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ひとせるな
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転校してきた殺し屋君第1章:偽物の日常
第5話:追跡の階梯(かいてい)
視界が赤く染まる。内臓を突き上げるような衝撃に、浩一は膝をついた。 「ハァ……ハァ……。流石だな、強化薬のパワーは伊達じゃない」 「無駄口を叩く余裕があるなら、早く死ねよ!」 指谷が再び床を蹴る。その速度はもはや人の域を超えていた。
だが、浩一はただ殴られていたわけではない。倒れた本棚の陰で、彼は図書室にある「武器」を瞬時に見定めていた。 迫りくる指谷の拳。浩一はそれを紙一重でかわすと、カウンターで手に持っていた大型のブックエンドを指谷の側頭部へ叩きつけた。 「ぐっ……!?」 怯んだ隙を見逃さず、浩一は足元の**ブックトラック(本を運ぶ台車)**を全力で指谷の方へ蹴り出す。大量の本が載った鉄の塊が、指谷の膝を直撃した。
「この、ガキがぁ!!」 指谷が激昂し、近くの机を片手で投げ飛ばす。浩一は咄嗟に厚手の百科事典を盾にし、衝撃を逃がしながら、カウンターの影に隠しておいた消火器のピンを抜いた。
プシュゥゥゥーーーッ!!
白い粉末が図書室を満たし、指谷の視界を奪う。 「チッ……逃げる気か!」 指谷が煙を切り裂いて突っ込んでくるが、そこにはもう浩一の姿はなかった。 薬の副作用か、指谷の呼吸が荒くなり始める。血管が浮き出た腕を振り回すが、粉塵に紛れた浩一の気配を捉えきれない。 「……クソっ、時間切れか。今日のところは生かしておいてやる」 指谷は吐き捨てるように言うと、窓を突き破って外の非常階段へと逃走した。
粉塵が収まり、浩一が咳き込みながら立ち上がる。体はボロボロだ。 図書室の外へ出ると、そこには騒ぎを聞きつけた斎藤雅弘が呆然と立っていた。
「……浩一!? なんだよこれ、今の指谷か? あいつ、あんなに動けるやつだったのかよ……!」 「斎藤……あいつはどこへ行った」 浩一は壁に手をつき、荒い息のまま斎藤の肩を掴んだ。 「え? ああ、あいつなら……。階段を駆け上がっていくのが見えた。屋上の方へ向かったはずだ。信じられないスピードだったけど……」
屋上。 そこは一年前、浩一の親友が命を落とした場所だ。 (あいつ……そこでケリをつけようってのか)
「斎藤、ここは先生に『プロレスごっこが過ぎた』とでも言っておいてくれ」 「おい、無茶だろ! その怪我で追うのかよ!」 斎藤の制止を振り切り、浩一は階段へ向かう。一歩踏み出すごとに全身に激痛が走るが、頭は冷徹に冴え渡っていた。
ボスの言葉が脳裏をよぎる。 『あの自殺には裏がある』
指谷が裏切り者であり、親友の死に関わっているのなら、全ての答えはあの屋上にある。 浩一は足の痛みを殺し、一段飛ばしで階段を駆け上がった。 偽物の日常が終わり、真実の血が流れる時間が始まろうとしていた。
(つづく)
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