「……私になんか構わなくたって、あなたには思い通りになるような女性は、たくさんいるはずですよね……」
「たくさんいることと、その女性を自由にしたいと思うこととは、別問題です」
自分を睨む視線を捕らえながら、抑揚もなく物静かな口調で話すことでしか、心を撹乱して湧き上がる、怒りとも悲しみともつかないようなない混ぜの感情を抑えつけることができなかった。
けれど、そんな風に抑え込んだ感情が、彼女の憤りを買う羽目になって、
「……愛なんか、ないくせに……!」
感情的な言葉が投げつけられた。
「なぜ、ないと思うのです?」
何もわかり合えない虚しさだけがつのる。
「……愛なんか、感じられません…あなたには……」
じっとこちらを見返す彼女から、そう言い放たれて
心の奥で、何かがぶつりと切れるようにも感じた──。
「心外ですね…」
こぼれてしまった本心に、顔の半分を片手で覆った。
そうして隠さなければ、今にも嗚咽が漏れてしまいそうだった……。
「心外って、そんなわけないですよね?」
耳鳴りがするようで、彼女の声もよく聴こえはしなかった。
何も応えられずにいると、
「……だって、そんなわけもないでしょう?」
言葉が重ねられた刹那──
「……君に、私の何がわかると言うんだっ……!」
もはや抑え込むことすらもできなくなった感情が、口をついて迸った。
感情的な自分を自身で受け入れることもできないまま、
「……帰りなさい」
と、彼女を促した。
これ以上彼女といれば、醜態を晒してしまいそうな気がした。
誰にも知られたくはなかったはずなのにと……私には、母と同じように愛情がないことを……。
愛情がないと見抜かれたことも、我を忘れて感情的になってしまったことも、
全てが赦せずに、ただ苦しくて、
独りきりになると、アルコールを瓶ごと浴びるように飲んで、
止められない涙を流した……。
コメント
1件
母親から愛されて育っていないから、人を愛する事ができないって悲しすぎる。