今日もいい天気だ。
そう思い、ベッドの近くにある
窓を開けようとした。
が、ベッドの近くに窓は無かった。
それどころか内装が随分と変わっている。
もしかして私、
寝ぼけて違う人の家で寝ちゃった?!
そう思い、私は急いで1階に降りる。
そうして目に映ったのは全く知らない
内装のリビング。
しかも何だかお店みたいだし。
「どうしよう..」
そんなことを呟きながら辺りを見渡していると、
ふと近くのカウンターに置いてある看板が
目に映る。
「風景サイダー…」
看板には『風景ジュース・風景サイダー売ってます』と書いてあり、
私はあることを思い出した。
「もしかして今日って、私の家がお店のイベントってこと?」
ってことはもう開店時間なんじゃない?!
時計は今ちょうど6:00を回ったところだった。
「開店時間って何時だっけ..」
「あ!!魔法本!!」
魔法本。
イベントで自分の家がお店の際は
必ず置いてある説明書のようなもの。
バタバタと慌てながらカウンター近くを探すと、
「あった!!」
引き出しの中に分厚い本が入っていた。
そして、近くにはメニュー表のようなものも
置いてあった。
『風景ジュース・サイダー店《取り扱い書》』
<風景ジュース・サイダーの作り方>
①風景保管庫から風景ビンに保管し、持ってくる。
②それぞれにあった材料と混ぜ、
サイダーやジュースを入れる。
③それぞれにあったデコレーションを施して完成。
「風景保管庫…?」
キョロキョロと周り見渡していると、
近くに冷凍室への扉のようなものがあった。
『これかな..』そう思い、
中に入るとドアが沢山あった。
色や形が全く違うドア。
しかも相当な数があった。
「もしかして..結構大変なやつ..?」
「あ、てか開店時間..」
そう思いながら魔法本を見る。
と、開店時間は10:00のようだった。
「あと4時間しか無いってこと!?」
早く準備しなきゃ..!!
てかこっちがお店側ってことは
ライくんとスイくん達はお客さんとして
来るってことだよね?
もしかしてこの前言ってた親御さん達も
来るんじゃ…
失敗しないようにしなきゃ..
そういえばメニュー表見てなかったな..。
魔法本の横に置いてあったメニュー表。
中には意外と難しそうなものばかり
書いてあった。
・・・
Menu 10:00〜16:30
・森林ジュース(380)
・夕焼けオレンジ(570)
・水面サイダー(340)
・日巡りソーダ(570)
・海雲ビール(480)
・月夜の星々ソーダ(540)
Menu(裏) 18:00〜24:00
・青空ムーン(1700)
・氷塊岸のカクテル(2500)
・雪原のトズマタ(1500)
・夕焼けカクテル(2400)
・秘密のカルーアミルク(2300)
・ミエールミルク(1700)
・・・
「全くわからん…」
そう。
私はお酒の知識など全くない。
それに、お酒はあまり得意では無い。
でもこれ作るってことは味見大事だよね..
誰かプロ居ないのかな..
そういえば近くにバーがあった気が…
こんな真昼間にやってるかな..
分からないけどとりあえず行ってみよう。
ここだよね..
小洒落た雰囲気のバー。
どことなく心に懐かしさを感じる。
「すいません..」
カランカランという音と共に
私は店内に足を踏み入れる。
「お客さん、今はまだ開店していませんよ」
と真っ白なカラスに言われる。
慌てて私は
「違っ、あの相談があって..」
と言う。
「相談?」
「今日、私の家がイベントの─────」
「なるほど..」
「それで私に手伝いを頼もうと思って来たんですね」
「そうです..」
「そういえば開店時間はいつなんですか?」
「それが10:00からでして..」
「あと4時間後に..」
「じゃあ私は色々準備してから向かうので、先に行ってもらってもいいですよ」
『じゃあお言葉に甘えて…』
そう言おうと思ったが、
この人って私の家の場所知らないよね..
