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「あなた自身浮気をされてはいませんか?」
「あなたこそ弊社の購買部の者と恋仲にあられたのでは?」
「件の調査報告からはそう挙がっています」
「公平な第三者視点で見ても、奥様が離婚を考えるのも合点がいってしまいます」
一般論と正論でリュカに言い包められ
言葉を失う純也
そして
私たちの間には
再び重苦しい沈黙が訪れる
しかし
話はそこで終わらなかった
「……で、水川さんは早朝から何故ここへ?」
(え?!)
何故そんなことを聞くのだろう
そう思った
そこに
何か違和感を感じ
はっきりとは掴めないが
何らかの意図を感じ
リュカの意図を汲もうと
必死に思考を巡らせる——
「……」
「揉めてたのもあって家に居づらくて……」
いや違う
これじゃない
この言葉では何の意味も成さない
この感じ
答えがある気がしてならない
「……」
「実は真剣に離婚を進めてまして……」
「家に居場所がないものですから、ここで離婚届をと……」
私は
おもむろに鞄を漁ると
先程記入を終えたばかりの
離婚届をテーブル上に出した
「ただ……未だ保証人欄と夫の記入欄が埋まっていなくて」
「もし話を聞いてご理解頂けるようでしたら、保証人としてご署名頂けませんか?」
私は
咄嗟にこれだと思った
表向きは
今まで誰にも相談できず
純也と私の間のみの
閉鎖的な状況という体裁を保っている
まさに今
その経緯を聞き及んだ公平な第三者が
納得の上で保証人として署名する
それも純也の面前で
この事こそが意味を成すと
直感的にそう思った
「……わかりました」
「いや、待てよ!何勝手に話進めてんだよ」
「失礼ですが、あなたは不倫をされていました」
「それは調書を見る限り確定的です、その裏付けがあります」
「この際、弊社が損害を被った不正については触れませんが……」
「ご自身が浮気をされているにも拘わらず、奥様を悪者にしようとするのは筋が通りません」
「あなたこそ充分な慰謝料を以て償い、奥様が望む離婚に応じて差し上げるべきではないでしょうか」
「私の個人的な意見だけではありません」
「この離婚問題がもつれ、法廷に上がれば責任を問われるのは旦那様の方ですよ」
リュカはそう言うと
完全に口が止まった純也を尻目に
離婚届の証人署名欄にペンを走らせた
「これで宜しいですか、水川さん」
「す、すみません、ありがとう御座います」
「お手数お掛けしました」
黙ったまま俯いてしまった純也
ソワソワとバツが悪そうに
今にもこの場を離れそうな純也に
追ってリュカが言葉を投げかける
「旦那様は署名されないのですか?」
「まだ応じられないおつもりですか?」
「お二人夫婦の事ですから、私が善悪の判断をするつもりはありません」
「ただ、償うべきものは償い、ケジメをつけることは必要ではないですか?」
「そうでないと、いつまで経っても人生は先へ進めませんよ」
この場を抜け出そうとした折に
リュカの言葉で足を止められた純也
リュカのあまりに真っ当な言葉と
私とリュカの視線が純也に突き刺さる
そして
人もまばらな静かな店内では
聞き耳を立てていた何人かが
チラチラとこちらを眺め
成り行きを注視している
それらが
高圧的な重圧となり
白日の下に晒された純也に
重く圧し掛かる——
***
「おはようございます~」
寝ぼけまなこで
フラフラと給湯室へやって来た伊藤さん
「……ん?」
「おやおやおや~」
「水川さん、また何か良いことありましたか?」
「おはようございます、伊藤さん」
「何もないですよ」
「ふぁ~い、まだ眠いのでそういう事にしておきます~」
あの後
最終的に純也は離婚届に署名した
圧を掛ける格好になってしまい
罪悪感に苛まれるも
今朝の流れが無かったら
きっと純也は渋り続け
責任を私に転嫁しながら言い包め
離婚届に署名することはなかっただろう
何か悪い事をしたような気分が抜けない
それでも
今までの私なら決して成し遂げられなかった
それだけの事をやり切ったのだ
そんな達成感を感じる一方で
私は
未だ実感が湧かないでいた
その日私は
伊藤さんとも
神崎さんや小山田さんとも
昼食を共にせず
昼食も摂らずに
冷めやらぬ内に昼食時に役所へと足を運び
そして
私はついに
離婚届を提出した——
臣桜
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BrownSugar
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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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コメント
1件
読了しました…! リュカの正論が純也を追い詰めていく流れ、すごく引き込まれました。 「償うべきものは償い、ケジメをつける」って言葉が胸に刺さります。 達成感と罪悪感が混ざる主人公の心境、めちゃくちゃリアルで…でも、ここまで辿り着けたのは本当に大きな一歩だと思います。 離婚届を出した後の余韻、どんな風に続くのか気になります😌💭