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アリエールは緊張しているようだ。

いつも執務室には、アリエールと秘書のマリアがいるだけだ。シノは、光輪祭の三回戦の準備があるとかで、最近は滅多に執務室を訪れない。

「代表、どうかしたんですか?」

マリアがコーヒーカップをデスクに置きながら尋ねる。

と言うのも、溜息をついてみたり、貧乏揺すりをしたり、立ち上がって窓の外を数秒見て、首を傾げながら部屋の中を歩いている。その様子は、落ち着きのない子供のようだった。

「う、うむ……」

歯切れが悪い。アリエールは眉を顰めると、また溜息をついた。

「それほど気になるなら、明鏡に連絡を取ってみては如何ですか? 管制室にいかずとも、代表のシグナルブックならば連絡くらいは取れるはずですよ」

「やっぱり、連絡をとった方が良いと思うか?」

ズイッと、アリエールは駆けるようにマリアに近づいてくると、鼻先を合わせるように顔を近づけてくる。

「え、ええ……」

勢いに押され、マリアは頷く。

「よ、……よし、マリアがそう言うなら仕方が無いな。うん、仕方が無い」

椅子に腰を下ろしたアリエールは、シグナルブックを取り出すと、ホログラムウィンドウを立ち上げた。そして、いくつかキーを叩くと、明鏡へ呼び出しが掛かった。

マリアは、邪魔にならないように、アリエールの後ろへと移動する。

数コールの後、『あいよ』と、軽いノリの声と共に男性の顔がホログラムとして浮かび上がった。

「おう! アリエールじゃねーか! マリアちゃんも久しぶり!」

呼びかけられ、「お久しぶりです」と、マリアは頭を下げた。マリアとは対照的に、アリエールは固まっている。

ジンオウ・スメラギ。天ノ御柱の一振りを持つ彼が明鏡に行っているという話は聞いていたが、まさか直通の通信に出るとは思わなかった。それは、前方に居るアリエールも同じなのだろう。面食らったアリエールはまだ一言もしゃべってはいない。

「どうした? アリエール? 俺に用事じゃないのか?」

「…………あ、ああ……、ジンオウ、そこにいたのか」

咳払いを一つ。ピンと背筋を伸ばしたアリエールは、澄ました表情を取り繕い、普段の冷たい眼差しをホログラムのジンオウに向ける。

「おう、今は俺がここに住んでいるからな」

「住んでる? 今は? そこに住んでいるのは、乙姫と護衛だけだろう?」

アリエールが胡乱な眼差しをジンオウに向けるが、ジンオウは何処吹く風で顎の無精ひげを指先で撫でた。

「ああ、俺の泊まる場所は明鏡にはないからな。ホテルらしいホテルもないから、此処で厄介になってる」

「貴様、まさか乙姫に変な事をしていないだろうな?」

「変な事?」

とぼけた表情を浮かべるジンオウ。その後ろに可愛らしい女性が顔を覗かせた。

「アリエール! 元気にしていましたか?」

「乙姫!」

乙姫だ。マリアも殆ど見たことがない明鏡のトップ。未来を読む未来視の巫女だ。マリアは知らずにうちに腰を折って礼をしていた。

「構いません、マリア。これは、プライベートな通信です。そうでしょう、アリエール?」

「え、ええ、まあ……」

「プライベート? ああ、なるほど俺の顔が見たかったか?」

「はぁ! バカか! 誰がお前の顔など見たいものか! 用事が無ければ、お前の顔など見たくない!」

アリエールが大声を上げながら、デスクを両手で叩いた。

「何だ? 昔の男の顔は見飽きたか?」

「貴様! 昔のことを口にするなとあれほど言っただろう!」

風の噂程度だが、昔、学生時代にアリエールとジンオウは付き合っていたと聞いたことがあった。彼女の反応を見る限りでは、噂は本当で、余程悪い分かれ方をしたのだろう。

「もう一度聞くぞ! お前! 乙姫に変な事はしていないだろうな?」

「アリエール、変な事って、一体なんですか?」

彼女も十八歳だ。もちろん、アリエールの言葉の意味は知っているだろう。知っている上で、ジンオウと一緒にからかおうとしているのだ。知ってか知らずか、アリエールは乙姫の言葉をまともに受け、顔を真っ赤にしている。

「お、乙姫、君はまだ知らなくて良い。それよりも、ジンオウには気をつけろよ、そいつは獣だからな」

キッとアリエールは睨み付ける。

「おう、俺の野性味を一番よく知っているは、他でもないお前じゃないか。お前も、あの時は獣のように鳴くくせに――」

プッツと、突然通信が切れた。一瞬にして、ジンオウと乙姫の映っていたホログラムが消失する。ジンオウの言葉が言い終わらないうちに、アリエールがシグナルブックのスイッチを切ったのだ。

「………………」

「………………代表、肝心なことを何一つ聞いていないのでは?」

「………………」

耳まで真っ赤にしたアリエールは、コクコクと頷く。


それでも世界は 輝いている

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