どうするんだろう。
「..何かまだ用でも?」
「いえ、あの..」
「あぁ、あなたの家の場所ですか?」
「大丈夫ですよ、陽葵さんの噂は沢山出回ってるので」
そう言われ、少し安心する。
そういえば前もそんなこと言ってたな。
「えっと風景ジュースとサイダーの作り方は…」
私は早速、
風景ジュースとやらを作ってみることにした。
魔法本には『風景ビンで風景をすくってくる』そう書いてある。
が、風景ビンの居場所が分からない。
「ここかな..?」
「違う..,じゃあこことか..?」
そう独り言を零しながら探すが、
全く見つからない。
「も〜!!どこにあるのさ!!」
そう怒りを呟きながらしゃがむ。
と、目の前にビンのようなものが目に映った。
「ぁ、あった!!」
まさかのカウンターの下にあるとは…
私はビンを持って、
冷蔵庫横にあるドアを開ける。
「えっと..森林の風景は…」
よく見るとドアには『青空』や『海』などの
風景名が書いてあるようだった。
「森林..これだ!!」
案外近くにあった森林のドア。
真緑色のドアだった。
ガチャリという音と共にドアを開けると、
先は草木に包まれた大自然だった。
「うわぁ..すご..」
私は目的を忘れつつ、思わず景色に見とれる。
「ぁ、」
「風景をすくいにきたんだった..」
ビンの蓋を開けて、
空中で掬うような動作を行う。
と、手に持っていた蓋が勝手にビンに
覆いかぶさった。
瞬間、ビンの中には森の風景が入りこんだ。
「こんな風になるんだ..」
そう感動しつつも、
時間が無いことを思い出す。
風景保存庫から戻ってくると、
「あ、陽葵さん」
「居なかったのでこれ、読んでましたよ」
そう言いながら白鴉さんは魔法本を指す。
「飲み物と風景の掛け合せですか..」
「中々、面白い案ですね」
そう言いながら白鴉さんは微笑む。
「じゃあ私は午前中は、ホールと会計をします」
「作るのはお願い出来ますか?」
「1人じゃ大変かもしれないですけど..」
確かに大変かもしれない。
だけど、
この世界のお金はよく分からないから、
そんなこと言ってる場合じゃないのかもしれない。
「いえ、それで大丈夫です」
「では、午後はカクテル作りと..」
「会計やってみますか?」
そう提案され、
少しやってみたいという思いが芽生える。
「やってみてもいいですか..?」
「じゃあバーが開店するまでの時間に教えますね」
「ありがとうございます!!」
風景は何度掬っても、
風景が薄くなるとかは何も無かった。
それに、ビンも沢山ある。
ということは、
沢山掬って置いておけるということ。
「いっちょやりますかー!!」
そう声を荒らげ、
ビンを沢山抱えて風景保存庫に戻る。
オレンジ色のドアを開けた先には、
暖かい雰囲気の夕焼け空があった。
水色のドアを開けた先には、
透き通った綺麗な湖が一面に広がっていた。
白色のドアを開けた先には、
海雲が広がっていた。
藍色のドアを開けた先には、
何個もの星が夜空から流れ落ちている
景色があった。
黄色のドアを開けた先には、
眩しく光る朝日の景色があった。
全ての風景を10ビンずつ、
すくった私は白鴉さんのところに戻る。
と、
「陽葵さん、こちらは..?」
そう言いながら黒色で仄かに中が透けている
ビンとミニサイズのトングを私に見せた。
私ははてなマークを浮かべながら
「なんでしょう..」
と呟く。
もう1度メニューを確認しようと思い、
上から順に読んでみた。
すると、
日巡りソーダの流れ星チップが必要らしい。
「星々が必要なんですね..」
白鴉さんはレシピを覗き込みながらそう言う。
「もう1回行ってきます!!」
私がそう大きな声で言うと
「行ってらっしゃい」
と優しげな声で応えてくれた。
なんだか家族みたいで気恥ずかしい。
星々チップは1番奥の黒色の
ドアを開けた先にあった。
ドアの先には沢山の流星群が降り注ぐ
風景があり、真っ暗闇でただ星が光っている。
そんな風景が広がっていた。
白鴉さんのところに帰るとカウンターの上には
宝石のような何かが散らばるように乗っかっていた。
「これは..?」
私が不思議そうに聞くと
「お金ですよ」
と白鴉さんは笑顔で答えた。
「そういえば陽葵さんの前の世界のお金の単位は何でしたか?」
「円です」
「それなら簡単です!」
簡単…?
「この水色の宝石は1つ10円に値するものです」
「じゃあここで問題。130円の飲み物を買いたい時、宝石は何個必要ですか?」
1つで10円なら..簡単だ。
「13個ですよね?」
「正解です」
「次に、こちらのガラス玉」
カウンターに置いてある紫色のガラス玉。
「こちらは1つで1000円ほどの価格です」
1つで1000円..?
