話が終え、世間話に入ったところで、寝室のドアがゆっくりと開いた。
「ん 、一虎くん 、?どこ、?」
まだそんなにも経っていないはずなのに、彼は起きてしまったんだ。
「お。もう起きたか。千冬こっち。」
一虎くんはもう慣れてしまっているのか、そんな事もう気にしていない様子。
「もう起きたって、まだ2時間もたってねぇだろ?」
「千冬の睡眠時間はそれよりも本当は少ない。
睡眠障害 、不眠症 なんだ。」
「あれ、誰かいるんですか?」
先程とは全然違う様子で彼はこちらに近づいてきた。
さっきのことが嘘のように、夢のように。
「なんでみんないるんですか??」
彼はヘラヘラとした様子で俺らがいることに疑問を持った。
一虎くんに目線を向けると彼は小さく首を振った。
「なんとなくで来たんだ。悪いな。」
空気を読んだドラケンくんは大人の対応をして、にこりと微笑みながら千冬に優しい嘘をついた。
「いえいえ!!全然!!」
「今日は機嫌がいいのな?」
一虎くんはほっとした笑顔で千冬を見つめていた。
「うんっ!!」
一虎くんは千冬の頭に触れ、優しく撫でた。彼は安心した顔で良かったと呟いた。その姿を見れただけでなんだか心の何かがほろっと落ち、安心感に包まれた。
その日の千冬の腕には 、赤い痣が出ていたのを忘れない。
「いつか」
そんな声が小さく聞こえてきて、目を開け隣を見つめると、
いつも隣で寝ている彼の姿が見えなかった。
「千冬、?」
時計は午前3時を指していた。こんな真夜中でも、彼は起きているんだ。寝室のドアに目をやると、光が差し込んでいた。
「…千冬??」
むくりと起き上がり、その光はリビングの方からだと確信した。ゆっくりドアを開け、リビングに目を向けると、それは、美しい姿が脳内に焼き付いた。
彼は何か作っているようだ。でもその表情がとても、美しいほどに愛おしい。
「いつか、いつか、」
何を作っているのか彼の姿で見えないが。彼の横顔に見とれていた。
「いつか、晴れますように 。」
彼はマフラーを編んでいるように見えた。
彼の頬には少しだけほんのりと赤く、まるで、我が子を見つめる母親のように見えた。
話しかけにくかった。その姿が今初めて目にしているのだから。
「千冬、」
俺は彼の名前を小さく呟き、目から涙が出ていることに気づかなかった。
「一虎くん喜んでくれるかな。」
その一言で胸いっぱいに嬉しくなった。千冬がひとりで何かを作っていること。
千冬が俺のために編んでくれていること。
千冬が、あんなに美しい表情をしていること。
全て嬉しかった。
そんな夢、ないのに 。
いつも通り、6時に目を覚まし、隣に目線を向けると、いつものように千冬は俺を見つめていた。
「おはよ。千冬。」
そう彼の頭を撫でると彼はきょとんとした顔で俺を見つめていた。
あれもまた夢なんだ。あんな夢ばかり見るんだ。
俺が描いた理想の世界に過ぎない。
そんなこと現実で怒るはずがない。
布団から起き上がる時、千冬は俺の裾を掴んだ。
「ん。どした。」
彼に優しく問いかけると、彼は何故か頬を赤く染めた。
「ぁ、の、俺、」
彼が上手く言葉が話せないことを知っていた。だから俺は話をしっかり聞いて、理解できるように頭で考えて理解したければならない。
しかし今日の彼の言葉の様子は何かおかしい。
「俺、頑張っ、たんです、一生懸命、
作ったんです、」
彼が手に持っていたのは、夢に出てきたマフラーだった。そのマフラーを見て、涙を流した。
「いや、でしたか、?」
「ううん、すっげぇ嬉しいわ。」
あれは夢じゃなかったんだ。じゃぁ、あの美しい顔も、現実のものだったんだ。
なんて嬉しいものだろうか。言葉な言い表せない。
「夢見てぇだ 、」
あぁ 、これも夢なんだろうか。夢なら早く覚めて、
千冬の傍に行かないと。彼はひとりでいちゃダメなんだ。
でもどうやら、これは夢では無いらしいな。
だって、こんなにも、嬉しいんだから。
夢と感じないくらい、現実味があるから。
でももし、夢なら、あいつの傍に行かなきゃ。
「一虎くん、」
「ごめんなさい 、」
「ごめんなさい 、」
「もう自由でいいから、」
はっとして目を開けると、隣に彼の姿は見えなかった。
「千冬?」
彼の名を呼んでも彼からの返答は戻ってこなかった。
彼のいたはずの場所に手を置いても、温もりは感じなかった。違う場所で寝ているのか。とリビングや、他の部屋を探すも、彼の姿は見当たらず、
玄関を見ると彼の靴がなかった。
まさか。俺は玄関の扉を開け、周りを見渡すも彼の姿は見当たらなかった。
自由って、どういうこと。
「千冬、待ってって、嘘だろ?」
俺は頭を抱えて千冬に電話をした。すると、なんと繋がったんだ。
「千冬!!!お前どこいんだよ!?」
「外にいますよ。」
「外のどこだよ!?ていうか、ひとりでどっか行くなよ!?」
「俺は大人ですよ。」
「大人とか関係なしにお前の病気が!!」
「俺は、大丈夫です。」
「そういう事じゃねぇ!!」
何度言っても伝わらなかった。なんでわかってくれないんだ。お前は、!!
「ひとりでだって、」
「あの子と根に持ってんのか、?
だったらごめん!!俺が悪かったから!!
戻ってきてくれ!!」
「… なんで?」
彼の冷静な声で、冷たく、冷えきった言葉が俺を突き刺した。
「なんでって、、」
「俺は 、」