怜side
「お前なんか、生まれて来なければ良かった!」
そう言われ、殴られる。そんな日々が続いた。ずっと…ずっと。泣いても、笑っても、喜んでも、うるさいと怒られた。だから、感情を表に出さずに生きてきた。いつの間にか、自分が分からなくなり、感情がほとんど無くなってしまった。
その感情が出てくるのは、小説を読んだ時だけ。登場人物と自分を重ね合わた時だけ。だから、悲しいや、苦しいと言う感情ばかり。ずっと、ずっと、その感情に、支配されているようだ。そんな時に出会ったのが、彼女…早苗だった——-。
早苗が、ちゃんと笑うようになった。楽しそうに。昔のことは、克服してきているようだった。俺は、もう、自分が居なくても、大丈夫だって、思った。本当に、いらない子になったと。だから、早苗に手紙を書いた。最後に、早苗にだけは、知ってほしかったから。
部活を無断欠席し、俺は、昔の逃げ場所に向かった。ここは、崖があって、落ちるのには良いところだから。俺は、本気で、自殺しようと思っていた。でも、崖を目の前にすると、足がすくんだ。怖いと、久しぶりに思ったのだろう。前に、進めなかった。
それから、どのくらい経っただろう。気がつくと、日没の少し前になっていた。誰かの足音が聞こえる。
「怜!」
振り向くと、早苗がいた。
「早苗…どうして…」
「あんな手紙を読んだら、探さざるをえないよ。」
「そうか。」
あの手紙か…書かなければ…いや…今からでも…遅くないか…。早苗に、悲しい気持ちをさせてしまうけど…
「ねえ、怜…そこは、危ないから…。」
「早苗…もう、決めたから。」
「ダメ!どうしてもって言うなら、私も…」
「本気か?」
「本気。」
ああ…早苗は、まだ、生きていてほしいのに…これは…やめたほうが…いいな。
「ああ…分かったよ。こっちに来い。早苗。…………もう少しだ…。」
もう少しで、日没。この天気なら、見れる。
「何が?」
「ほら。」
夕焼け。今日は、真っ赤だ。
「帰るか。」
「そうだね。」
俺が消えたら、悲しむ人がいる。だから、もう少しだけ、生きていようかな。
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