「高くないですか!?」
びっくりして大きい声を出してしまった。
しかも白鴉さんの耳元で。
申し訳ない..
「じゃあまたここで問題」
「2560円のネックレスを買いたい時、ガラス玉と宝石はそれぞれ何個必要?」
さっきよりも難しい..けど、
「ガラス玉2個と56個の宝石..?」
「正解!」
「飲み込みが早いですね」
そう話しているうちに、
時間はもう開店間際だった。
「そろそろお客さんも来るんじゃないんですか?」
そう言って白鴉さんは扉を開く。
と、目の前に長蛇の行列が並んでいた。
「私のバーでもこの数は見たことないですよ..」
「きっと皆さんも陽葵さんのことが気になるんですよ!」
白鴉さんはあまりの数で不安になっている
私に励ますようにそう言った。
「いらっしゃいませー!!」
そう私は最初のお客様に告げる。
最初のお客様はスイくんとライくんだった。
しかもライくんの後ろには
ライくんお母さんとお父さんらしき人も居た。
「陽葵!!来てやったぞ!!」
「あなたが陽葵さん?こんにちは」
「こんにちは!!」
「ほら、あんたも挨拶しなさいよ!」
そう言いながらライくんママはライくんパパの背中をバシバシと叩く。
「…こんにちは」
小さく低い声で呟くように言う。
「こんにちは!」
私がそう返すと天井に頭がつきそうなくらい
大きいライくんパパはポリポリと
頬をかくような仕草をした。
「ごめんなさいね..無愛想で..」
「いえ、大丈夫ですよ!」
申し訳なさそうにそう言うが、
なんだか家族共々、仲が良さそうに見える。
あ、それよりカウンターのところで
話し込んだら他のお客さんも入って来れないよね。
そう思っていると
「ニクスさん、ハュイさん、そろそろ座りませんか?」
「他の人たちの迷惑にもなりそうだし..」
そうスイくんが言ってくれた。
なんともイケメン…
「あ、そうよね!!早く座りましょ!」
「ご注文は何にしますか?」
早速白鴉さんが注文を聞きに行く。
そうしているうちにもどんどんお客さんは
店内へと転がり込むようにして入ってきてる。
正直、こんなにお客さんが来ると思ってなかった。
「陽葵さん、夕焼けオレンジと水面サイダー1つずつです」
そう言いながら白鴉さんは
カウンターに注文用紙を置く。
「はい!」
私はそう言った後、
カウンターの奥にあるキッチンへ向かった。
最初は..夕焼けオレンジから作ろうかな。
まずは丸くて小粒な氷を4つほど。
次に大きなミカンを丸ごとコップに入れる。
次にたっぷりとオレンジジュースを注ぐ。
最後には.. 。
「ビンから夕焼けを注いで..」
「出来た!!」
そうして出来上がった夕焼けオレンジ。
飲む度にゆらゆらと氷と太陽のような
ミカンが揺れる。
自分で言うのもあれだけど、
案外上手くいった。
次は水面サイダー。
普通のサイダーに水面の風景を注ぐ、
一見シンプルなサイダー。
まず初めに長細いコップに氷を2つほど。
次にシュワシュワぱちぱちなサイダーを
たっぷりと入れる。
そして最後に水面の景色を注ぎ込む。
「完成!!」
そう言いながら私はカウンターの上に
完成したジュースたちを置いていく。
と、白鴉さんが順に運んでくれた。
本音を言うのならライくんたちのところに
行って感想を聞きたいところだけど、
今はそれどころじゃないっぽい。
ドアの前にはお客さんが並んでいる。
しかも先程まで空席だったテーブル席は
全て埋まっていた。
次々とカウンターには注文用紙が置かれていく。
次の注文は日巡りソーダを3つと
森林ジュースが1つ。
日巡りソーダはメニューの中で唯一
不思議な飲み物だった。
1口目は朝日ジュース。
2口目は夕焼けオレンジ。
そして最後は流れ星のシャンパン。
というように景色が変わり変わりする
1品となっている。
森林ジュースは森の匂いを楽しみながらも
メロンサイダーを味わうことが出来、
爽やかな気分になれる1品となっている。
早速作っていこう。
まあるくて大きなコップに、
凍らした冷たいフルーツを沢山入れる。
氷は入れず果物だけ。
次に魔法のサイダーをたっぷりと注ぎ込む。
これが無いと日巡りソーダは成り立たないからね。
仕上げに『流れ星の風景』『夕日の風景』
『朝日の風景』を順に入れる。
と
「完成!」
次は森林ジュース。
コップに凍らして氷の中に閉じ込めた
ミントを入れる。
そして味の濃いメロンソーダを注ぎ込む。
最後に森林の風景を注ぎ込んだら..
