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メリーティア・ハイゼンベルグの人生は輝きに満ちていた。
ハイゼンベルグ侯爵家は、華々しき大帝国――ヴェドニアにある由緒正しき貴族家門のひとつだ。肥沃な土地や金銀鉱山など、潤沢な経済基盤を持っている。
その家に生まれただけでも幸せな人生が確約されていたが、そのうえ優しい両親と兄に愛されて育った。
さらにメリーティアは、それはそれは美しかった。
すらりと背が高く、凛とした佇まいには気品が溢れている。それでいて肢体は肉感的なラインを描き、同性からは羨望のまなざしを集め、男には欲望を抱かせた。
艶やかに流れるラベンダー色の髪は彼女の雪のように白い肌を儚げに彩る。やや目尻の上がった薄桃色の瞳はいつもどこか憂いげで、彼女を蠱惑的に魅せた。
美の女神も嫉妬するほどだと称賛された容貌は、成長するにつれますます美しさに磨きがかかっていく。
帝国中のあらゆる家門から求婚が殺到し、果ては皇帝までもがメリーティアを欲した。
皇宮で開催されたデビュタントボールに出席してからというもの、愛を綴った手紙が毎月のように届く。
だが皇帝はすでに結婚しており、メリーティアとそう変わらない年齢の子供がいた。
つまり、側室に迎えようというのだ。
側室といえど、とてつもない権力を得られることには変わりない。
しかしメリーティアはどんな魅力的な条件の求婚も跳ねのけて、幼なじみを選んだ。
ホールトン公爵家の嫡男、グウェンダルだ。
親同士の親交が深く、ふたりは幼少の頃から付き合いがある。
今でこそいい仲だが、初めて顔を合わせたときメリーティアは彼を怖がった。
グウェンダルはふたつ年上で、幼い頃からとても身体が大きかったからだ。
そして年齢にそぐわない凛々しい顔立ちをしていた。垂れた目元だけを見ると優しそうに見えるのだが、表情筋が作用しておらず親しみやすさはない。黒い髪に黒い瞳というのも彼を威圧的に見せている。
寡黙で厳格そうなグウェンダルとお転婆で明るいメリーティアでは相性が悪いように思われたが、実際に接してみるとその印象は変わった。
彼は物静かで穏やかな人柄で、どこまでも優しかった。
メリーティアが自分を怖がっているとわかると、目線が合うように膝をついて接してくれたのだ。また、どのような遊びでも付き合ってくれて、わがままだって大きな心で受け止めてくれる。
ただ優しいだけではなく、騎士になるのが目標だと言って日頃から鍛えているため、頼りがいもあった。
その包容力に、幼いメリーティアの心が惹かれるのはもはや必然と言えるだろう。
五歳のときに出会った彼と、十八歳で結婚した。
グウェンダルは騎士として帝国軍に所属しているため、ふたりは軍の活動拠点である帝都の一角、ホールトン公爵家のタウンハウスで暮らすことになった。
彼は外見によらずとても愛情深いひとで、仕事が忙しいにもかかわらず必ず家に帰ってきてはメリーティアに毎夜愛を囁く。
結婚してからも皇帝からのアプローチはやまないが、気に病む暇もない。
とても情熱的で幸福な日々だ。
子を授かるのもあっという間のことであった。
おめでたいことは続くもので、グウェンダルが帝国騎士団長を拝命した。
二十歳と年若かったが、先代の騎士団長から人柄や実力を信頼され、直々に指名されたのだ。
また、ホールトン公爵家は代々騎士の家系で、騎士団長も多く輩出している。この人選に異を唱える者はほとんどいなかった。
それからは騎士団長の任命式や就任式、パーティーなどに引っ張りだこで、大忙しの毎日だ。
本来なら妻も同伴しなければならないが、メリーティアはつわりがあったためいずれも欠席した。
グウェンダルは早朝に出かけていって、日付が変わった頃に帰ってくる。
活動時間が合わず、だんだんと、だんだんと、顔を合わせない日が増えていった。
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