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#ドアマットヒロイン
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二番手。
愛妾。
その言葉を聞いた瞬間、自分の中で何かが音と立てて壊れたのが分かった。王族というのは他国であろうと、その考えの根本は変わらないのだろう。
ただジルベール様が変わっていただけ。そして他の王子はそれを良しとしなかった。
第四王子アウジリオを救った恩人。
別に見返りがほしかったわけじゃない。助けられると思ったし、ジルベール様の兄君だから動いた。だから歓迎してもらって当然だとも考えていなかった──でもさすがにこの扱いはないんじゃない?
ムッとした表情をするれば、相手は更に苛立った顔で私を睨んだ。
「まさか正妻にでもなれると本気で思ったのか? だとしたらずいぶんと浅はかだったな」
「……そう思えたのなら謝罪します。しかしいきなり現れて挨拶も無しに淑女の手を掴んで罵倒というのがこの国での作法なのですか? それとも王族なら何でも許されると?」
落ち着いて話さなければ──そう思いながらも相手の発言に対して、思わず言葉を返してしまった。不敬かもしれない。それでもここまでのことを初対面で言われるほど酷いことをした記憶はないわ。
「ふん。許可なく王城に入り込んだくせによくもそんなことを」
「許可なら得ていますわ。……ですが、望まれないのなら出て行きますし、今後二度と王城に出入りしません。これでいいですか?」
そう言いきると少しだけ怯んだが、「分かっているのならさっさと去れ」と手を離してさっさと去ってしまった。どこまでも自分勝手で人の言い分も聞く耳をも立たない。祖国の王族よりも手ひどい歓迎ね。
周りに使用人や侍女がいても誰も庇おうともしなかった。ジルベール様に仕えている侍女や護衛騎士ですら立ち尽くしたまま。まあ、王族相手に下手に出れば自分に火の粉が付くもの。
元平民の女を守る価値なんてないのでしょうね。
ジルベール様に会うべきだろうけれど、姿も見せないってことは忙しいのか。あるいは状況が変わって先ほどの王子に追い出すように頼んだのかもしれない。周囲に仲良しアピールをしつつも、私が他の王子の顰蹙を買ったことでジルベール様に縋るしかない状態にする──とか。見事なマッチポンプではないか。
振り返ると護衛騎士も侍女もガゼボにいなかった。それがここでのやり方で、答えなのだと思うと少し前まで浮かれていた自分が嫌になる。
「……帰ろう」
そう思って踵を返した瞬間、立ち止まる。
帰る?
どこに?
この国のどこにも居場所なんてないのに。
祖国にだって帰るつもりなんてなくて出てきた。
「──っ」
でも王城にはもっといたくない。
試作中だったけれど、転移魔法を使って王城から離れた。あまりにも惨めで、馬鹿だった。
どうして一瞬でもこの世界で、ヒロインのような展開になるかおしれないなんて勘違いしたのだろう。
「ほんと馬鹿みたい」
信じて裏切られるのなんて慣れているのに、思った以上にジルベール様との時間は楽しかったのだと笑ってしまった。ジルベール様に本当に私のことをどう思っているのか。聞いてから去るべきだったのかもしれない。でもそれが事実だったとしたら、たぶん私の心は壊れるだろう。
私個人ではなく、私の持つ知識と経験と技術がほしいと望むのなら、望み通り世界各国に私の持つ技術を渡してしまおう。おそらく数年で「希代の天才魔導具技師」を超える天才が溢れかえることで、私の価値は暴落して誰も興味を持たない。
次の目的は「希代の天才魔導具技師ロゼッタ」を社会的に殺すことだ。
***
転移魔法は成功して、私は王都のホテル区域に降り立つ。ドレス姿は目立つので素早く仕立屋に入って、ドレス一式を換金して裏口から出させて貰った。
その後はセキュリティを考えて高級ホテルにチェックインしたが、あまりよく覚えていない。
「やってしまった……」
ベッドに突っ伏してようやく安堵した。王族に結構な大口を叩いてしまったし、ジルベール様に何の相談もなく王城から出てしまった。デサンティス侯爵の養女になったというのに、そちらにも迷惑を掛けてしまっただろう。
「憂鬱だ」