「完成!!」
カウンターに置くと同時に白鴉さんは
次の注文用紙を置いて、
それを運んで行ってしまった。
手際が良すぎる。
次の注文は海雲ビールと
月夜の星々ソーダを1つずつ。
海雲ビールは子供用のビールで、
アルコールは入っていない
ノンアルコールのもの。
そして月夜の星々ソーダは2
種類のぶどうジュースがオーロラのように
混ざり合い、パチパチと弾ける星々キャンディが特徴。
最初は海雲ビールから作っていこうと思う。
海雲ビールのグラスは少し特徴的であり、
クープ型のような飲み口が広いグラスとなっている。
そんなグラスにアップルサイダーを注ぐ。
次に、海雲となる泡を飾りつける。
この泡はさっぱりとした綿菓子で出来ており、
妖祭りで食べたオバケ菓子と少し似ている。
相違点はオバケ菓子は一瞬で溶けるが、
この泡は溶けずに残り続けるという点。
しかし、いつまでも残っているわけではなく、
ただ単に溶けるのがとても遅いため、
『溶けずに残っているように見える』という
だけである。
その泡に海雲の景色を少し降りかける。
そして最後に、さっぱりとした味わいである
メロン味の山を浮かべて完成。
ぷかぷかと山が海雲に浮かんでおり、
リアルさがより際立つ。
次に月夜の星々ソーダを作っていく。
月夜の星々ソーダのグラスはフルート型である長細いグラスを使う。
そこに小さいブロック状の氷を何個か入れる。
次に2種類のぶどうジュースを注ぎ込み、
夜空で星々が光っている風景をも注ぎ込む。
最後に星型のチップをパラパラと入れると
完成。
星空の風景をバックに星型チップが
仄かに光っていて本物の星のように見える。
オーロラの中で光る星々がとても綺麗だ。
気づけば午前のジュース屋さんは
閉店の時間になっていた。
「陽葵!!明日感想言うからな!」
そう言ってライくんたちはお店から出ていく。
他のお客さんたちも皆、笑顔で店を後にした。
「陽葵さん!大成功ですね!!」
白鴉さんからそう言われ
「正直あんなにお客さんが来ると思ってなかったです..」
と苦笑いしながらそう言う
「私も驚きました」
「まさかあんなに来るなんて…今までで見たことないですよ!」
物珍しそうに言う白鴉さんが
何だか子供のようで可愛く見えたのは
気のせいだろうか。
「バーは18:00からなので休憩してていいですよ」
「分かりました!」
そう言いながら私は白鴉さんに店番を任せ、
店を後にした。
とはいえ、することは特にない。
そう思っていると何だか遠くに人が
沢山集まってるのが見えた。
「何だろう..」
気になって近づいてみると、
そこには人間のようで人間では無い何かが居た。
1人は頭がカメラのようで身体は人間のよう。
もう1人は警察官のような姿だが、
手足や顔が無い。
まるで透明人間のような…
そんなことを思ってると周りの人達は、
その2人の人に物を投げたり、罵り始めた。
私は何だか見ていられなくなり、
「やめてください!!」
そう言って私は2人の手を引っ張って
その場から離れた。
少し経ってからハッとする。
「ぁ..手、ごめんなさい!!」
そう言うと少し間が空いてから
「怖くないのか?」
と頭がカメラの人に言われる。
「へ?何がですか?」
「俺らのこと」
「お前の周りの奴らは俺らを気味悪がってただろ?」
確かに、みんな怖がってるというより
気味悪がってるようだった。
獣人じゃないから嫌なのかな?
私はそんなことないけどな..。
だってこういう人って異形頭って言うんだっけ?
