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都内で開かれる凱旋公演の準備に追われる中、瞳子もアートプラネッツのオフィスで、ショップで販売するグッズを考えていた。


今回はテーマが日本の和ということや、海外のゲストを大勢招くことから、和紙のフォトフレームや、漢字と絵柄のスタンプ、万華鏡や手毬なども取り入れた。


そしてオープニングイベントでゲストに配るお菓子として、切り口が桜や富士山などになっているミニキャンディをオーダーする。


「へえ、見た目も可愛いし美味しいね」


透がポリポリと試食しながら、一つ一つ切り口の絵を眺める。


「えっ!何これ。アートプラネッツのロゴじゃない?」


驚く透に、瞳子は頷く。


「そうなんです。特別に作ってもらいました」


どれどれ?と他の3人も寄ってくる。


「ほんとだ!こんな小さいのにちゃんとロゴになってる」


「すごいなー。これ、機械で作ってるの?」


「それが、職人さんの手作りなんですって」


ええー?!と3人は更に驚いている。


「どうやって作るんだ?見てみたいな」


「確かに。マジで尊敬するわ」


感心する皆に、瞳子は名刺サイズのカードを見せた。


「キャンディに、このアートプラネッツのビジネスカードを添えてお渡ししようと思っていて、フレームを和柄にしてみました。どうでしょうか?」


「うん、いいね!綺麗だし、うちの良いPRになる」


「良かった!じゃあ、これで進めて大丈夫ですか?」


「ああ。瞳子ちゃんに任せるよ」


「はい、ありがとうございます」


瞳子は他にも喜ばれそうなグッズをあれこれと考え始めた。




ある日の夜。


洋平達が展示会場に作業に行き、オフィスでは大河と瞳子がそれぞれ仕事をこなしていた。


届いたオリジナルグッズのサンプルをデスクに広げて吟味していた瞳子が、ふう…とため息をついて肩を落とす。


「どうかしたのか?」


気になった大河が声をかけると、瞳子は元気のない声で答える。


「なんだか煮詰まっちゃって…。最初は、これいいな!と思ってたのに、だんだん、何か違うかも?って気がしてくるんです」


そう言うと両肘で頬杖をつき、サンプルに目を落とす。


まあ、そういうこともあるよな、と大河が独りごちると、瞳子がふと視線だけ上げて大河を見た。


じーっと見つめられ、大河はだんだん焦ってくる。


「な、なんだ?」


「大河さん。つき合ってくれませんか?」


「えっ?!」


ま、まさかそんな。


いきなり告白?!


大河はアワアワと無意味に手を動かす。


「ち、ちょっと待て。いったい、なぜ急にそんなことを?」


俺のことを好きになったとか?


え、本当にそうなのか?!


だとしたら、自分もきちんと向き合って考えなければ。


いや、まずその前に…


(嬉しい…。俺、今すごく嬉しい。舞い上がってる。ってことは、俺も彼女のことを…?)