あの時はそれが最善だと思っていた。けれど今考えれたらもっと慎重になるべきだったかもしれない。少なくとも侯爵家に養子になるのを延期するなど手があったはずだ。
「ううん、そうなったらこの国に来るのがもっと遅れたはず……。とりあえずデサンティス侯爵家にだけでも手紙を送っておこう。あと王都を離れることになるとしたら図書館だけは行っておきたい……」
「にゃう?」
ポケットの中から猫が飛び出してきた。いつの間に。
「あなた、見ないと思っていたらポケットの中で寝ていたのね」
「にゃう!」
ゴロゴロと甘えた声を出すのはなんとも可愛らしい。付いてきてしまったのならしょうがないが、ちゃんと返さなければならない。
そう思いつつ少しだけ目を瞑った。
**第五王子ジルベールside**
ロゼッタが王城から姿を消した。
そう聞いた時、真っ先に教会の仕業だと思った。
レフコス教会の上位神官のヴィリバルト・クルーグハルト、あの男は危険だ。ロゼッタに執着していることはすぐに気付いた。だからこそ警戒していたし、注意を払っていた。
無理矢理連れて行かれたのなら、取り戻すまでだ。そう息巻いていた。そう息巻いていたのだ。イグリット兄様の話を聞くまでは。
第三王子のアウジリオ兄様の部屋に向かうと、イグリット兄様は正座して床に座っていた。しかもかなり殴られたらしく痣だらけだ。すでに色々やらかしたのだろうことは察した。
「イグリット兄様、ロゼッタが消えたというのは!?」
「それが……だな。青い髪だったので……アディール嬢とロゼッタ嬢を間違えてしまって……」
「はあああ? 傲慢令嬢とロゼッタを見間違えた!?」
「すまん。それだけではなく、かなり失礼なことを言ってしまった」
「は?」
デサンティス侯爵当主アルフレード、その娘のミレイアに殴られた後らしい。うん、私も後で殴ろう。
「すまん、じゃないです。彼女に何を言ったのですか!? ロゼッタを泣かせたら兄様でも絶対に許しません!」
「その……だな。お前ごときがジルの妻になれると本気で思っているのか、国のためであったとしても精々二番手──愛妾が限度だろうと言ってしまった」
その発言を聞いて目眩を覚えた。侯爵とミレイアが思い切り殴った理由がよく分かる。よりにもよってロゼッタにそんなことを言ったのか。
頭に血が上るほど腹が立った。血管が切れるんじゃないかってほど全身の身体の熱が上昇しそうだ。
ロゼッタが一番言われたくない言葉。
傷が癒えない間に、心を抉るような言葉をイグリット兄様が吐いたときに、どうして私はその場にいなかったのか!
「二番手。彼女は妹に婚約者を奪われ、その上二番目でも愛してくれるとか思っていたクズで、祖国の王子も正妻は無理だが何番目かの妻なら──と申し出があったと報告が入っている」
「──っ」
「私が彼女に頼み込んで王城に来てほしいと言ったんだ。絶対に辛い思いをさせない、幸せにすると、衣食住だけじゃない、安全も保証すると! その信頼を……裏切ってしまった」
イグリット兄様に腹が立つと同時に、約束を何一つ守れなかった自分が情けない。だが後悔は後だ。まずはロゼッタの行方と安全を最優先にしなければ、本当に彼女との約束を違えてしまう。
「それでロゼッタは転移魔法を使ったと?」
「ああ」
イグリット兄様はことの重大さにようやく思い至ったのか、更に凹んでいた。だが今は放って置く。それよりも大事なのはロゼッタだ。
「イグリット兄様を庇うつもりはないけれど、ロゼッタと一緒に居た侍女と護衛騎士が別の場所で縛られて発見されたんだ」
「!?」
国王陛下の発言で事態はさらに深刻化していく。つまりイグリット兄様にロゼッタをぶつけたのが偶然ではなく意図的に契約された可能性が浮上したのだ。
王侯貴族かあるいは教会か。
王城が必ずしも安全とは言えなくなった。
「その後の足取りは?」
「影に追跡させて王都の高級ホテルにいることが分かっている。今のところ外部の接触はない」
それを聞いて少しだけ安心した。きっと彼女のことだ今後のことを考えて行動する指針を早々に立てるだろう。
「それにしても短時間でよく見つかりましたね」
「……気付いていないのか?」
父上はとても残念そうな顔で私を見つめた。他の兄妹も同じ反応だ。何故に。
「お前の幻獣猫がロゼッタ嬢と一緒にいるからだ」
「あ」