獣人も異形頭も人間の私から見て
そんな変わらない気がするし。
「別に怖くないですよ?」
そう私が言うと頭がカメラの人の
表情が何だか和らげになった気がした。
「ニンゲン、名前はなんだ?」
さっきまで口を開かなかった警察官の格好を
した人が急にそう言い、思わず驚いてしまう。
「ぇ?えっと..」
「佐藤 陽葵です..」
と縮こまりながらそう言うと
「俺はロゥタルだ」
「ロゥタルさん..」
「あなたは?」
「俺に名前は無い」
「適当にカメラとでも呼んでくれ」
「じゃあカメラさんで!」
そう私が言ったと同時にカシャリという音と
共にカメラさんがシャッターを切る。
「どうしました?」
「いや..何でもない」
そう言いながら顔を逸らす。
私何か嫌なことでもしちゃったのかな…
「俺らこっちだから、また会えたらな」
そう言ってカメラさん達は、
森に入って行った。
妖祭りに行く際に通ったあの不気味な森に。
ふと懐中時計を見ると針は18:00に近い頃だった。
「やばっ!!早く戻らなきゃ!」
そう言いながら私は慌ててお店に帰る。
「遅くなってすいません!!」
バタンという扉の大きな音と共にお店の中に入る。
「全然大丈夫ですよ」
少し笑いながら白鴉さんはそう言う。
準備をしている最中に、
もう時間は18:00になっていた。
開店したと同時にカランカランと、
そんな音と共に誰かが入ってくる。
「ロュオさん、今日はこちらでバーをやってるんですね」
そう言いながら真っ白な毛並みのオコジョが
カウンター席に座る。
「モネカさん、今日もいらっしゃったんですね」
「今日は陽葵さんがカクテルを作ってくれるんですよ」
そう言いながらさり気なく白鴉さんは
私を紹介した。
「陽葵さん?あぁ..噂の転生者さんね..」
そう言ってモネカさんは私の顔をジロジロと
見る。
なんだか気恥ずかしい。
「じゃあ夕焼けカクテル、くれるかしら?」
「今作りますね!」
夕焼けカクテル。
材料はほぼ夕焼けオレンジと変わらない。
違うのはシャンパンが入ってるということ。
アルコール度数は10度。
さっき作ったからだろうか。
なんだか早めに完成した。
「どうぞ」
そう言ってモネカさんの前に夕焼けカクテルを置く。
と同時にまた、お店の扉が開いた音がした。
来たお客さんは、異形頭の人達だった。
「あ、居た居た〜!!」
そう言ってその内の一人が私に近づいてくる。
「陽葵ちゃんでしょ?」
「カメラくんから聞いたよ〜!!」
頭はランタンのようなものだった。
「陽葵さん、知り合いですか?」
嫌そうな顔をしながら白鴉さんは私に問う。
「さっき知り合って..」
「異形頭なんて関わらない方がいいわよ」
「面倒なことになりかねない」
ゴクリと夕焼けカクテルを1口飲みながら
モネカさんが忠告する。
そんな一言のせいか、辺りには重い空気が漂う。
「迷惑なら帰るけど..」
そんな空気の中、カメラさんがボソリと呟く。
でもせっかく来て貰ったのに…
「じゃあ個室とかどうですか?」
「じゃあそれで」
少し黙った後、カメラさんが返事した。
カメラさんたちを個室に案内して帰ってくると
「異形頭とはあんまり仲良くしない方がいいですよ」
と白鴉さんに言われ、
「大丈夫だと思いますよ」
と答えると白鴉さんは微妙な顔をした。
またもやカランカランと誰かがお店に来る。
やって来たのは白狐と白虎の獣人だった。
「ロュオさん!!ここに居たんですね」
「てっきり今日はバー休みかと..」
「あら?あなた陽葵ちゃんじゃない?」
「ぁ..初めまして..」
私がそう言うと
「よろしくね〜」
「私の名前はミレロよ」
「こっちは友人のムュルツ」
そう言いながら白狐のミレロさんは
ムュルツさんの背中をバシバシと叩く。
とても痛そうだ。
「早速、何飲もうかしら〜」
「青空ムーン」
ミレロさんが迷ってる中、
ムュルツさんは何の迷いもなくそう言った。
「じゃあ私もそれで〜!!」
青空ムーン。
晴れの日の朝空に薄く見える月のような
アイスが浮かんだカクテル。
カクテルの中でもアルコールが低く、
お酒が弱い人にオススメな一品。
アルコール度数は7度。
まず始めに、フルート型のグラスに
真っ青なシャンパンを注ぐ。
このシャンパンはレモンのように爽やかな
味わいが特徴。
その中に凝縮した濃厚なアイスを浮かべる。
そして最後に朝の青空の風景を注ぎ入れる。
「どうぞ」
そう言いながらミレロさんとムュルツさんの
前に置く。
「陽葵さん、異形頭達の方行ってきていいですよ」
そう白鴉さんに言われ、
「分かりました!」
