらです」
うーんと伸びをして、煌は燕花の後をついていく。
「……ところでさぁ、なんでお前までついて来てるんだ?」
厨房の入口まで来たところで、煌は呆れたように振り返った。
「いいではないか。お主を一人にしておく方が問題だ」
「何を当たり前みてぇに言ってんだ。んなわけねぇだろ! ストーカーか、てめぇは!」
「すとーかー、というのは知らぬが……お主の傍におるな、という意味なら断る」
「なんでだよ!」
「白虎のやつより先に、すたみな料理を食いたいからだ」
きっぱり言い切ったうえに、朱雀はなぜか得意げに胸まで張った。
煌は面倒くさそうに頭を掻きむしる。
「ガキかてめぇは! いいから、大人しく向こうで待ってろ!!」
あからさまにしゅんとして、トボトボと戻っていく背中がやけに情けない。
煌は、はぁ、と盛大なため息をひとつこぼした。
「ったく、なんなんだ。アイツは」
「朱雀様は、よっぽど童殿がお好きなんですねぇ」
「はぁっ!? なっ、何処がだよっ! たくっ、変な事言うなっ!」
ふふ、と微笑ましそうに笑う燕花の視線がいたたまれなくて、煌は乱暴に厨房の扉を閉めた。
棚に並ぶ食材は、意外にも見た目も匂いも元の世界とそう変わらないものばかりだった。
それが少しだけありがたくて、煌は内心ほっと息をつく。
(作ってやるって言った手前、できませんでしたじゃ流石に気まずいし……。それに、あのドラ猫、怒らせたら普通に怖そうなんだよな)
「なぁ、燕花。肉って……」
「獣肉ですか? それとも家畜用でしょうか?」
獣と家畜の違いがいまいち分からず、煌は一瞬だけ言葉に詰まった。
が、とりあえず家畜用を選ぶことにした。
適当に材料を切り、ニンニクらしきものをたっぷり入れて、薄く切った肉と一緒に炒める。
調味料はよく分からないものばかりだったので、とりあえず匂いを確かめながら少しずつ入れていった。
もう少しで完成、というところで、ようやく煌は厨房の外がなんだか騒がしいことに気づいた。
「なぁ、何の騒ぎだ? もしかして、あいつら喧嘩でも……」
「それはないと思います、童殿。朱雀様達はああ見えて、ご自分たちの力を理解しておられますので。あの方々が本気でぶつかれば、流石に街の半分は消し飛んでしまいます」
「じゃあ、なんだって言うんだ……?」
「皆、異世界の料理というものが気になっているのでしょう」
そう言う燕花の目も、煌の手元の鍋をしっかり見ている。
どうやら気になっているのは、燕花も同じらしい。
焼ける肉とニンニクの香ばしい匂いが、じわじわと宮殿中に広がっていく。
すると扉の向こうから、朱雀の「なんという下卑た、だが抗いがたい匂いだ……」という動揺した声が聞こえた。
その直後、白虎の「おら、早く食わせろ!」というがなり声まで響いてきて、煌は思わず顔をしかめた。
「うるせぇな……犬か、あいつらは」
「犬というより、獣そのものかと」
燕花がさらりと言いながら、皿を二枚、三枚と手際よく並べていく。
煌は鍋の中身をざっと見回し、火加減を確かめてから、小さく息を吐いた。
「……よし。多分、こんなもんだろ」
薄切り肉にたっぷり絡んだ香ばしい油。焼けたニンニクらしき香味野菜の匂いが、空腹を乱暴に刺激してくる。
味見代わりに端をひとつつまんで口へ放り込むと、少し濃いが悪くない。むしろ疲れた体にはちょうどいいくらいだ。
「童殿、出来ましたか?」
「ん。多分な。ほら、皿貸せ」
燕花が差し出した大皿へ、煌は鍋の中身を一気に盛った。
じゅわ、と最後の油が跳ねる音まで、やけに食欲を誘う。
「……これで文句言われたら、今度こそ知らねぇ」
「白虎様は確実におかわりを要求なさるでしょうね」
「最悪だな」
煌がげんなりしながら皿を持つと、燕花がすっと厨房の扉を開いた。
次の瞬間。
「遅いぞ童殿!」
「待ちくたびれたぜ、鉄拳の巫女!」
扉のすぐ前にいた朱雀と白虎の声が同時に飛んできて、煌は思いきり眉をひそめた。
しかも二人とも、鼻先を皿の方へ向けている。完全に匂いに釣られていた。
「近い近い近い! 鬱陶しいからどけ!」
「どれ、まずはわしが毒見を――」
「何を当然のように一番に食おうとしてやがる。約束したのは俺だろうが」
「黙れ白虎! 貴様に食わせるくらいなら、まずわしが全部食う!」
「それ毒見じゃねぇだろうが!!」
皿を挟んで今にも噛みつきそうな勢いの二柱に、煌は心底うんざりした声を出した。
「まぁ、これ。すごく美味しいですよ」
一斉に視線が声の主へ向いた。
いつの間にか、燕花がちゃっかり肉をひと切れ頬張っている。もぐもぐと咀嚼しながら、にこりと笑った。
「これで、毒見は出来ましたね」
「ハハッ。燕花……お前も案外ちゃっかりしてんなぁ」
「ありがとうございます」
「褒めてねぇよ」
煌が呆れ半分で突っ込む横で、白虎が「ずりぃぞ!」と吼え、朱雀は「燕花ァ……!」と何とも言えぬ顔で固まった。
「よし、毒もないなら次はわしだな」
「何を言う朱雀! 最初に約束したのは俺だ!」
「知るか! そもそも童殿の料理はわしの――」
「はいはい、そこまでです」
燕花がすっと二柱の間に割って入る。
静かな声音なのに、不思議と逆らえる空気ではない。
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