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おまる
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さらに、ミルクと小麦粉が混ざり合った
手作りのホワイトソース特有の濃厚な香りが重層的に広がっている。
「な、なんで高瀬君が……?普通こういうのって、夜が明けたら先に帰ってるもんじゃないの……?」
驚きと困惑で、私の思考回路は完全にショートしていた。
なぜ彼がまだここにいるのか。
なぜ、寝起きのボサボサな私のために料理なんてしているのか。
私の動揺を察したのか、高瀬君はコンロの火を弱めると、少し照れくさそうに頭を掻いた。
「いやー、先輩、昨日の今日じゃないですか。一人にするのは心配だったし……それに」
彼は一旦言葉を切ると、フライパンの卵を魔法のような手つきで巻き、私を真っ直ぐに見つめた。
「昨日の先輩、本当にボロボロで……ちゃんとした温かいもの食べて、元気出してもらいたかったんすよ」
その声には、部下としての気遣い以上の、ひたむきな熱が含まれているような気がした。
流れるような動作で皿を並べ、トースターから小気味よい音と共に焼き上がった食パンを取り出す彼。
「すごっ…高瀬君、料理できたんだ……」
「まぁ、そこそこです。うちは母親が忙しくて、ガキの頃から自分の分は自分で作ってましたから」
「そこそこ」なんてレベルじゃない。
ホテルの朝食を彷彿とさせるような美しい焼き色のオムレツに、色鮮やかなサラダ。
手際よく冷蔵庫からドレッシングを自作するための材料を取り出す姿は
まるで見慣れた自分の城にいるかのように馴染んでいる。
「コーヒー、ブラックですよね? 今淹れますから、座っててください」
淀みのないエスコートに、私はただ頷くことしかできない。
昨日までの「頼りになる後輩」という枠組みが
この数時間で音を立てて崩れ、もっと近くて、もっと特別な誰かに塗り替えられていく。
「……先輩?」
不意に名前を呼ばれ、思考の迷宮から引き戻される。
いつの間にか目の前まで来ていた高瀬君が、心配そうに顔を覗き込んでいた。
至近距離で合う視線。
昨日守ってくれたあの強い腕がすぐそばにある。
急激に意識してしまった私は、慌てて後ろに下がろうとして───ガタンッ!!
「うっ、いたっ……!」
腰をダイニングテーブルの角に強打し、無様な音を立ててしまった。
「っと! 大丈夫ですか?!怪我してませんか?」
「だ、大丈夫…ごめん」
すぐさま駆け寄ってきた彼の手が、私の肩と腕を支える。
布越しに伝わる体温。彼の胸から漂う、柔軟剤と料理の匂い。
羞恥心と高揚感が混ざり合い、私の脳内は警報が鳴り響くパニック状態だ。
(いや待って……私、何キュンとしてるのよ…仕事の後輩なのに…こんなだらしないプライベートを曝け出してしまうなんて…っ)