と私はお言葉に甘えて行くことにした。
扉の奥にはカウンター席に座った
カメラさんたちが居た。
この個室の部屋は小さくて少し狭いバーの
ようになっている。
「陽葵ちゃん!!待ってたよ〜!!」
そう言いながらランタンさんは私に手を振る。
「何飲みたいですか?」
私がそう言うと
「俺は氷塊岸のカクテル!!」
「僕はミエールミルクで」
「カメラさんは?」
「青空ムーン」
「わかりました!」
氷塊岸のカクテル。
売ってるカクテルの中で1番アルコール度数が高いもの。
アルコール度数は20度。
早速作ろう。
そう思ったが風景をすくっていなかったようだ。
「すいません!!風景すくいに行ってきます!!」
そう言って私は部屋を後にした。
その時にランタンさんの
『行ってらっしゃい〜』という声が
聞こえた気がした。
そういえば青空ムーン用の風景も
ムュルツさんので最後だった。
一応全部のカクテルの風景も取ってこよう。
青空ムーンの風景は朝空の月。
朝空の部屋は特殊だ。
見渡せば見渡すほど、沢山の月が空にある。
だから1つすくっても無くなることは無い。
次は雪原。
少し寒いが、我慢すればどうってことない。
真っ白な雪原。
遠くまで行ったら戻って来れなくなりそうだ。
次は氷塊岸の地。
ドアを開けた瞬間、冷気が私を襲う。
ゴクリと唾を飲み、
意を決してドアの奥に足を進める。
途端、チクチクと針のような痛みが体に広がる。
寒い。
寒すぎる。
私は急いで風景をすくい、
異形頭さんたちの部屋へ帰る。
一瞬しか入ってないのに、
私の手には氷がついていた。
手の感覚があまり無い。
凍ってしまったのだろうか。
「陽葵ちゃん、おかえり〜」
「ただいまです!」
気を取り直して早速、
氷塊岸のカクテルを作ろう。
「ぁ、陽葵ちゃん」
「何ですか?」
「アルコール度数を30に出来る?」
「30度ですか?!」
出来なくは無いけど強すぎない?
大丈夫かな…
「追加料金かかりますけどいいですか..?」
「全然構わないよ!」
「じゃあ30度にしますね..」
まず始めにシェイカーにレモンジュース、
氷酒、30度のお酒を入れて振る。
が、さっき凍った手が痛む。
「手どうしたんですか?」
と天球儀さんが私にそう言う。
「さっき風景すくいに行く時に凍っちゃったみたいで..」
そう言うと
「早く言ってよ!!」
「怪我残っちゃうじゃん!!」
とランタンさんはそう言いながら私の手を
自身の顔に当てた。
「あったかい..」
「でしょ?」
最初は驚いたが、心地よい温もりが手全体に
広がった。
「こんくらいかな」
「ありがとうございます」
その時カメラさんから何やらカシャカシャと
連写しているような音が聞こえた。
「えっと…」
「気にしなくていいよ」
そう言いながらランタンさんはカメラさんの
顔を両手で塞ぐ。
気を取り直して、
シェイカーからグラスに出来たカクテルを
注ぎ込む。
最後に氷塊岸の風景をグラスに入れたら、
完成。
「出来ました」
そう言ってランタンさんの前にカクテルを置く。
「ありがとね〜」
次はミエールミルク。
これはお酒というより、ジュースに近い。
カルーアミルクよりアルコール度数は低くて、
オプションでノンアルコールにも設定可能。
「天球儀さん、ノンアルコールにしますか?」
「いいんですか!?」
「はい」
「じゃあノンアルで」「分かりました」
きっとお酒が弱い人なんだろうな。
まず始めにミキシンググラスにコーヒーと
ミルクを入れてかき混ぜる。
そうして出来上がったものをグラスに入れる。
次にはちみつをたっぷりと入れ、
最後に温かな風景を注ぎ入れる。
元々ミエールミルクに風景は無かったのだが、
急遽追加した。
温かな風景を入れたことにより、
ミエールミルクが仄かに光っているように
見える。
「どうぞ」
そう言って天球儀さんの前に置く。
「わぁ..」
キラキラとした目で見ている天球儀さんが
何だか子供のように見えた。
そして最後に青空ムーンを作り、
カメラさんの前に置く。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
気づいた時にはランタンさんは飲み終わっていた。
「ぇ..,大丈夫ですか?」
「何が?あぁ..俺お酒強いから全然平気だよ〜」
お酒が強いっていう言葉にも限度がある気が…
まぁいっか。
気にしてたらキリがない気がするし。
「てなことで〜」
「氷塊岸のカクテル6つ追加で!!」
「え?」
「あとあと〜、夕焼けカクテル3つとカルーアミルク3つも!!」
そんなに?!