その時、瞳子が真面目な口調で言葉を続けた。


「ちょっと頭の中をリセットしたくて。洋平さんが教えてくれたバーにつき合っていただけませんか?」


「…………は?」


意味を理解するまで10秒は要する。


「え、バーに?つき合う…?」


「はい。一人で行くのは少し心配で…。ご迷惑でなければ、おつき合いいただけませんか?」


「あ、ああ。つき合います。おつき合いさせていただきます」


まだ言葉の余韻が違う意味で残っているが、とにかくコクコクと頷いてみせた。


「良かった!じゃあ早速今夜行っても構いませんか?大河さんのお仕事が終わるのを待ってますから」


「いや、急ぎじゃないから今日はもう終わりにするよ」


そして二人はタクシーでバーに向かった。




「わあ…素敵!夜景も綺麗だし雰囲気も落ち着いてますね」


「ああ。なかなかセンスがいいな」


Bar. Aqua Blueと書かれたドアを開け、二人は店内に入る。


お好きな席へどうぞ、とマスターににこやかに声をかけられ、瞳子は中央の大きな水槽の横のテーブル席を選んだ。


二人で向かい合って座り、瞳子はソルティドッグを、大河はウイスキーをロックでオーダーする。


お酒を待つ間、瞳子は色とりどりの小さな魚達を眺めた。


「水槽って、見てるだけで気持ちが落ち着きますね」


「そうだな。俺もいつかオフィスに置きたいと思ってたんだ」


「そうなんですか?わあ、いいですね」


「ああ。本気で考えようかな」


「ええ、ぜひ!最近は水槽の設置やプロデュースから、メンテナンスまでやってくれるリース会社もありますしね」


「へえ、そうなんだ。手入れが大変そうで二の足を踏んでいたが、メンテナンスしてくれるなら心配ないな」


「はい。早速見てみますか?」


瞳子はスマートフォンを取り出すと、水槽のリース会社を検索する。


「ほら、色々プランもありますよ」


「ほんとだ。いいな、これ」


二人で顔を寄せ合って画面を覗き込む。


やがてオーダーしたお酒がサーブされて二人は乾杯した。


「美味しい!お酒なんて久しぶり」


「そうなのか?」


「ええ。やっぱり一人だとお店に行く勇気が出なくて…」


そうだろうな、と大河は納得する。


最初に店内に入った時、フロア中の男性が瞳子を見て、一斉に色めき立つのが分かった。


もし横に自分がいなければ、あっと言う間に声をかけられていただろう。


お酒の席というのもあり、強引に言い寄られることは簡単に想像出来た。


瞳子は伏し目がちにグラスを手に取り、少し揺らして色を楽しんでから、ゆっくりと口をつける。


普段の美しさに妖艶な大人っぽさも混じって、大河は頭の中がクラッとした。


邪念を取り払うように、一気にグラスを煽る。


瞳子は1杯目のグラスが空になると、2杯目にロングアイランドアイスティーを頼んだ。


「お酒は強いのか?」


アルコール度数が高いカクテルに、大河はふと気になって聞いてみた。


「強いですよ。酔っちゃうと防御の姿勢が保てないので、いつも酔わないです」


「防御の姿勢…。ゲームみたいだな」


「ふふっ、そうです。鎧と盾で完全防備です」


瞳子は面白そうに笑っているが、きっと何度も嫌な思いをしてきたが故にそうなったのだろう。


(今夜はそんな懸念など忘れて楽しんで欲しい)


