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ルティが言うことの意味が不明だったが、何とか彼女を正気に戻せた。そして見計らうようにして、空間だった場所が外へと変わりだす。
「試練の方は大丈夫かね?」「アックさん。ウチらアグニの民は、あなたを歓迎するよ」「おぉ、どうやら無事に解決しなすった」などなど、村全体でおれを試していたようだ。
どうやらここが神族国家ヘリアディオスの始まりの場所らしい。
炎の壁で守られていた村の家、家畜や畑も見えている。村人は普通の人間に見えるがそう見せているのか、あるいは。
「こやつらは、人族であり神族に近しい民たちだぞ」
周りを気にしていると、アグニが姿を見せた。
「一応聞くが、ルティを何とかするのが試練だったのか?」
「おぬし、どうして顔が赤くなっている? 何かしたのかの?」
自分では気づけずにいたが、口づけの余韻が残っていたか?
「ふむ? そやつがドワーフの娘かの? 魔族の渦に入らされ幻を受けていたのでおぬしの試練相手にしてもらったぞ」
「紛らわしい真似をしてくれるものだな。解決出来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「それくらい出来ぬようでは神族らに認められぬぞ? その点、われは遊び心で試す優しさが備わっているから良いものを! ましてこの先の風や氷らは遊びを知らんからな」
「……まさかと思うが、属性ごとに村があるのか?」
炎の壁によって強制的に連れて来られたが、火の属性一番が優しいとは意外だ。
「ふむっ! そのまさかぞ」
「おれはフィーサを元に戻すために目指していただけだ。悪いが、ここに試練を受けに来てない」
アグニの村が神族国の入り口だとしたら、一体どれだけの時間がかかるのか。そもそもフィーサが剣のまま戻れないからここに来ただけなのに、試練を受けておれに何の得があるというのか。
「……もう遅いぞ? われはおぬしに遊びであっても試練を与え解決させた。われの炎はアックを認めたぞ。精霊魔法を使うおぬしの魔法は相当に強くなったはず。炎だけ得られても、すぐに帰すことはないぞ?」
ルティと戦わせたのはやはりコイツの遊びだった。うかつに石に近づくべきじゃなかったか。
「宝剣と一緒に訪れただけなのに、勝手に属性の試練が始まるのか?」
「ふむっ。遅かれ早かれではあるな。それほどのスキルと魔力を持つおぬしを普通に歓迎するはずもないぞ!」
フィーサが人化出来なくなったのも神族の仕業のようだ。
魔石ガチャで宝剣を引き、成長をもさせたおれに興味でも持ったのか?
「アック様~? さっきからどなたとお話をされているのですか?」
近くにいて何も気にしていないように見えていたのに、ルティは何も知らずにいたようだ。それなら教えておいた方がいいだろうな。
「火の神アグニだ。神族のな」
「あわわわ!? か、神様ですか!? 小さいのに!」
「小さいは余計だぞ! 火に近しいドワーフ娘め」
「は、はいい~! ごめんなさいです!!」
何かを感じ取ったのか、ルティはその場に膝をついて頭を地面に擦りつけている。神と知っての行動なのか強さを知ってなのかは不明だ。
ルティが火山渓谷から来ていることもアグニはお見通しのようだ。だからこその遊びでルティを利用したんだろう。
「それはそうと、フィーサはどこにいる?」
「あの子ならば光の所にいるぞ。だが、おぬしは光の所には行けぬだろうな」
「……何故だ?」
「簡単なこと。アック・イスティにはまだその資格が無いからの」
「資格? 火の試練は解いただろ?」
どういう意味の資格なのか。
魔力、力、体力……それとも、属性?
「あぁ、おぬし。手を出すがよいぞ!」
「……う?」
「鈍い男め。手と言ったら、手だぞ! 早くしろ早く!!」
「あ、あぁ……」
まるで駄々っ子だ。あれこれ言うと怒りそうなので、ここは黙って手を差し出す。
「違うぞ! 魔石を持つ手の方!」
「じゃ、右手か」
「われからおぬしにするのは、これだぞ!」
「……っ! な、何をする!?」
右手を差し出したら手の平に何かを押し付けられた。そして印のようなものが魔法文字のように浮かび上がっている。
「騒ぐな。これはわれの印章だぞ。火の神アグニの印章なんだぞ! これが付いたことで、おぬしは次に行けるのだぞ。認められなければ外はおろか、国から出られないのだぞ?」
「手の平に印を押したのか? それにしては何も見えないが……」
「おぬしにはすでに炎属性がある。おぬしに見えなくとも、火に近しい者ならハッキリ見えるはずだぞ? そこのドワーフにはハッキリと見えるぞ」
ルティはずっとアグニを崇めたまま微動だにしない。まさか寝ているんじゃないよな。
「ルティ、そろそろ顔を上げてもいいぞ?」
「……スピ~食べられませぇん」
「こらっ、ルティシア! 起きろ!!」
「はいっっ!? え、あれ? アック様、おはようございます~」
さすがルティ……と言うべきか。
「ルティから見て、おれの右手はどう見えている?」
「あれぇ? 手の平に何か……アグニって付いてますよ~? 悪戯書きですか~?」
てっきり炎の精霊か何かが見えると思っていたのに、まさかただのサインだとは。
「われの印章なんだぞ! つべこべ言わずにさっさと風か氷の所に行って来るがよいぞ!」
「そんなつもりじゃなかったのに、行くしかないのか……」
「どこに行くか分かりませんけど、アック様ファイトですよ~!」