テラーノベル
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――仕事終わり、会社近くで彼――七瀬広睦が待っていた。
いるだけで絵になる、悔しいけどやっぱりかっこいい。ちょうど夕暮れがあの日の結婚式の帰りに似てる。ベンチで私が荷物を取りに戻ってくるのを待っていてくれた。あの時の気持ちが少し蘇って、首を横に振って振り払った。
会ってみないとわからない。話してみないとわからないのはこういうことだろう。“21歳学生の男の子”彼の情報だけだとプロフィール見ただけで却下。でも、実際見ると容姿的なことはさておき、一緒に話すと楽しいと思える時間を過ごせたりする。
「お疲れ様。腹、くくれましたか? 」
腕組みをして首を傾げて来るから、私もやんわり睨む。
「どうせ、私がうんと言うまで諦めないんでしょ」
「まぁね。ご飯行こう。今日は泊まろうなんて言わないから」
「……うん。そうね」
パワフルな音楽が流れるアメリカンカフェは私たちがどんな話をしようと周りには聞こえそうもなく。その煩さが逆に心地よかった。
私はチキンの乗ったライスにホワイトソースがたっぷりかかっているプレート。彼はガーリックライスにビーフステーキが乗ったもの。サラダにはポテトチップスが添えられていた。店内は若い男性が多い。
「すごいボリューム」
「だね。ガツンと食いたい時にね。友達とよく来る」
運動部に所属している学生が選びそうな店だ。
「こういうの食べるの久しぶり。カタカナメニューばっかりで何が来るのか不安だったけど、美味しそう」
「いや、何かわからなくて頼んだのかよ。確かにスマホオーダー見にくいよな」
「うん。ホワイトソース好きなの。そこに頼った」
七瀬くんは私を見て笑ったあと「いただきまーす」と手を合わせてガーリックライスを口に運んだ。
「うま」
大きな一口が熱かったのかハフハフ口の中で冷ましている。可愛い。そっと水のグラスを彼の方へ勧めた。
「どう、食えそう? 」
私には合わなかったか心配してくれてるらしい。
「うん。美味しいよ」
「そう、こっちもうまいよ。食べて、肉食って」
「え、お肉はいいよ」
「そう言わず。せっかくなんだし」
言われるまま端の方をそっとすくおうとすると私のスプーンにせっせとライス、その上にステーキ一切れを乗せた。“食え”とばかりの視線に口へ運ぶ。大口開けることに恥ずかしいけど、食欲そそるガーリックの香りが広がる。……そして、噛み応えのあるステーキがアメリカンな感じがする。
「……おいし」
至近距離で見つめられると、自分の姿が気になって仕方ない。鏡を出して口に何かついていないか、前髪は変じゃないか、ファンデはよれていないか、アイラインは滲んでいないか。異性と出かけた時に、浮ついた緊張感がずっと続く感じ。そうだデートするってこんなんだったな。
「俺も、そっちもらっていいですか? 」
「あ、いいよ。どうぞどうぞ。こっち食べてないからソースたっぷりのとこがっつりいっちゃって」
くるりプレートを回して差し出すと、ふっと笑う。前髪を片手で書き上げると顔寄せる。
「あ」
口を開けて待つ。
「え? 」
「ああ。もっとデカイ口開けなきゃな」
大口開けて間抜けなはずの顔さえ、かっこよくて……え?
「まだ? 」
「あ、ごめん」
急いでホワイトソースたっぷりの美味しそうなところをすくって口へと運ぶ。
彼がスプーンを口に入れた瞬間、ぶわっと体温が上がった。いや、何を素直に食べさせてあげてるのよ、私。
「じじじじ自分で食べなよ」
「はは。ね、ソースついてない? 」
「だだだだだ大丈夫」
そっか、ソースとかはついてない?って相手に確認してもらえばいいのか。って出来るかぁ。
「春美さん、豪快に口に入れてくれるんだもん」
……確かに。何も1回で口に詰め込む必要は無かったのに。
思いっきり動揺してしまった。
私が食べきれなかった分は広睦くんが食べてくれた。気持ちいい食べっぷりで、頼もしいなぁなんて見てる自分の視線が成長を見守る親戚のおばちゃんみたいで勝手に微妙な心境になってしまった。いいじゃないの、別に。
フードとセットの二層になった何かわからない炭酸ジュースで動揺した身体を冷やしていた。お腹が落ち着くと、会話が途切れて二人横並びでストローをもてあそんでいた。
「春美さん」
「は、はい! 」
不意を突かれてビクついてしまった。
「春美さんて、結婚したい人でしょ」
「……うん。ごめん」
「いや、まだ何も言ってないし。謝るのやめてくれます? 」
「あ、ごめん……」
七瀬くんは顔をしかめ、それでも私を見据えていた。
「まただよ。ねぇ、俺は結婚考えてるよ。何が問題」
ここは遠まわしに言っても仕方なくて、感情抜きで話さなきゃならない。私もちゃんと視線を合わせた。
「学生の『結婚しよう』がほとんど実らないこと、現実味が無いこと。結婚は一緒に生活するわけだから、やっぱりあなたの結婚はリアルじゃないんだよ。結婚って結果はどうあれ一生の、伴侶を探すわけでしょう」
「結婚への認識が軽いってこと? 問題は俺の認識は軽いことじゃなくて、軽いって思われてるってことだ。前と同じ」
「そうだよ。前に同じことしてるんだから今回は余計慎重にいかないといけないんじゃないの」
「慎重にいってるさ。だから春美さんを選んでるんですよ。結婚についてちゃんと考えてる人を」
「いや、そうじゃないでしょう、あなたは。あなたは今から同年代の相手と出会って、恋をして、じっくり愛を育んで3年くらい付き合ってお互い仕事も慣れた頃に結婚する。そうするのがいいんだよ。何も学生時代から相手が年上だからって結婚なんて考えなくていいの。あなたは何もかもこれからなの」
言いながら思った。私の理想の結婚ってこうってこと。私は叶わなかったけど、この子はまだ間に合う年だ。
#婚活
西原衣都
587
#りらのコンテスト
コメント
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みぅ🤍🥀です、こんばんは。 第22話、読み終わりました…このエピソードの“食べさせる”シーン、すごく心に残りました。春美さんの「じじじじ自分で食べなよ」からの照れ、すごくリアルで可愛い。でも、その後に「そっか、ソースとかはついてない?って相手に確認してもらえばいいのか。って出来るかぁ」って悟るところが、もう…胸がギュッてなる。恋愛ってやっぱりそういう小さな戸惑いの積み重ねなんだなって思いました。 あと、七瀬の言葉「結婚についてちゃんと考えてる人を選んでる」って台詞、重い。彼が本当に本気で見ているんだなと感じられて、もっと深く知りたくなりました。春美さんの「私は叶わなかったけど、この子はまだ間に合う」の諦めがまた切なくて…。でも、そういう場所から少しずつ変わっていく物語が好きです。続きが気になります。