微笑みながら夜景に見とれる瞳子を、大河は優しく見守っていた。




「ちょっと!誰がお酒に強いって?」


大河はふらつく瞳子を支えながら店を出る。


酔わないです、と断言したのが別人のように、瞳子はいつの間にかへべれけになっていた。


「だって、今夜は大河さんいるからさー。安心しちゃってさー。いっぱい飲んじゃったさ。お酒も美味しいし、雰囲気もいいし。最高だったさー」


「どこの地方のなまりだよ?」


「東京さー」


「嘘つけ!」


大河は瞳子の肩を抱いて1階まで下りると、タクシーで瞳子のマンションへと向かう。


「大河さん、サイレン鳴らして爆走すれば?刑事だもんね」


「あ、そうなの?」


運転手が瞳子の言葉に反応し、違います!と大河は慌てて否定する。


「尾行してくる車、まくのが上手いもんね。さすがさー」


「えっ、尾行されてる?」


だから違います!と、またもや大河は声を張る。


早く着いてくれーと心の中で願い、ようやく瞳子のマンションまで来ると、そそくさと会計を済ませて降りた。




「ほら、ソファに座って。お水持ってくるから」


「ありがとさー」


大河は瞳子の部屋に上がると瞳子を座らせ、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。


コップに注いで瞳子に手渡す。


だが手つきがおぼつかなく、大河は隣に座ると自分の手を添えて飲ませた。


「どう?少しは落ち着いた?」


「うん。もう大丈夫さー」


「どうだか。じゃあ俺は帰るから」


そう言ってスマートフォンを取り出し、タクシーを手配する。


するとその手をガシッと瞳子が握ってきた。


「わっ、何?」


「大河さん、私とつき合ってくれたら、またお酒飲める?」


「ああ、つき合ってもいいけど。今度はこんなに酔う前に止めるからな」


「じゃあ、くっついてもいい?」


「はあ?何に?」


「大河さんにさー」


「どういうこと?」


思い切り眉間にしわを寄せた時、瞳子がピタッと正面から抱きついてきた。


「は?ちょ、なに?」


大河は焦ってうろたえる。


「あったかい…。癒やされる」


「おい、俺は抱き枕じゃないぞ?」


「だって、気持ちいいんだもん。落ち着く…」


頬を寄せてギュッと抱きしめてくる瞳子に、大河の身体がだんだん熱くなる。


女性らしい柔らかさ、豊満な胸の感触、良い香りのサラサラの髪…。


それらを意識し始め、大河の鼓動は一気に速まる。


「前にね、大河さんがギュッてしてくれて、すごく気持ち良かったの。安心するし、ホッとする。大好き…」


小さく呟く瞳子に、大河はもう平常心ではいられなくなる。


だがなんとか己を押さえつけ、瞳子の両肩に手を置いて身体を離した。


「そういうセリフは本当に好きな人に言え」


冷たく言い放つと、瞳子の顔から笑みが消えた。


その瞳が、みるみるうちに涙で潤んでいく。


「大河さんじゃ、ダメなの?」


「ダメだ。俺はリハビリとして、君が慣れるまでの相手だからな。もう大丈夫だろう。あとは本気で好きになった人と一緒に、ゆっくり時間をかけて癒やしてもらえばいい」


うつむいた瞳子の瞳から、ポタポタと涙がこぼれ落ちた。


「ちょ、どうした?」


慌てて瞳子の顔を覗き込む。


瞳子の目からは、とめどなく涙が溢れていた。


もしかして何か傷つくようなことを言ってしまったのかと、大河は不安になる。


「どうしたんだ?俺が何か気に障ることをしたのなら教えてくれ」


瞳子は黙って首を振る。


「それなら、どうして?」


「…大河さんとが良かったの」


瞳子の小さな呟きに、え?と大河は首を傾げる。


「俺とがいいって、どういう意味?」


「大河さんだから、一緒にいても楽しいの。部屋に二人切りでも、大河さんなら怖くない。身体が触れても、大河さんだから安心するの。他の人なら…やっぱり怖いの」


大河はハッと息を呑む。


気づいた時には、瞳子を胸にかき抱いていた。


「俺となら、一緒にいても平気?」


「…うん」


腕の中で瞳子が小さく頷く。


「俺となら、こうやって身体に触れていても怖くない?」


「うん」


「俺となら…」


大河は言葉を止めて一つ息を吸う。


「俺となら、この先の関係も想像出来る?」


瞳子はしばらく押し黙ってから、再び頷いた。


「うん。大河さんとなら、大丈夫。大河さんなら信じられるから。私を大切にしてくれるって。大河さんは、私とでは無理?」


おずおずと視線を上げて尋ねる瞳子に、大河は目頭が熱くなるのを感じた。


腕の中にいる瞳子の温もりに、愛おしさが込み上げてくる。


「無理な訳ないだろう。どれだけ俺を翻弄する気だ?こんなにも好きで好きで堪らないのに」


そう言うと、瞳子の頭をグッと抱き寄せる。


良かった…、と呟いて身体を預けてくれる瞳子に、大河はもうこれ以上気持ちを抑えることが出来なかった。


「瞳子…」


愛しい人の名を呼ぶと、瞳子は顔を上げて大河を見つめる。


ゆっくりと顔を寄せていくと、瞳子の潤んだ瞳が揺れた。


唇が触れそうな距離で、ためらうように大河が動きを止めると、瞳子は顔を上げたままゆっくりと目を閉じた。


大河はぎこちなく唇を寄せると、そっと瞳子にキスをする。


かすめるような、ほんの一瞬触れただけの小さなキス。


瞳子は目を開けると、上目遣いに、そしてちょっと不満そうに大河を見つめる。


照れたような、拗ねたような、その表情がたまらなく愛しくなり、大河はまた唇を寄せ、今度はゆっくりと優しく口づけた。


胸の奥がジンと痺れ、切なさにキュッと痛む。


ファーストキスの時でさえ、こんな気持ちにはならなかったのに。


大河は名残惜しむように唇を離すと、もう一度瞳子を胸に抱きしめ、優しく頭をなでた。


「瞳子…。君を必ず大切にする。約束するから、君のそばで守らせて欲しい。そして少しずつ時間を重ねていこう。二人で、恋人としての時間を」


「大河さん…。ありがとう、私を救ってくれて。本当にありがとうございます。大河さんとなら、この先の未来も築いていける気がします。恋人としての未来を」


「瞳子…」


大河は優しく瞳子に微笑むと、もう一度愛を込めてキスをした。

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