扉を開けたオスカーの真後ろには、シルバーグレイの髪を綺麗にアップにまとめた、上品そうな初老の女性が立っていました。
「こちらの方はどなた?」
私がオスカーに尋ねた時でした。
「お母さん……?」
女性が私を見た途端、まるで幽霊でも見たかのような顔になり、それから大粒の涙を流し始めました。
お母さん。
そう私を呼ぶ人は、世界でただ一人だけ。
私は、自分の中にいるたった一人の記憶と、目の前にいる女性を照らし合わせました。
そこで気づきました。
皺があり、体型も随分とふくよかになっておりましたが……目元など、私の記憶の中にいる愛しい我が子と瓜二つであることに。
「母さん!どういうこと!?」
オスカーは、初老の女性に尋ねます。
「この子が持ってきたケーキを食べた時……まさかと思ったわ……でも、あの味は忘れるなんてできない……。やっぱりお母さんだったのね……」
そう言うと、初老の女性は私に抱きついてきました。
「シャリー……なの?」
「ええ、そうよお母さん。シャリーよ……!ああ……会いたかったわ……!」
これは一体、何のいたずらでしょう。
「シャリー?……私の事……分かるの?」
シャリーを産んだその日から、私の体は時を止めました。
一方でシャリーは、年相応に成長し、老いております。
きっと他の人からは、まさか私とシャリーが母娘の関係性だと気づくことは難しいことでしょう。
「わからないはずないでしょう……?だって、私のお母さんですもの。こうしてお母さんの世界一美味しいケーキがまた食べられるなんて……夢みたい……!」
シャリーは、見た目こそ変わってしまいましたが、目をきらきらさせながら、私のお菓子を褒めてくれる優しさは、ちっとも変わっておりませんでした。
そこで気づきました。
オスカーが持ってきたパイが、何故懐かしい味をしたのか。
そしてオスカーがどうしてオリバーに似ているのか。
それでいて、私の心が、決して先に進んではならないと警告していたのかを……。
「シャリー……この男性はもしかして……あなたの息子……?」
私は、顔面蒼白な顔で私を見ているオスカーにとって残酷な質問を、シャリーにぶつけました。
シャリーはこくりと頷き
「ええ、お母さん。あなたの孫よ」
その一言が、どれだけオスカーにとって重いものだったのか。
「嘘だ……嘘だ嘘だ……!!」
オスカーは、後退りをしたかと思うと、走ってどこかに行ってしまいました。
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