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──彼女を家から帰した後も、胸の内で燻り続けるわだかまりを、なんとか揉み消そうとしてみたが、眠れなくなるような夜がかさんで行くばかりで、
数日が経った手すきの診療の合間に、彼女を呼び出した──。
「……何でしょうか?」
相変わらずな浮かない表情を見せられて、
「……ドアを閉めて、私のそばへ来なさい」
そんな言い方をすれば、また怯えさせることをわかりながら、
「……閉めなければ、外に声が漏れますが、それでもいいのですか?」
彼女の前では、そうして自らの胸の内を押し殺して、わざと無慈悲に徹することでしか対応ができなかった。
「……困りますよね? 聞かれたくはないことが漏れたりしたら……」
言いつのると、苦い表情を崩さないままでドアを後ろ手に閉めた──。
「……なんの、用なんですか…?」
座ったイスを後ろへ引き距離を取るのに、彼女の警戒心が窺える。
「……今日は、来院の方があまりいないので、あなたと話をとも思いまして……」
せめて警戒だけでも取り払うことができればと、何気ない風を装いそう切り出した。
「話なんか、ないはずですが……」
「相変わらず、強情な言い方をされるのですね…」
こちらの気遣いを少しは知ってくれないのかと、自分勝手な考えが浮かぶと、
持っているペンで、つい神経質に机の端を叩かずにいられなくなる。
一体どうしたら、彼女の気をこちらに向けさせることができるのだろうかと思い余って、
「……笹井さんは、そんな風にはしませんでしたよ……」
昨夜の出来事を振って、引き付けようとした。