テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第6話:もう戻れない距離
恋を自覚してから――1週間。
世界は変わっていないのに。
全部が違って見えた。
「藍音、朝です」
「……うん」
声を聞くだけでドキドキする。
目も合わせられない。
でも。
離れたくない。
矛盾だらけ。
「体調は大丈夫ですか?」
「平気」
指が触れそうになる。
それだけで心臓が跳ねる。
(無理……意識しすぎ…)
学校でも上の空だった。
友達が聞く。
「藍音ってさ、好きな人いる?」
「え!?」
顔が一気に熱くなる。
「い、いない!」
即否定。
でも。
頭の中は一人だけ。
(湊…)
その名前を考えるだけで苦しい。
放課後。
車の中。
沈黙。
耐えられなくなったのは藍音だった。
「……ねえ」
「はい」
「この前のこと」
空気が止まる。
抱きしめられた夜。
名前を呼び合った瞬間。
全部思い出す。
「……忘れて」
自分でも意味がわからない言葉。
怖い。
関係が変わるのが。
湊は少し黙った。
そして静かに言った。
「忘れません」
心臓が跳ねる。
「え?」
「忘れられるはずがありません」
低い声。
真剣な瞳。
「私にとって」
一瞬の沈黙。
「人生で一番幸せな時間でした」
ドクン。
胸が痛いくらい鳴る。
「……藍音」
名前を呼ばれる。
優しい声。
近い。
「貴女はどうですか」
逃げ場がない。
でも。
逃げたくない。
藍音は小さく言った。
「……同じ」
その瞬間。
湊の呼吸が止まった。
「私も」
声が震える。
「幸せだった」
沈黙。
そして。
藍音は勇気を振り絞った。
「……あのさ」
「はい」
「好きって」
胸が壊れそう。
でも止まらない。
「こういうことなの?」
空気が止まる。
次の瞬間。
強く抱き寄せられる。
「……はい」
耳元の低い声。
「そうです」
距離ゼロ。
呼吸が触れる。
「私も」
湊の声が震える。
「貴女が好きです」
世界が止まった。
初めての告白。
心臓が爆発する。
藍音は目を閉じた。
そして小さく言った。
「……私も」
数秒の沈黙。
呼吸が重なる。
唇の距離が近づく。
あと少し。
触れる寸前――
「お嬢様ー!」
ドアが開いた。
「旦那様がお呼びで…って」
使用人が固まる。
二人も固まる。
距離ゼロ。
抱き合ったまま。
沈黙。
藍音の顔が真っ赤になる。
「ち、違うの!!」
(キス未遂)