「あ、僕も..」
「青空ムーン5つとミエールミルク1つ追加で..」
お酒弱いんだよね?
大丈夫かな…
ランタンさんは大丈夫だと思うけど…
本当に全部飲んだ…
口をぽかんとしていると
「雪原のトズマタ」
とカメラさんがそう言う。
「今作ります..」
天球儀さんはいつの間にか酔いつぶれて
寝ているようだった。
雪原のトズマタは氷塊岸のカクテルと
そんな作り方は変わらない。
まず始めに氷塊岸のカクテルと同じく、
シェイカーにレモンジュースとお酒と氷酒を
入れて振る。
そしてグラスに注ぎ込み、
グラスの縁には塩をまぶす。
最後に真っ白な雪原の景色を注いだら完成。
それをカメラさんの前に置く。
が、一向に手をつけない。
「どうかしたんですか?」
そう聞くと、少し黙った後
「明日、暇ですか?」
と聞かれる。
「明日ですか?」
明日は特に用事はないけど…
「空いてますよ?」
「じゃあ俺たちの住処に来て欲しい」
異形頭さんたちの住処?
きっとあの不気味な森のことだよね。
なんだか気になるし行ってみようかな。
「行きます!!」
そう私が元気よく返事すると
「待ってる」
と言いながらカメラさんは優しい声で
呟くようにそう言った。
「もう帰るな」
「ありがとう」
そう言って個室から出ていくカメラさんたち。
私もそれについて行く。
来た!!
お会計の時…
白鴉の方へ戻ると、
もうモネカさんたちは居なかった。
「モネカさんたち帰ったんですか?」
「少し前に帰りましたよ」
「そちらもお帰りになられるんですか?」
「はい」
「じゃあお会計は陽葵さんよろしくお願いします」
「そろそろ私は帰りますね」
そう言って白鴉さんは逃げるように
帰ってしまった。
「なんか俺たちのせいでごめんね?」
「いえ、大丈夫です!!」
「めっちゃいい子..」
そう呟きながらランタンさんは
私の頭を撫でる。
えっとお会計…
すごい数字だけど大丈夫かな…
そんなことを考えながらチラチラと
カメラさんたちの方を見る。
「えーっと…」
「合わせてガラス玉が47 つ、宝石が48つです…」
「あ、そうじゃんお金両替しないと..」
そう言って天球儀さんは誰かに電話をかける。
少し時間が経った後、
「両替スズメです!!」
「両替してもいいですか?」
「どうぞ!!」
と、カバンを背負った小さなスズメが
飛んできた。
私が物珍しそうに見ていたからだろうか。
「これはね両替スズメって言うんだよ」
「電話をかけたらどこへでも来てくれる便利な鳥だよ」
と教えてくれた。
「そうなんですね!!すごいです..」
「これでいいですか?」
と天球儀さんは私にガラス玉47つ、
宝石48つの丁度の数を渡した。
「丁度ですね..」
「ありがとうございました!」
そう私が言うと
「また明日ね〜!!」
そう言ってランタンさんたちはお店から
出ていった。
急に静かになる店内。
店内はこのままにしておいても朝になれば
勝手に片付いてくれる。
なんて便利な世界なんだろうか。
それより私、異形頭なんて物語に
描いてたっけ?
色々考えたりしたかったが、
眠気は私を許してくれなかった。
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1万文字えぐい...